幸せすぎて死にたい 


「わんちゃん、こんにちは」


ミレーユが町で犬を見かけると犬の前にしゃがみこんで話しかけ始める。オレもミレーユの隣にしゃがみこんで一緒に犬の頭を撫でる。毛がふさふさしててきもちいい。


「ミレーユってホント犬とか猫とか好きだよな。そういうとこは女の子っぽいよな」


犬の頭を撫でてニコニコ笑っているミレーユにからかうようにそう言うと女の子っぽいと言われたのが気にさわったようでムッと唇を尖らせる。そういうとこがオレは女性より女の子っていう感じで可愛いと思うんだけど。


「レックだって動物好きでしょ?犬を見かけるとよく頭を撫でたりしてるし…よく犬や猫になつかれてたってターニアちゃんが言ってたわよ?」


ミレーユは犬から目を離さない。そのことに軽い嫉妬を覚える。


「そうだけどさぁ。やっぱミレーユが動物好きってちょっとしたギャップだよなぁ。まぁ、そこが可愛いんだけどさ」


第一印象はとにかく冷たい印象があったけど実際のミレーユはその逆だった。よく笑うし、ツボが浅いからかハッサンのつまらないジョークでさえ一人で笑う。気遣い上手だし、とにかく優しい。オレはそういうギャップに惹かれたわけだし。


「…も、もうからかうのはやめてちょうだい」


やっとミレーユの意識が犬からオレへと移った。白い肌が一瞬でピンク色に染まり、ミレーユの目がオロオロ、と恥ずかしそうに泳ぐ。そんな彼女の姿を見ていると無性に抱き締めたくなるが外だと思い出してなんとか思いとどめる。

「あ…」


犬がどこかに走り去っていくとミレーユが残念そうに声をあげる。

「ほら、宿に帰ろ」


「ええ、そうね。えっと…」


オレがミレーユに手を差し出すとミレーユは戸惑いがちに手を差し出す。


「まだ手繋ぐの慣れないの?」


「なんだか緊張しちゃって…。変ね、私の方が年上なのに」


「いや、年は関係ないってば。まぁ、少しずつ慣れればいいし、たぶん嫌でも慣れるよ。」


余裕ぶっているけどオレだって本当は緊張してる。そのうち手を繋ぐことだって当たり前のようになっていくんだろうなって考えると今から楽しみな気もする。


「ふふ、そうね。レックは甘えん坊さんだもんね。」


手を口元に当ててミレーユは笑う。


「甘えん坊さんは余計だって。それを言うならミレーユだって寂しがりやだし、立派に甘えん坊じゃないか」


「じゃあ、お互い様ね。私たち二人でいれば寂しくないわ。」


ミレーユが嬉しそうに笑って、絡めている手を更に深く絡める。そんな些細なことすら自分にとっては大きなもので。彼女が笑うたびに幸せな気持ちが膨らむ。どうやらオレはどうしようもなく彼女が愛しいらしい。





title*Poison×Apple
(20140610)

   end 
bkm

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