かたおもい赤信号 



宿屋に泊まって、ご飯を食べてシャワーを浴びて、後は明日の職業熟練度上げのために英気を養うだけ、なんだけど。この時間だと眠るのにはさすがに早すぎる。既に部屋着に着替えているため町でショッピングも無理なため、あまり広くない宿屋をぶらぶらと歩いているとロビーのソファーに座って本を読んでいるテリーを見つけた。いつも剣を磨いてたり、アイテムや装備のチェックをしてるところしかあまり見たことがないから読書しているテリーなんてメタルキングが二連続で遭遇するのと同じくらいに貴重だ。
読書中とはいえ常人より人の気配に敏感なテリーに気づかれないように遠くの物陰からひっそりとテリーの綺麗な横顔を眺める。
自分で言うのもなんだけど端から見たら完璧不審者だ。だが、この際どうでもいい。それよりももう少し近くで見られたら…、それこそ目と鼻の先だったら長い睫毛とか形の整った眉とか荒れてないぷるぷるな唇とかをじっくり見れるのになぁ。
テリーの細くて長い指によってパラリと本のページが捲られる。
何の本読んでるのかなぁ。


「なにしてんの?」

「ひゃあぁ!?び、びっくりした!いきなり後ろから話しかけないでよ、レック」

「よっ!」

「よっ、じゃない!」


耳許で囁かれて今も心臓がばくばくしている。そんな様子のあたしを見てレックはニヤリといたずらっ子みたいに笑ってなに見てたんだ?と身を乗り出した。


「な、何も見てないってばぁ!」

「そうやって焦る辺りが怪しいよなぁ…って、テリーじゃん。おーい!ぐふっ」


テリーに声を掛けようとしたレックの鳩尾にせいけんづきをするとレックはその場にうずくまり出した。ちょっとやりすぎちゃったかな。


「話し、かければ、いいじゃん」


まだ痛いのか途切れ途切れにレックが言う。


「話しかけたってどうせ冷たくあしらわれるだけだし、あーいうのは観賞用!」

「ふぅん…そういうものかねぇー」

「そういうもんですー」


しばらくお互い無言で読書をしているテリーをボーッと眺める。
そりゃあ、あたしだってテリーともっとお近づきになりたいとは思うけどそれもなかなか難しい。同性だったらまだ話せたかもしれないけど、異性でしかもきっとテリーはあたしみたいな女を一番苦手としているに違いない。つまり打つ手なし。


「って、いつまでいるのよ?」

「さあ?」


まあいいや、とまたテリーへと視線を戻す。見てるだけで満足とはこのことを言うのか、納得。


「さて、と!もうそろそろ寝よっかな!」

「おー」

「じゃ、おやすみー!」

「おやすみー」


レックに手を振って自分の部屋に戻る。
今日もテリーに話しかけられなかった。


***


「残念だったな、バーバラに声をかけられなくて」


読書してるフリをしているテリーに近づくとテリーが本から顔を上げて不機嫌そうにオレの顔を見上げた。


「いつもと違うことをしてたら話しかけられるかもなんてテリーったら乙女ー!」

「フン。何が乙女だ。気持ち悪い。」

「じゃあ、何で本読んでるフリなんてしたんだよ?」

「なんであんたにそんなこと言わなくちゃならないんだ?」

「そりゃあ…気になるから?」


勇者とか王子とか呼ばれているオレでもそういうお年頃だしやっぱり気になる。それに同い年の恋愛話となったら尚更だ。


「…興味があるからだ」

「興味…?」

「それだけだ」


テリーはそう言うと開いていた本を閉じて部屋へと帰って行った。


「ホント、二人とも素直じゃないなぁ…って、それはオレもか」


オレの入る隙間なんて全然ないって分かっていてもそう簡単に諦められない。ホント厄介だ、恋なんて。





title*HENCE
(20141206)

   end 
bkm

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