朝起きると隣にバーバラが気持ち良さそうに眠っていた。どうやら彼女はまたオレのベッドに忍びこんできたらしい。短いショートパンツから伸びた足が眩しい。寝相でキャミソールが脱げかけ、白い肌が惜しみ無く晒されていることに溜め息をつくとバーバラを文字通り叩き起こす。
「痛いー!テリーのばかぁー!」
言いたいことを言うとバーバラはまた毛布にくるまり眠り始める。
「おい、起きろ」
毛布を奪うと目をうっすら開けて睨み付けてきたかと思ったらバーバラがいきなり飛びかかってきた。油断していたオレは呆気なくベッドに体が押し付けられて腹にバーバラがどっしりと遠慮なく体重をかけてくる。
朝から喧嘩はしたくなかったのに、と内心溜め息をつきつつ、上に乗っているバーバラを見上げる。
「…………」
「…………」
しばらく無言で見つめあうとバーバラがオレに倒れかかる。簡単に言うとバーバラがオレの上で眠り始めた。オレの胸辺りで幸せそうにむにゃむにゃと眠る彼女は悔しいぐらいに可愛い。
「どうしたものかな…」
眠っている彼女を起こすわけにもいかず、姉が起こしに来ないかと部屋のドアを見つめていると段々眠くなってきて目を閉じた。
***
再び目を開けたとき、バーバラはベッドから転がり落ちていた。相変わらず寝相が悪い。
踏まないようにベッドから降りるとリビングに向かい、姉に挨拶をする。
「おはよう。遅かったのね」
「あぁ、バーバラがなかなか起きなくてな。結局今も寝てる」
「……………そう」
「姉さん…?」
姉の顔色が一瞬曇ったがすぐにいつもの姉に戻った。
「アイツ、すぐにベッドに忍びこんでくる癖、どうにかならないのか」
「…そうね」
「いくら恋人だからって無防備にも程があるだろ」
「…そうね」
「姉さん、体調が優れないのか?」
「違うの。あのね、テリー、」
「どうした?」
今日の姉はおかしい。たまに顔色が曇ったりすることはあるが冷静な姉はこんな切羽詰まったような顔をするのはただごとじゃない気がする。
「…もし、どれだけ辛くて逃げ出したくなっても真実から、逃げないでほしいの」
「いきなりなんだよ」
「お願い!約束して!」
「あ、あぁ…」
事態が飲み込めない。姉の言う真実は気になるのに聞きたくないと自分の何かが拒絶している。
怖い。何かが変わってしまうんじゃないかと。姉が意を決したように口を開く。耳を塞ぎたいのに全身が石になったように動かない。
「あなたは一体…誰と話してるの?私にはあなたの言うバーバラが、見えない」
「え…待ってくれ。なんの冗談だよ…」
一瞬で幸せな夢から覚めた気分だった。
「バーバラは…バーバラは…っ…消えたじゃない…」
消えた?消えたって何が?
姉さんは何故こんな、たちの悪い冗談を言うんだ。バーバラはいたじゃないか。
今日だってアイツのせいで二度寝をした。アイツは乗っかられたらちょっと重くて、でも温かくて…。
これも嘘なのか…?
全部、幻がだったのか…夢だったのか…?
…そうだ、これは全部悪い夢なんだ。
目が覚めたらまた君が笑ってるに違いない。
部屋に行くとバーバラの姿はなくて、一緒に買ったお揃いのマグカップは一つしかなかった。
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Poison×Apple(20140919)
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