それは恋 

姉以外の女性は苦手だ。かっこいい、好みのタイプだと言ってオレのことを何も知らないのに外見だけで選び、気に入らなくなったらすぐに捨てる。何も知らなかった幼い頃のオレは何度も何度も騙されてボロボロにされた。それはオレが何も知らないガキだからオレが弱い人間だからだと無理やり自分で納得させていた。それでもやっぱり女性に対していい記憶はなく自然に苦手意識が根強く植え込まれているのかもしれない。


***


町に着いて宿を取り、食事を済ませ各々が自由に買い物や休息を取っている中、オレはすることもないから誰もいない宿のロビーですっかり愛用の剣となった雷鳴の剣を磨いていた。


「テリー、なにしてるのー?」


剣を磨いていると階段から降りてきたバーバラが興味深げにオレの手元を見ていた。オレは正直コイツが苦手だった。こちらが無視しても勝手にずっと喋り続けて人の都合も考えず余計なお節介を焼いてくるコイツがいつか本性を表すんじゃないかとそう疑ってしまうぐらいにコイツはオレに構ってくる。そして、コイツと一緒にいると自分のペースをかき乱される。

「…見ればわかるだろ。剣を磨いてんだよ」


無視すればいいものをついつい答えてしまうのは何故だろう。話したいと思ってしまっている自分がいるのはいつからだろう。


「そっか。剣士だもんね!うーん、いいなぁ。あたしもテリーやレックみたいにかっこよく剣を振り回したいなぁ」


まただ。バーバラの口からレックという単語が出てくるたびに心臓が跳ね上がってモヤモヤとした気持ちが俺の胸を占める。バーバラは口を開けばレックと言う。恋愛関係に疎いオレでもわかるくらいにバーバラはレックに好意を抱いている。オレ以上に鈍いレックはバーバラの気持ちには一ミリも気づいてないようでさっきも姉さんと二人っきりで道具屋にアイテムの補充をしに行ってしまった。


「次は戦士に転職しようかなぁ。マスターしたらちょうど魔法戦士にも転職出来るし。レックに頼んでみようかなぁ。ねぇ、テリーはどう思う?」


オレたちのリーダーのレックが基本職業を決める。バーバラは体力もないし、打たれ弱い、力もないと典型的な魔法使いタイプだったため今、マスターしているのは魔法使い、僧侶、賢者の3つだ。別に他人の職業なんていちいち覚える必要はないのにオレの頭は勝手にバーバラの職歴を記憶しているらしい。自分のなかでコイツの存在がどんどん強く大きなものになっていくたびにオレはコイツと一緒にいることが辛くなってくる。視覚はバーバラの色鮮やかなオレンジの髪を焼きつけ、聴覚はバーバラの心地いいソプラノの声を覚え、嗅覚はバーバラが近寄ってきたときの匂いを覚え、触覚はたまに触れ合う細く柔らかな手を覚えてしまう。自分の何かが変わっていくような不安に苛まれ、バーバラと距離を置いてもただこの思いが日に日に強くなるだけだった。いっそ、バーバラとレックがくっついてしまえば自分もバーバラなんかにこんな思いをしなくても済むのに。


「オレには関係ないだろ。レックにでも相談するんだな」


磨いていた剣を鞘にしまい、立ち上がると慌ててバーバラも立ち上がる。


「あれっ、もう終わり?もしこのあと暇なら一緒に町を見て回ろうよ!」


バーバラがオレを引き留めるかのように服の裾を引っ張ってくる。そんなバーバラの動作にドキッとしてしまう。


「別に一度来たことがある町だし、見るものなんてないだろ。そんな暇があるならはざまの世界に行く準備をするんだな」


間違ったことは言ってないはずだ。だが、バーバラは明らかに拗ねた様子で行こうよ!と服の裾をぐいぐいと引っ張ってくる。面倒くさい。だから女は嫌いなんだよ。姉さんだったら絶対にこんな我が儘は言わない。それを言ったらバーバラにシスコン野郎。と言われた。コイツ…覚えてろよ。


「あのさ、テリー」


諦めたかと思いきやコイツはまだ諦めてないのか。いや、この様子じゃ違うか。この表情はある意味、コイツの素の顔と言ってもいいのかもしれない。不安に押し潰されそうな顔。バーバラの故郷。カルベローナに行ったとき、ずっとこんな顔だった。


「あたしがもし、消えちゃってもテリーは覚えててくれる?」


「は?」


「……なーんてねっ!冗談冗談。何でもないっ!」


えへへ、と笑うバーバラの頭(前髪あたり)に手を置く。バーバラが不思議そうな表情で上目遣いでオレを見る。


「大丈夫だ。オレが…守ってやる」


何の根拠もないのにオレはそう言った。きっとオレはコイツを守りたいんだ。あの時、姉さんを守りたいと思ったときのように。辛いのに一人で抱え込んで、泣きたいのを我慢して元気なフリをしていつも危なっかしい…そんな姿が幼い頃の姉さんと重なって放っておけなくて気づいたら目で追っていた。そして、いつの間にか生まれたこの気持ちはきっと…





あとがき


テリーさん恋に目覚めるの巻き。嫉妬しちゃって気になっちゃうからイライラしちゃうけど弱い部分を見てミレーユと重ねて守らなきゃって思ってたらいつの間にか特別な存在になってたと自覚してたらいいなー。


(20140527)


   end 
bkm

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