「別れよっか」
突然告げられた別れの言葉にどう反応すれば良いのか分からなかった。
女の別れは理由も告げずいつも突然だという話は本当だったのか、と小さく溜め息をこぼした。
なんで、どうして、とか嫌だ、別れたくない、という言葉を飲み込んでそっか、わかった、と物分かりの良いフリをしてオレとバーバラは別れた。
***
バーバラと別れてから何ヵ月か経った。別れた当初はお互いにどこかぎこちなかったがそれもすぐにいつも通りになった。ハッサンにお前らヨリを戻したのか?と勘違いされるぐらいにいつも通りにオレとバーバラは会話をしていた。
バーバラと一緒にいるといつも思う。なんで、別れようなんて突然言ったのだろう…と。最初は嫌われたのかと思っていたがどうやらそれも違うらしくたまに手が触れ合うだけでバーバラの頬が赤くなっているし、やたらと目が合う気がする。まるで付き合う直前のあの頃に戻ったようだ。
やっぱり、オレ、まだバーバラのことが好きだ。別れようと言われてすぐに冷めるなんてあり得ないぐらいに好きだったんだ。理由が聞きたくなくて物分かりの良いフリをしていただけだ。本当は別れたくないとそう言われるのをバーバラは待っていたのではないだろうか。
「レック?ボーッとしてるけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
「なら、いいんだけど…」
「好きだ」
「………え」
オレの言葉に目を真ん丸にするバーバラに更に畳み掛けるように口を開く。
「わかった、なんて言ったけど…実は違うんだ」
バーバラの瞳がぐらりと揺れる。
「理由、ちゃんと聞かないとお前のこと諦められない」
「…なんで、レックは、そんなに真っ直ぐで眩しいんだろ…」
そう言ったバーバラの声は少し掠れ声で今にも泣き出してしまいそうな表情だった。今にでも抱き締めてやりたい衝動を抑えてバーバラの目をジッと正面から見る。
「レックとこのまま付き合っててもいつか終わりが来ちゃうって気づいたから…だよ」
「は……」
バーバラの言っている意味が分からなかった。
ーー終わりって、なんだよ?
「カルベローナの皆の話を聞いて、なんとなく…分かっちゃったんだよね」
そうか、バーバラの様子がおかしくなったのはグラコスを倒して解放されたバーバラの故郷ーーカルベローナに訪れてからだった。
残酷な現実がバーバラを突き刺してしまった。こんなことならバーバラをカルベローナに連れていくんじゃなかった。馬車で待たせておくべきだった。今さら後悔したって、もう遅い。
「だからね、お互い傷つくだけなら別れようって、思ったんだ。」
もう、止めてくれ。
「もう、レックのこと好きなの、止めようって思ったんだ」
もう、止めてくれよ…!
「レックのこと、好きになるんじゃなかった…!」
「…………」
「ごめん、こんなこと言うつもり…無かったんだけどなぁ…」
涙を流しながら無理やり笑おうとするバーバラを抱き寄せたがバーバラはオレの胸に手を当て距離を取った。
「バーバラ…」
それは明らかな拒絶だった。近いはずなのにもう、手の届かない場所にバーバラは行ってしまった…そんな感覚。
「恋人ごっこは終わりだよ、レック」
自分の中でバラバラと何かが崩れ落ちていく音がした。
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確かに恋だった(20141117)
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