「雪、か」
雪が降るとアイツはいつもおおはしゃぎしてたっけ。
『ねぇ、テリー!雪!雪だよー!きゃー!冷たい!』
『子供か、お前は…って、投げてくるな!』
『ぶっ!当たってやんの!かっこ悪ー!』
『……このオレを怒らせたな』
『きゃー!にっげろー!!』
どんなにアイツと違う時を過ごしたって忘れられない。アイツの無邪気な声が、笑顔が今も色褪せずに思い出すことが出来る。
『テリーってバーバラのこと好きだろ。告白とかしないの?』
『はあ!?レック、お前は何を言ってるんだ…オレは、別に…告白なんて…』
『恥ずかしがらなくていいのに!早く言っちゃえよ!』
『いいんだよ。まだ、言わなくても』
『二人とも何の話してるのー?』
『お前には関係ない』
『むっ…何その言い方!』
『バーバラには言えないよなぁ。男の話ってやつをしてたわけだし』
『何それ〜!何かやらしー!』
『だってよ、レック。お前は変態だな』
『え!?なんで!?』
楽しい日々が小さな想いを隠していた。この想いを告げずともずっとこんな日々を送れると、その幸せを疑いもしないで「さよなら」なんて言葉の意味を習わなかった。
アイツとの日々は本当に夢のようだった。いつもふわふわしているような気持ち良い心地で、だからアイツがいなくなった時、良い夢から覚めたような、そんな思いだった。
『テリー、あたし…あたしは、あんたのこと絶対に絶対に忘れないよ…。今まで本当に楽しくて幸せな時間をくれたから。だから、テリーは…早く…早く…あたしのことを忘れて…幸せになって…』
『…そんなこと、出来るはず…ない、だろ…』
『泣かないで。テリーらしく、ないよ…テリーが泣いちゃったらあたしまで…泣いちゃうよ…』
『いくな…!オレは、お前のことが…好きだ…だから、消えないでくれ…ずっと一緒に…』
『……ありがとう。あたしも好きだったよ。でもね、テリー、夢は…いつか…覚めちゃうんだよ…そういうもの、なんだよ』
もう夢じゃなくて、この世界にあの時のように抱き締めあって素直にただ泣いた日々はどこにもない。
オレたちにはたどり着けない場所に答えがあったのかな。そこにたどり着けたなら今も隣に君が笑っているのだろうか。
(今さら…なに考えたんだよ、オレ)
苦しくてたまらない。アイツが消えてしまうことをもっと前から気づいてたら何かオレにも出来たのかもしれないのに。そんな思いに押し潰されてしまいそうだ。君と出会わなければこんな思いをせずに済んだのに、こんな辛くないのに。
恋人たちのささやく声が街をあたためていく。なのに、オレの心は冷たくなっていく。恋人になりたくてもなれなかった。伝えるのがあまりにも遅すぎた。
『さっさとデスタムーアの奴を倒してやらないとね!』
『そうだな。あんなふざけた野郎、すぐにぶっ飛ばしてやる』
『お!テリーったらやる気だね!一緒に頑張ろ!アイツを倒したら皆、幸せになるはずだよ!』
旅での楽しい日々はアイツの深い悲しみも隠していた。オレはこの幸せに酔いしれていて周りが見えなくて「さよなら」のこと置き去りのままはしゃぎすぎてた。
『あら、バーバラ…その顔…』
『ミレーユぅぅ…酷いのアイツ〜!あたしが昼寝してるときに落書きしてきたの〜!今度テリーに仕返ししてやる!』
『オレがなんだって?』
『ぎゃあ!出たぁ!』
『テリーったら悪戯好きなところは小さい頃から変わってないのね』
『げぇ…最悪…』
『ぷっ…お前の顔、大変なことになってるぞ』
『誰のせいだと思ってんのよ!こんにゃろー!』
『いいのか?騒いでるとレックたちが来て、お前の顔が笑い物になるぞ』
『ギャアアァァァァ!!!』
まだ夢の中でいるとそう信じたくて夢からはもう覚めているのに。ただ笑った日々はどこにもない。オレたちはたどり着けない場所に答えがあったのかな。でもあの場所は間違いじゃない。確かに笑顔のオレらがいた。だから、もういいんだ。
また冬が来る。オレたちのためじゃない、恋する人たちに。
もう夢じゃなくて、そうこの世界にあの時のように抱き締めあって素直に泣いた日々はどこにもないとしてもアイツとの思い出はずっとここにある。
(バーバラに出会って、オレは変わることが出来た。出会ったことに意味があった。だから、出会えないなんて、一番嫌だ。)
君に出会えないなんてイヤだとやっと気付けた冬。
(20140723)
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