*オリキャラが出てます。
20年後設定でテリーは違う人と結婚して子供を作っていますので苦手な方は注意。
私の父はとても綺麗な人でとても母とは釣り合うような人ではなかった。母は私が8歳の時に流行り病で亡くなった。まだ母が生きている頃にによく母から聞かされたのは母が父に一目惚れした時の話だった。母は田舎から都会のレイドックへと飛び出し、酒場で仕事をしながら何とか生きていたらしい。そんな中で母は父と出会ったらしい。どこまで本当かは分からないけど父はレイドックの王様の友人で世界を脅かしていた大魔王を倒した勇者様ご一行だったらしい。元々綺麗な顔立ちと青い閃光という異名があったため父の名は有名で母も名だけは知っていたと言っていた。
母は詳しいことは教えてくれなかったが父が酒場に訪れたのはある情報を集めるためだったらしい。母は必死にアプローチした甲斐があったのか母の告白に父は小さく頷いたらしい。そして、結婚をして父の友人の有名な大工さんに小さな家を建ててもらって、そして、私が生まれた。
「……もう5年か。早いな」
父は線香をマッチで点火し、手で仰いでその火を消すと線香皿に横に寝かせるて父はポツリと小さく呟いた。
私は何も言わずに父に水の入った手桶とひしゃくを渡す。線香を水で濡らさないように父が墓石に水をたっぷりとかけるのを暑さでボーッとなった目で私は見つめていた。墓石と正面に向かい合うと父は胸の前で左右の手のひらをぴったり合わせ、軽く目を閉じて頭を30度ほど傾けた。父の番が終わると私も同じように合掌した。軽く墓を掃除すると父は帰り道とは逆の方向へ歩いていく。
「お前は先に帰っていろ」
「あの女の人の墓に行くの?」
私の質問に父はしばらく考えたのち、そうだ、と答えた。分かりきっていた答えだというのに鈍器で殴られた気分になった。私がこんな気持ちでいることを父はきっと知らない。
「私も着いてく」
「…勝手にしろ」
あの女の人の墓に父は必ず行く。私が小さい頃からずっとそうだった。母にその理由を聞いても笑って誤魔化されたけど今ならその理由も分かる。分かりたくないけれど。母もきっと私と同じような気持ちだったのだろうか。
墓に着くと父は母の墓と同じように手を合わせた。とても、長かった。その長さが母への愛とその女の人への愛の差に感じられて胸が苦しかった。私はその間、墓石を見ないで父の綺麗な銀の髪を見ていた。私の髪は母と同じ赤毛だから父の綺麗な髪が羨ましい。瞳は父と同じアメジストだから嬉しい。父はそんな私の思いと裏腹に赤毛の髪を褒めてくれた。長いのは邪魔くさいけど父の言う通り、なんだかんだ伸ばし続けている。高く前髪ごと結びあげると父は嬉しそうに笑ってくれたけど今思うと父はその時、私じゃない誰かを見ていた。きっと、この墓の女の人。
「この人も赤い髪だったの?」
「そうだな。お前の赤毛にそっくりだった」
「その人に似てたから、お母さんと結婚したの?」
掃除を終えて花立てに水を入れ、花ばさみで長さやバランスを整えた花を飾ろうとしている父にそう質問をした。父はその質問にだけは答えずにお供え用のお菓子を半紙を敷いた上に置く。
肯定も否定もしないということはつまり、そういうことだろう。
「死んだわけじゃないんだ」
「なにが、言いたいの」
脈略のない言葉に私は苛立ちを隠せなかった。ううん、隠すつもりなんてもうなかった。
「二度と会えなくなったが死んだわけじゃない。でも…あいつのことを思い出せなくなったら、オレのなかであいつは死ぬ」
思い出の中でしかもう会えない。そういう意味なのだろうか。そもそも死んでないなら何故墓を経てたのか。父の言っている意味が全く分からなかった。
「………その人とも旅をしてたの?」
「そうだ」
父は本当はずっとその人が好きだったんだ。その人と母を重ねて、娘の私にまでその人に面影を重ねていたんだ。本当の私なんて見てくれてなかったんだ。どこかで本当は気づいていた。でもそれを認めるのが嫌で見て見ぬフリをしていただけだ。
「お父さんは、お母さんのことも私のことも本当に愛してないんだ。ずっとその人のことしか愛してなかったんだ。」
「…違う。お前も母さんも愛してるさ。ただ違うんだよ、種類が。」
「お父さんのことが全然分からないよ」
涙が溢れ出てくると父は私の肩に手を当ててしゃがみこむ。
「分かってくれ。お前を愛してないわけじゃないんだ。」
「お父さん、じゃあ…私とその人どっちが大事なの。お母さんとその人どっちが大事なの!?」
私の質問に父は目を見開くと、少し目を伏せた。自分から聞いたくせに父の答えに耳を塞ぎたくなった。
「ごめんな」
お父さんはそう答えると私を抱き締めた。
なんで…、どうして…私たち家族よりも少ししか一緒にいなかった女を選ぶの?
父は虚ろになった目で私を見るとバーバラ、と小さく…だけれど愛しそうに女の名を呟いた。
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