*ED後
テリー→バーバラ
君に会う前の自分を忘れたみたいに君が居た頃の記憶を忘れられたならどんなにいいだろう。
そんなことを願っても幸せな記憶はなかなか消えてくれず胸の中に蓄積されただけだった。
***
近くに城も町も村一つなく目前にあるのは広そうな洞窟だ。空を見上げると先ほどまで夕焼けが見えていたというのに今は上から黒の絵の具を溢したかのように真っ暗だった。どおりで魔物達の気配が鋭いわけだ。一般的に魔物は夜行性だ。夜にしか姿を現さない魔物もいるぐらいだ。だが大抵の人間はその逆だ。昔は夜に行動していたがあいつらの旅から夜型から昼型に変わってしまったオレは今さらその習性を変える気にもなれず、野宿の準備を素早く済ますと周りにせいすいを振り撒く。肩に掛けていた荷物を枕代わりにしてボーッと夜空を見つめる。
昔ならこうしていればすぐに眠りにつけるというのにどういうわけか最近はなかなか眠れなかった。
あいつらと旅していた時は、正確にはバーバラとの言い争いなんかのせいで体力、主に精神力を消費していたが一人旅となった今、そんな相手もおらず、魔物もなかなかオレを楽しませてくるものはいない。そのせいか体力をもて余している。
「ないものねだり、か」
幸せはいつだって失って初めて幸せと気付く。今だってきっとまだ間に合うはずだ。願いはたったひとつ。バーバラを取り戻す、それだけだ。
***
夢を見た。懐かしいと言えるほど昔ではない頃の記憶だ。
「バーバラは、消えた」
残酷にも告げられた現実に胸がギュッと握り締められた感覚に陥った。全く予想していなかったわけではない。ただあまりにも早くて、あまりにも呆気なかった。
何も信じたくなくて呼吸と同じ数だけ泣いたその後に待ち受けてたのはこの先永遠に続く君なしの世界。もう二度と道が交わることがないことは分かっていた。けれど、もう一度。一度だけでいいから会いたかった。
幸せはいつだって失って初めて幸せと気付く、そんなささやかなこと。
幸せはいつだって失くして初めて幸せと気付くたいせつなこと。
今だってきっとまだ間に合うはずだ。
願いはたったひとつ。
「どこまでもお前を追いかけてみせる」
(20141228)
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