幸せ

*未来機関設定
*ネタバレ注意


キッチンでカレーを煮込んでいると霧切さんのただいま、の声ですぐにコンロの火を消し、エプロンは付けたままで玄関まで小走りで行く。


「おかえりなさい、霧切さん!」
「…ただいま」


少し疲れた顔をしていた霧切さんは僕の言葉に目を丸くしながらも少し照れくさそうにそっぽを向いてそう答えた。


「晩ご飯、作ってくれてたのね。ありがとう。」
「うん。ボクは今日早番だったし、霧切さん徹夜続きだったから疲れてるかなぁって、」
「ほんと、いい主婦になれるわ苗木君」
「しゅ、主婦って!酷いよ霧切さん!」


少し唇を尖らせてそう抗議すれば霧切さんは口元に手を当ててくすくすと笑った。
やっぱり霧切さんの笑った顔って新鮮で可愛いなぁ。
頬がじわじわと熱くなっていき、霧切さんの体をギュッと力一杯に抱き締める。


「な、苗木君っ…」
「ごめん。なんか、霧切さんにギュッてしたくなっちゃって、」
「…………」


無言で照れてる霧切さんの姿にどうしてボクの彼女はこんなにも可愛いのだろうと疑問に思ってしまった。そもそもボクみたいな平凡なやつが霧切さんと付き合えたことが奇跡だと思う。きっとあの忌々しい事件がなければボクたちはただの同級生のままだっただろう。


「霧切さん…」


霧切さんの小さな桜色の唇に口付けるのを邪魔するようにキッチンタイマーが鳴った。


「苗木君、鳴ってるわよキッチンタイマー」
「うー、」


お腹すいたわとお腹を摩る霧切さんにジッと見つめられてキスすることは叶わなくなってしまった。後でキスすればいい。時間はいくらでもあると自分を納得させる。
うるさく鳴り響くキッチンタイマーを止めて両手鍋の蓋を開けるとカレーの匂いがふわっと広がる。


「今日の晩ご飯はカレーね。美味しそう」
「うん、中辛にしといたけど大丈夫?」
「えぇ。皿を持ってくるわ。」


持ってきてくれた皿にご飯とカレーを盛り、椅子に座る。


「「いただきます」」


霧切さんが美味しい、と一杯おかわりしてくれたことが今日の一番嬉しかったことだ。
ご飯を食べ終わった後は2人でお風呂に入って霧切さんの髪をドライヤーで乾かしながらテレビのバラエティー番組を観る。
こんな何でもない普通の時間が一番好きだったりする。


「明日はお互い休みだし、家でゆっくりしようか。」
「そうね。コーヒーを飲みながら借りてきた映画を観ましょう」


明日の予定を立てたところで霧切さんがふわぁ、とあくびをする。


「もう寝ようか」
「ん、苗木くんは…?」
「うん、一緒に寝るよ」


寝室のタブルベッドに一緒に寝転がる。
疲れが溜まっていた霧切さんはあっという間に眠ってしまったようだ。


(本当に無防備だなぁ…)


そりゃあ付き合ってるんだから当たり前だろうけどボクだって男なんだから…、って、霧切さんは疲れてるんだし、ボクは何を考えてるんだよ。

「おやすみなさい。響子さん」


彼女が起きてる時に下の名前で呼んだらまた照れるんだろうな。もしかしたら霧切さんもボクの下の名前を呼んでくれるかもしれないな。
そんなことを考えながら霧切さんの額にキスをした。


(20160330)


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