ノックしても部屋の主は出てこない。舌打ちしてもう一度ノックする。
どうやらレックはまたバーバラと喧嘩したらしい。この二人の喧嘩は割りと頻繁に怒るから気になくていい、と姉は言っていたが今回の喧嘩はいつもとは違う気がする。いつもならお互いムキになって嫌味を言い合ったりしてるのだが今回は言い争うどころか気まずそうにお互いを避け合っている。
だからと言って間を取り持つのも面倒くさい。だと言うのに結果的にそうなっている今の状況に納得がいかない。
宿屋に着いてチェックインをすると二人はすぐにそれぞれの部屋に閉じこもった。食事が出来上がるとレックは来たがバーバラは来なかった。年が同じだからという理由で姉に駆り出され今に至る。
姉のことだから余計なお節介を焼いているのだろう。
「入るぞ」
カチャリとドアを開ける。鍵が掛かってない。本当に無防備な女だ。
ベッドに座っていたら眠くなってそのまま寝てしまったような体勢でバーバラは寝ていた。
ベッドに近づき、しゃがみこんでバーバラの顔を観察する。
「黙ってれば可愛いのにな」
もちろん本人には言ってやらない。
自然に目が入った赤色の髪を指に巻きつけたりして弄る。
「…ん…レック……」
弄っていた指が止まった。
ーー聞きたくない。
涙で濡れている頬に手を当て彼女の小さな唇に自分の唇を押し付けてバッと離れた。
「なっ…オレは、なにを……」
自分の唇に右手の甲を当てる。
そしてバーバラの唇を自分の服で拭った。
汚い。バーバラが汚れる。
「…ゴメン……」
バーバラがレックに好意を寄せていることなんて知っていた。そして恐らくレックも。二人が伝え合わないのはいずれ来る別れが原因だ。だから今もバーバラは夢の中で泣いているのだろう。
(コイツの中にオレはいない)
どんなに思い焦がれてもバーバラが愛するのはあの勇者なのだろう。オレとは違って何もかも持っているアイツには敵いっこない。
だからこれで終わり。
「ほら、起きろ」
「いったぁい!」
「飯が出来た。行くぞ」
「うん!ありがと、テリー」
「……あぁ」
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確かに恋だった(20141014)
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