どうしてそんなに可愛いの




日向くん、と柔らかく優しい声で呼ばれ、振り返る。七海がジッと見上げてくる。


「どうした?」
「うーん、ちょっとお願いしたいことがあって…いいかな…?」
「あ、あぁ、別にいいぞ」


世間一般的にかなり可愛い部類に入る女の子に上目遣いでそうお願いされたら断ることなんて出来ない。


「日向くんのそのアンテナ…触ってみたいなぁ…」
「へ、な、七海…? アンテナって…もしかしてこれのことか?」


自分の頭部のぴこんと立っている髪を指指すと七海がコクリと頷く。


「ダメ、かなぁ…?」
「い、いやダメじゃないけど…」


七海にキラキラとした目で見つめられるともうこれは黙って触ってもらうしかないだろう。だが、なぜ七海はこんなの触りたいのだろうか。


「じゃあ、触りやすいようにしゃがんで…!」
「あ、あぁ…」


七海が触れやすいように腰を屈める。


「あ、体勢辛いよね。そこのベンチに座ろっか…」


公園にあるベンチに座ると七海がはあはぁと息を荒くして手をわきわきする。男がはあはぁしてたらとんでもなく変質者だろうが七海がやると何だか可愛く見えてしまうのはなぜだろうか。
七海が近づくと座ってる俺の目の前はその…む、胸があるわけで自然と喉がゴクリと鳴る。
俺がそんなことを考えていることも知らずに七海が俺のアンテナ(?)に触れる。


「わあぁ…!意外と柔らかいんだねぇ、これ。メタルスライム並みに固いのかと思ってた!」
「め、メタルスライム!? い、一応髪の毛だぞ…」
「うんうん…。はあぁ…これはクセになる…かも………すー」
「おい寝るなよ」
「ん…、寝てない…と思うよ?」
「そこは言い切れよ」


目だけ動かして七海の顔を見る。とても幸せそうな顔をしていて嬉しいけど何だか複雑な…。


「…それは上目遣いっていうやつかなっ!おぉ…」
「そ、それは違うぞ!」
「あれっ違うの…?」
「いや違わないけど…」


俺は断じて上目遣いしようとは思っていなかっただけだ。


「な、なぁ七海いつまで続くんだ…?」
「うーん…………もっと触っていたかったのになぁ残念…」
「また明日も触っていいから、な?」


ベンチから立ち上がって七海の頭を撫でてまるで子供に言い聞かせるように言った。子供扱いしないで、と頬を膨らませて怒るだろうかという予想に反して七海は気持ち良さそうに目を細めていた。なんだか猫みたいだ。


「うん、ありがとう…!」
「うお!? だ、抱きつくなって…!」
「えへへ…日向くん大好きだよ。」


七海がふにゃりと笑って俺の胸板に頬を擦り付けてきた。自分の顔がじわじわと熱くなっていくのを感じながら七海の後頭部に手を当て自分の胸に押し付けた。んぅ…、と少し苦しげな声が聞こえたけれど今の自分の顔を七海に見せるわけにはいかない。あぁ、でもそうしたら次は鼓動の速さがバレるかもしれない。
そうだ七海が可愛いからいけないんだ。この可愛さは反則だ。
そんなことを考えてしまうあたり、どうやら俺はこの子にかなり弱いらしい。





title*10mm
(20150208)


(8/10)
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