今なら素直に好きといえる 

「オレ、ミレーユのこと好きだよ」


突然告げられた告白に自分の顔が強ばっていくのがわかった。
どうしてこのような状況になっているのか。野宿だから一緒に寝ずの番をしていて他の人は馬車で寝ているから二人っきりだったのがいけなかったのか。そもそもレックは今までそんな素振りなんて見せなかったのに、なんで。
華の十代がガンディーノの先代の王の独裁政治によって奪われ、もう誰かを好きになったりとかじゃなく恋愛という過程をすっ飛ばして結婚相手を探すことになるんだろうな、なんて考えていた。そんな私が恋をしてしまった。
具体的な時期はもうわからない。けれど気づいたらレックを目で追っていた。戦っているときだって支障がない程度に気を掛けて、戦闘が終わるとすぐに傷の回復をしてあげたりもして、なんで私はこんなに彼のことばかり考えてしまうのだろうかと疑問を抱いたがバーバラにそれは恋だと言われた。でも汚れた私にそんな資格はあるのだろうか。レックは王子でもあり私と違ってまだまだ若くて輝かしい未来だってある。元奴隷の私とは違う。天と地の差だ。


「私も好きよ、仲間としてね。レックは弟みたいだし、ほっとけないのよね。」


私は彼にも、自分の本当の気持ちにも嘘をついた。心にも思ってないことがスラスラと口から出てきて自分の言葉なのに胸が痛くなった。震えていた声だったからレックにはバレバレだったかもしれない。


「オレが年下だからって、からかってんの?」


レックの目は真剣に私を見つめていた。その目に耐えられず、私は目を逸らす。レックの言葉になにも言い返すことが出来なかった。


「確かにまだ子どもかもしれないけど、オレ…本気だから」


「……私にとってレックはきっといつまでも子どもよ。だって5つも年が離れてるんだもの。」


恋愛に年は関係ないと言うけれど周りから見たらどう思うだろうか。レックにはもっと若くて可愛らしい女の子がお似合いだ。


「年の差は埋められないのに、そんな言い方ずるいだろ」


レックの言葉はいつも真っ直ぐで胸が痛い。恐れを知らないんだ、この子は。誰かに嫌われるとか、そういうのがわからないんだ。彼の周りにはいつだって人がいるんだから。私もこんな風に真っ直ぐでいられたならよかったのに。そうしたらこんな惨めな思いをせずに済んだのに。


「ミレーユが好きなんだ。きっと出会った時からずっと。」


レックの言葉がどんどん胸に突き刺さる。止めてよ。私はそんなに綺麗な人間でもない。あなたに好かれるような、そんな人間じゃない。


「…なんで…なんでわからないのよ!遠回しにフってるって気づきないよ!」


気づいたら大きく声をあげていた。私、こんなこと言いたかったわけじゃないのにと口に手を当てるけどもう遅かった。レックは悲しげに眉を八の字に曲げて今にも泣きそうな表情をしてどこかへ走り去ってしまった。追いかけようと腰を上げようとたけど止めた。レックの今の腕なら魔物が襲ってきてもなんの心配もないだろう。それに今の私には、レックを追いかけるなんてことは出来ない。追いかけても何も言えない。


(……嫌われちゃった)


あんな酷い言い方をしてしまったのだから当たり前だ。本当は嬉しかったくせに、ようやく自分は人並みの幸せを得ることが出来たかもしれないのに、私は自分から拒んでしまった。前に進むことが怖くて、いつか捨てられてしまうことが怖くて、これ以上自分が傷つきたくないからレックを傷つけてしまった。


***


翌朝になるとレックは戻ってきていた。そのことにホッと息をつく。そのことが心配でぐっすりと眠れず、浅い睡眠を繰り返していた。レックと目が合うと昨日の気まずさか、レックから目を逸らされた。それだけで私の心は重く沈む。


「姉さん」


「テリー、どうしたの?」


弟に声を掛けられる。


「…昨日の夜、実は聞いてた」


子どもが親に怒られてるときのような罰が悪い表情をしているテリーに優しく笑いかける。


「そんな顔しないで」


すっかり背が高くなったテリーの頭を撫でる。


「姉さんはアイツのことが好きなんだろ。なんで、断ったんだ?」


色恋沙汰に興味がないと思っていた弟の質問に少し驚く。


「…レックと私じゃ釣り合わないわよ。何もかも…身分も、年齢も。だから、いいのよ。レックには違う人とちゃんと幸せになってほしい」


私とレックはあまりに違いすぎる。私にないものを彼は全て持っていた。私にとって彼は太陽だ。いつも輝いていて見ていてすごく眩しくて、私には届かない場所に彼はいつもいる。だから、もういいの。


「…姉さんがそう言うならオレからはなにも言わない」


「ありがとう、テリー」


***


レベル上げもそこそこに近くの町の宿屋に泊まった。久しぶりの宿屋でふかふかのベッドなのになかなか寝つけられない。目を閉じればレックの顔がちらついて離れない。ベッドから体を起こして隣のベッドで寝ているバーバラを起こさないようにソッと部屋から抜け出す。外に出ると夜特有の風の冷たさに体を震わす。なにか羽織ってくればよかったけれど今さら部屋に戻るのも面倒くさかったからそのまま星空を見上げているといきなり後ろから服をかけられた。

「そんな格好だと風邪ひくぞ」


「……レック」


昨日のことは怒ってないのだろうか。なんでここにいるの。と聞きたいことはいっぱいあったけど言葉には出来なかった。


「あれから色々考えたけどやっぱり周りがどんな目で見ようと、オレの気持ちは変わらないから」


「う、嘘よ!人はそんな強くないわ。レックだって知ってるでしょ?私の過去も。年だって5つも…違う。」


レックに私はふさわしくない。何もかもが違いすぎる。レックと同じ年でいられたならもっと私は素直でいられたのに。下を俯いていると目から涙がこぼれそうになった。苦しい。私はどうやっても幸せになれないと思い知らされた。


「年齢差がオレを不幸にする?…それは違う。オレにとって本当に不幸なのは、年齢を理由にフラれることだ」


「それでも私はやっぱり貴方にふさわしくない。」


「だから!はぐらかさないで、ちゃんとオレと向き合えよ!」


肩をグッと捕まれた。レックの力が強くて少し痛い。顔を上げるとそこには真っ直ぐに見つめてくる彼の瞳。
私は逃げてただけなんだ。これ以上傷つきたくなくて、年とか、自分の過去とか身分とかそういうのを理由に自分の身を守っていた。ただ自分が可愛かっただけだ。自分の身を守るためにレックを傷つけてしまった。


「………好きだよ、ミレーユ。オレと一緒に生きてほしい。絶対にミレーユを悲しませない。オレがミレーユを守るよ。だから、しわくちゃなおじいさん、おばあさんになるまでずっと一緒にいよう。」


レックの言葉に涙が止まらない。こんな自分が幸せになってもいいのかと悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどレックは私に真っ直ぐな思いをぶつけてくる。


「はい…!」


レックの言葉に精一杯の返事をするとレックがくしゃり、と笑った。耐えられず彼の体に抱きつくと私の好きな匂いが鼻を掠める。ずっとこうしたかった。私はこうなることをずっと望んでいた。今まで意地を張っていたけれど今なら素直で言える。彼が『好き』と。




title*確かに恋だった
(20140620)

   end 
bkm

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