宿屋で晩ご飯を食べ、風呂を済ましロビーに出るとそこにはソファーに座って一心不乱にたまごボーロを食っている女がいた。
「それってガキが食うやつだろ」
たまごボーロを一心不乱に食っていたのはバーバラだ。まだ風呂には入ってないらしくいつもの服装のままだった。
「あ、テリーだ!テリーも食べる?美味しいよ!」
たまごボーロが入った小さな袋を差し出される。いつまでも受け取ろうとしないオレにバーバラは無理やり押し付けてくる。
「こんな時間に食ってると太るぞ」
「うっ…!いいの!あたしはいくら食べても太らないんだから!」
「ふぅん。でもお前、顔が丸くなってきたな」
もちろん冗談だが馬鹿なバーバラは冗談とは気づかずに顔を真っ赤にしてキーキー、怒りだしたが俺が一つたまごボーロをバーバラの唇に近づけ食わしてやるとさっきまでのが嘘のように静かにたまごボーロを食べている。
(……なんか、餌付けしてる気分だな)
これでバーバラと距離が縮まるなら苦労なんてしないのにな…なんてらしくないことを考える。人間とあまり関わろうとは思わないがバーバラに関しては違うようだ。バーバラのことが知りたい。バーバラと深い関係になることを望んでいるのかもしれない。
「…テリーも食べればいいじゃん」
バーバラがオレにたまごボーロをはい、あーん!と一つ差し出してきたがそれは断る。そんなところを仲間の誰かに見られたら確実にからかわれる。主にレックやハッサンに。
「勿体なーい!ドランゴにせっかく貰ったのに!」
「お前、ドランゴから貰ったのか?」
「うん。ドランゴね、たまごボーロ大好物なんだって!可愛いよね!でね、買いすぎちゃったから分けてもらったんだー!」
「そうか」
初めの頃はドランゴを怖がっていたバーバラだが今はすっかり打ち解けているらしく姉さんと一緒にドランゴを可愛がっているらしい。
「ドランゴってすっごい女の子なんだよ?ドランゴったら口を開けばテリーのことばっかなんだから!この色男めっ!憎たらしっ!」
バーバラが楽しそうに身ぶり手振りを混ぜながら話す。そういう子どもっぽい仕草が何故か似合う。
***
一時間はこの場で話していたと思う。オレはあまり話さずバーバラの会話に相槌をうっていただけだというのに会話は途切れることはなかった。
「…なんだか眠くなってきちゃった」
バーバラは眠そうに目を何度も擦っている。
「まだ21時なのに眠くなるって本当に餓鬼だなお前。」
「うっさいなー。仕方ないでしょー。あたしはまだ育ち飾りなんだからー」
「それを言うなら育ち盛り、な」
言葉の訂正をすればバーバラはムッと唇を尖らせる。
「…はあ……んー…眠い…もう、無理…」
バーバラはそう言うと瞼をおとして、すぅすぅ、と眠りに落ちる。
「…おい」
バーバラの肩を揺すって声を掛けてみるが返事はない。
「…爆睡してやがる、コイツ…」
気持ち良さそうに無防備に眠るアホ面にくすり、と少し笑う。
「…仕方ないな」
バーバラの膝の裏に右腕を通し、左手で背中を支えて体を抱き上げる。予想以上の軽さと女性特有の柔らかさに少し驚く。抱き上げているせいでバーバラの寝顔がよく見える。吸い込まれるようにバーバラの額に自分の唇を落とした。唇に自分の唇を重ねることが出来ない自分のヘタレさに苦笑しながら姉さんの部屋に足を進めた。そのあと、仲間たちにからかわれたのは言うまでもない。
あとがき
たまごボーロを食べてたら思いついた話。バーバラがたまごボーロを食べてたら可愛いと思う。更にドランゴの大好物だったら可愛い。ヘタレなテリーを書きたかったので満足。テリーさんがバーバラをお姫様抱っこしているのを仲間に見られてからかわれてあたふたしてるテリーも書きたかったけど気力が続かなかった。
title*
確かに恋だった(20140528)
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