幸せすぎて死にたい



気持ち悪い。視界がぐわんぐわんと揺れる。あぁ、これはもしかして熱でも出したのだろうか。自分の額に手を当ててみるがいつもより熱いのか熱くないのかよく分からなかった。ベッドに座り込んで深呼吸する。このまま眠りにつきたい衝動を抑えてもう一度ぐっと力を入れて立ち上がり汗でぐっしょりと濡れている寝間着を脱いでシャワールームで汗を流した。
カットソーのシャツとズボン、お気に入りのコートを着てコテージから出る。
容赦なくがんがんと照りつける太陽の光に倒れてしまいそうになりながらも朝食を摂ろうとレストランに行く。
希望溢れる皆の邪魔にならないように隅っこのテーブルに食事が乗ったトレーを置いたところで急な立ちくらみに襲われたがテーブルに手を置いて耐える。


「おい、大丈夫か」
「おはよう。日向クン。今日もこんなゴミクズなボクに話しかけてくれるなんて優しいね!」
「そうじゃなくて…大丈夫かって聞いてるんだぞ俺は。」
「うん、大丈夫だよ。課題提出日も近いし、掃除なら得意だから任せてよ。皆のコテージを掃除するなんてボクなんかがやってもいいのか分からないけどね」
「…」


日向クンが眉を寄せてうーん、と考え込む。日向クンは優しい。とっつきにくいと言われて皆からちょっと避けられているボクにも分け隔てなく接してくれる。そうそう分け隔てなく接してくれるのは日向クンだけではなく罪木さんもだ。ボクと罪木さんは少し似ているようでどこか違うけれどたまに話はする。そんなことをボーッと熱に浮かされた頭で考えていると日向クンが罪木さんを呼んだ。
罪木さんがぱたぱたとこっちに来てボクを見るとすぐさま額に手を当ててきた。ひんやりと冷たい手が気持ちいい。ずっとこうしていたい。離れようとする罪木さんの手首を掴んでそのままその冷たい手に頬擦りする。


「ひゃあぁ!だ、ダメですよぉ!」
「はぁ…冷たくて、気持ちいい…」
「ふゆぅ…、は、離してくださぁい!」


顔を真っ赤にしてあたふたとしている罪木さんには悪いけどもう少しこの手を堪能していたい。見かねた日向クンに止められなければボクはずっとそんなことをしてただろう。やっぱり休ませるべきだと判断した日向クンはボクとボクを看病するために罪木さんを休みにしてくれた。
超高校級の保健委員の罪木さんに看病されるなんて……。考えるだけでもゾクゾクしてしまい今にも涎が溢れてしまいそうだ。


「ボクなんかを看病するなんて罪木さんは嫌だよね。ボクも君の嫌がることはやらせたくないけどやっぱり超高校級の保健委員の罪木さんに看病されるなんて凄く嬉しいな。あぁ、でもやっぱり嫌だよね。ゴメン、死んでくるよ。海に飛び込もうかな。そういえば窒息死って…」
「い、嫌じゃないですからちょっと黙っててくださいよぉっ…!」


てきぱきと冷えぴたやら体温計を救急箱から取り出す罪木さんを言われた通りに黙ってニコニコと見つめていたらいきなり罪木さんが目尻にいっぱいの涙を浮かべたかと思いきやいきなり泣き出してしまった。


「ふぇぇぇん!ごめんなさい!怒っちゃいましたよねぇ!?メス豚が調子に乗っちゃってごめんなさいぃぃ!えっと、あの、なんでも言うこと聞きますからぶたないでください…!ぬ、脱ぎますからぁ!」
「いや、怒ってないよ。だから泣かないで。あと脱がないでよ…目のやり場に困るから」


服装が乱れかけていた罪木さんの姿は少し…いや、かなり目に毒だ。ポケットからハンカチを取り出して優しく拭ってあげるとまた、ぶわっと罪木さんが泣き出す。もしかして嫌だったのだろうか。


「わ、私、涙を拭いてくれたの初めてで…う、嬉しくて…」
「…こう言ったら罪木さんに失礼かもしれないけどボクたちって少し似てるかもね」
「え…? わ、私が狛枝さんと…? えへ…うふふ……」
「あれ?罪木さん、もしかして嬉しいの?」
「狛枝さんって凄くいい人じゃないですかぁ。今もこうやってハンカチで拭いてくれましたし、私をいじめないですし…」


頬を少し緩めながらボクの脇に体温計を挟みながら罪木さんが言う。


「うーん、別に当たり前だと思うけど…」
「それが嬉しいんです…。」
「ふーん」


冷えぴたも額に貼ってもらってるとピピッと体温計が鳴った。罪木さんがチェックするとすぐに悲鳴をあげて無理やりにベッドに押し倒された。不思議に思い首を傾げると罪木さんは少し怒ったような顔をして体温計を見せてくれた。39°か。意外と高熱だったんだなぁ、とか他人事のように考えていると罪木さんが優しくボクの髪を撫でてくれた。


「ゆーっくり休んでくださいねぇ。ちゃんとここにいますから…」
「ん…ありがと」


次第に襲ってくる眠気に任せてボクは目を閉じた。


***


目を覚まして何となく窓を眺めるともう夕方だと分かった。頭とかはすっきりしてるのに体がやけに重いなぁなんて考えながら横を見ると眠っている罪木さんの顔があった。出かけた悲鳴を飲み込んで罪木さんの顔をまじまじと見る。半開きになってる口とかボクの胸辺りに巻き付いている白い腕、押し付けられている豊満な胸とか少し無防備すぎると溜め息をつく。あぁ、顔が熱い。可笑しいな、ぐっすり寝たから熱はもうとっくに下がっているはずなのに。


「罪木さんのせいだよ」


拗ねたようにそう言っても返されるのは規則正しい寝息。ボクももう少しだけ甘えようと目を閉じた。

このあと採集から帰ってきた日向クンに真っ赤になったボクと罪木さんが必死な弁解することになってしまったのだけれどたまにはこういう日もいいかなぁ、なんてね。





title*Poison×Apple
(20150126)



(10/10)
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