5つの甘やかし





「もー!なんでテリーってそんなに戦闘狂なの!?」


これに懲りてちゃんと休むこと!と無理やりベッドに横たわらせるとテリーが不機嫌そうに背中を向けた。
職業が魔法使いのくせにバトルマスターの時と同じように突進してやられたらしい。
回復魔法で傷を塞げるほど浅い傷ではないからしばらく安静にして治した方がいい、と言うのがチャモロの意見だった。


「完全に傷が回復するまでずっとあたしが世話するからね!」


そう言うと背中を向けていたテリーはこっちを向いた。


「お前がか?」
「ミレーユじゃなくて悪かったわね…」
「別に」


そう言ってテリーは再び背中を向けた。
なかなか心を開かないテリーをなんとかしようとテリーの看病役に挙手したわけだけどこれは先が長くなりそうだなぁ、とあたしは溜め息をつくのだった。


***


「テリー、食事の時間だよー!」


トレーのせいで両手が塞がってるから足でドアを開くとテリーが呆れたように溜め息をついた。


「騒がしいな」
「テリーが静かすぎるだけだってー!」


よいしょっとベッドの近くに置いてある椅子に座るとテリーもベッドから体を起こした。


「よこせ」
「だめだめ。テリーは怪我人なんだからあたしが食べさせてあげる!」
「はあ!?」


こんなに驚いてるテリーを見たのは初めてだ。うーん、いいものが見れた!


「はい、あーんしてあげるねっ!」
「いらない。オレは自分で食べれる」
「でも腕だって怪我してるんだから無理だって!」


パンを一口サイズに千切ってテリーの口許に運ぶと案外普通にぱくりと食べた。
テリーも自分でびっくりしてるようで微かに頬が赤くなっている。
もう一回パンを千切ってテリーの口許に運ぶとやっぱり食べた。
これは無意識とか反射的に、なのかな?
なんか動物にエサをあげてるみたいで楽しいし、可愛い…!
はい、あーん、と言うとテリーも口を開けた。


調子に乗って食べさせまくったらミレーユに怒られました。


***


一日中ベッドの上で安静といいのもあまりに退屈だろうということでミレーユから本を貸してもらったらしい。
ここであたしの出番だ。


「テリー?」
「ん?」
「手、怪我してるから本のページ捲れないでしょ? だからあたしが捲ってあげるね!」
「いや、そのぐらい出来る」
「遠慮しなくってもいいから!ね?ね?」


と無理やり、あたしが本を捲ってあげることになった。
ベッドから体を起こしているテリーの太もも辺りに本を開いて上げる。そのページを読み終えるとテリーが本から顔を上げてあたしの顔を見る。それが合図だ。その時、意外に顔の距離が近くなる。テリーの綺麗な顔が目の前にあるだけであたしは水中にいるみたいに上手く息が出来なくなる。
さすがにこの方法で1日で全部読み終えるのは難しく、途中で栞を挟んだ。


「つっかれたねー!」
「まったくだ」
「テリー、この本おもしろかったー?」
「あぁ。さすが姉さんだ」
「そうだよねー。本を読んでるときのテリーの目がきらきら輝いてたもん!」
「お前、まさかずっとオレを見てたのか…本じゃなくって…」
「へ、うん、そうだけど?」


この後なぜかテリーが毛布にくるまってしまいました。


***


今日の晩ご飯はスープがあった。いつも通り、あたしが食べさせてあげたらスプーンで飲みきれなかったスープがテリーの口からこぼれてしまった。


「わっ!ごめんテリー!熱くない?」
「あぁ、別に熱くはないが…」


テリーがふと眉を寄せる。きっと不快感のせいだろうけど。近くに何か拭くものがないか探すけれど今日に限って持ってくるものを忘れてしまったようだ。ポケットに手を突っ込むとハンカチが入っていた。


「あたしのハンカチでごめんね…よいしょっと…」


身を乗り出してテリーの口元にこぼれていたスープをハンカチで拭き取る。唇、綺麗だなぁ、なんて考えながら一心不乱に拭き取ってるとテリーが焦ってるような声色でもういい、と言った。


「あ、ごめん。テリーの唇が綺麗で、つい…」
「なんだそれ」


テリーが眉をひそめる。男の子は綺麗って言われてもあまり嬉しくないのかな。

スープを飲ませるたびに口元を拭いている姿をレックに見られて笑われました。


***


「そういえば…包帯もだいぶ取れてきたしお風呂入りたくなったよね」
「確かに、そうだな…」


テリーがげっそりした様子でそう答えた。ここ2日、3日入れてないのを気にしてるのかな?
でも一日中ベッドの上だから汗をかくわけでも汚れるわけでもないんだからそんなに気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ。
匂いは…テリーの胸元に鼻先をくっつける。いい匂い。ミレーユと似たような匂いがする。


