君に会いにいく


せっかく再会出来たのに、また僕の手からビアンカは連れ去られてしまった。
睡眠薬を混ぜられていた。起きた時には何だか嫌な予感がして夢中でビアンカを探した。グランバニア城の最上階。王と妃のためにあてがわれた部屋を駆けつければ赤子の泣き声、赤子を抱いているのは自分の妻であるビアンカではなく、乳母で。
彼女から告げられたビアンカが攫われたという事実。


ーー救えなかった。
すぐ隣にいるのに、手を伸ばせば届くはずなのに自分の体もビアンカの体も石にされていた。


(ビアンカ…、ビアンカ、ビアンカ…っ!)


オークションにかけられ、僕は金持ちの男に買い取られた。
どんどん離れていくビアンカ。どうやっても動かない石の体。どうすることも出来なかった。


お金持ちの男の家には妻と男の子がいた。
男の子はちょうど自分とビアンカの赤子の年ぐらいだろう。妻とも、子供たちとも離されて石化された自分の目の前で繰り広げられる幸せな家庭。自分にもようやく手に入れられると思っていた暖かい家族。
羨ましい。妬ましい。自分にはもう決して手に入れることが出来ないもの。妻をこの手で抱き締めることも、子供たちを育てることも暖かい家庭を築くことも何一つ自分にはできない。


(壊れてしまえ)


そう願ってしまった。


金持ちの子供は魔物達に攫われた。
勇者を探しているのだろう。自分にはもう関係のない話だった。ただ壊れてしまえ、と願ってしまったことに後悔だけしていた。
あの金持ちに蹴られ、横たわりながらも何年か春、夏、秋、冬が過ぎた。ずっと、ずっと。



気付いたら目の前に小さい足があった。
気付いたら体が温かい何かに包まれた。


「お父さんっ!」


8歳ぐらいの男の子が泣きながら僕のことをそう呼んで抱き着いた。


「君たちが僕の…」


子供。ずっと会いたかった。自分とビアンカで育ててあげたかった子供。
随分と老けたサンチョがおかえりなさい、ぼっちゃんと涙を堪えたような声で言った。


「ただいま、サンチョ」


サンチョの隣で涙をこらえている女の子がいた。


「おいで」
「っ…お父さん!!」


自分の子供、レックスとタバサを抱き締める。
愛おしてたまらなかった。


***


「お母さんってどんな人?」
「城のみんなに教えてもらえなかった?」
「みんな綺麗な人で優しい人だったって言ってた」
「うん!でもね、お父さんに聞いたらいいよって言われたから!」
「サンチョもお父さんはお母さんのこと大好きだったって」
「みーんな言ってた!」


双子の総攻撃に苦笑い。そんなに分かりやすかったかな…。


「確かに綺麗だったし、優しかったよ。お父さんとお母さんは小さい頃の知り合いで、お父さんはその時からお母さんのこと好きだったんだ」
「素敵…」


タバサが目を輝かす。
そんなタバサの様子にレックスは首を傾げた。
どうやら兄のレックスよりもタバサはおませなようだ。


「お母さんはお父さんよりも2つ年上でやたらとお姉さんぶってたんだ。」


小さい頃の僕は何だかそれが気に入らなかったけどビアンカの言うことには逆らえなくてやりたくもないおままごとをやらされたり、理不尽なことも言われたっけ。でもそれだけじゃなくて、字がまだ読めなかった僕のために本を読んでくれたり、怖がりで泣き虫だった僕のためにトイレに付いてきてくれたこともあった。ビアンカは可愛くて強くて僕の憧れだった。レヌール城でのお化け退治でもビアンカも怖いくせに僕を守ろうとしてくれた。
そんなビアンカを守りたいと思うようになったのはお互いに大人になって彼女は自分よりも身長が低く、華奢だということを感じたことかもしれない。
水のリングを見つけるために水門を開けようとビアンカが海を泳いだときはヒヤヒヤした。そして帰ってきたときに服が肌に張り付いて体のラインが見えたときは更にヒヤヒヤした。
フローラさんの話をするたびに、水のリングを見つけたときに悲しげに笑うビアンカを見て胸が締め付けられた。
結婚前夜で眠れないと、フローラさんを選ぶべきだ、自分のことは気にしないで、と力なく笑うビアンカに僕はようやく彼女を好きだと気付いた。
プロポーズをしたときに照れたように笑ったビアンカ、花嫁姿のビアンカ、新婚旅行だと照れるビアンカ、サンチョに会えたとき、僕以上に喜んでくれたビアンカ、子供が出来たと不安げに言うビアンカ。


「えっと、それからお母さんは…っ、」


会いたい、ビアンカに会いたい。


「お父さん、泣いてるの?」
「泣かないで…お父さん、私たちがいるよ…」


気付いたら僕の両目から涙が流れていた。
心配そうに僕の腕に抱きつく2人。
レックスもタバサも今にも泣き出しそうだった。


「ごめん、ごめんね…」


子供たちを抱き締める。
ビアンカ、早く君に会いたいよ。
君を力一杯に抱き締めたい。
そして成長した子供たちを君に見せたい。
子供たちに君たちのお母さんはこんなにも綺麗なんだよと言ってやりたい。


「さあ、行こうか。お母さんを探しに」
「「うん!」」


だから待っていてね。
すぐに君を見つけてみせるから。





(20160820)





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