「お前はなにをしてるんだ…」
「あっ、テリー大丈夫だよ。すっごくいい匂いだから!」
「………」
「え、なんで、ちょっと、どうしてそんなに引いてるの!?」


テリーの顔がひきつっている。だいぶ仲良くなれたと思ってたのになぁ。好感度が少し下がったかもしれない。まぁ、それはいいとしてお風呂はさすがに入れないけど体を拭いてあげることぐらいはしよう。
宿屋の店の人にタオルを何枚か借りて一枚水で濡らしてぎゅっと絞って部屋に戻る。


「テリー、恥ずかしいかもしれないけどその恥を捨ててあたしに裸を見せてね〜」
「なんだその言い方…。」
「いいからいいから〜!」
「お、おい…!」


嫌がるテリーを無理やり押さえつけて服を脱がす。もちろん上半身だけ。下半身はその、さすがに自分で拭いてもらおう。あ、パンツだけはいてくれてれば足とか拭いてあげられるけどね!


「お、おぉ…!」


まるで温泉で女湯を覗き裸の女性を見たような男の声をあげるあたし。いや、声をあげられずにはいられない。女の子のように白いのだ。女のはずなのに少し興奮してしまった自分が恥ずかしい。


「じゃあ、拭くね」
「…あぁ、頼む」


テリーの耳が少し赤い。女の子慣れしてそうなのに女の子に裸を見られるのが恥ずかしいなんてテリーはちょっと変だ。
テリーの白い背中を濡れタオルで拭く。こうやって間近で見るとやっぱり男の子の体で背中はあたしよりやっぱり広いし、二の腕なんかも筋肉がレックやハッサン程ではないけれどちゃんとついている。


「じゃあ次は前!」


動揺なんてしてないフリをして笑顔を浮かべる。男の子の体を見てこんなにドキドキするなんてあたしってやっぱり年頃の女の子だったんだね!
テリーの胸板を見てると無性にそこに抱きつきたくなるのを堪えてタオルで拭く。


「…おい、バーバラ…あとは、自分で拭く。」


テリーってやっぱり腹筋割れてないんだ。なんか鎖骨とか腰のラインとか妙に色っぽい。ヤバイ、テリーの色気にやられる。

そんなことを考えながら鎖骨に手を伸ばしたところをチャモロとハッサンに見られて冷静さを失ったチャモロと異様にニヤニヤしているハッサンの誤解を解きました。


***


「ツメが伸びてきたな…」
「あー、テリーはそういうの気になる人かぁ…」


読みかけの魔法書を近くのデスクに置き、椅子から立ち上がってリュックからポーチを取り出す。


「ツメ、切ってあげる!」
「だから…なんでそうやって世話を焼きたがるんだ…」
「え、でもテリーってツメをこまめに切る人でしょ? 落ち着かないなら切ってあげるよ?」
「ダメだ…話が噛み合わない…」


テリーが諦めたところでポーチから爪切りを取り出す。いやー、爪切りまで常備してるなんてあたしったら女子力高いっ!


「はい、手だしてっ!」
「…………」


なかなか手を出さないテリーの手をギュッと掴む。意外にもテリーは特に抵抗はしなかった。
テリーの指が長いし細くて、おまけに今はツメが伸びてるから手だけ見れば、女の子と勘違いしてしまいそうだ。
ツメを爪切りで切ってやる。テリーの怪我はだいぶ治ってきてるからきっと明日には戦線に復帰出来るだろう。だから少しでもこうやって世話を焼きたかった。誰にも頼らず、実の姉にも甘えないテリーを甘やかしてあげたかった。これも当の本人からしたら余計なお世話なんだろうけど。


「明日には、治るね」
「そう、だな」
「あーあ、もう少しテリーのお世話したかったぁ…」
「ホント、お人好しだな…」
「えー、そうかなぁ…お人好しなのはレックじゃない?」
「確かにな」


二人でくすくすと笑う。爪切りをポーチにしまってリュックにしまう。


「ね、テリー、あと何かしてほしいことある?」
「そうだな…」


口元に手を当て考え込むテリー。
何か、意外だな。てっきり必要ないとバッサリ切り捨てられると思ってたから。この何日間は無駄じゃなかったということか。


「バーバラ」


テリーにしては柔らかい声であたしの名前を呼ぶ。
テリーがどんなことをお願いしてもそれに答えてあげよう。

この後、あたしはテリーのお願いに顔が真っ赤になってしまうのでした。





title*TOY
(20150224)



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