あの時伝えておけばよかった




*クリアリ
雰囲気暗めで切ない話。
結ばれないので注意。






























「クリフトって不思議よねぇ…」
「え、何が、ですかっ?」


姫様がぽつりと何気なく呟いた言葉につい反応してしまった私を見て姫様がきょとんとして少しすると笑い出した。相変わらず笑い声も可憐だ。


「クリフトを見てると退屈しないのよね。私ね!クリフトも知ってると思うけど強い人が好きなの。だって強い人と戦うのってすっごく気持ちいいし、自分が強くなっていくのを感じるわ!」
「姫様は幼い頃からずっとそうでしたね」


幼い頃の姫様の一つ一つの伝説を今でも思い出せる。


「逆にジッとしてるのは退屈ね。それなら強い武器を見つめてる方がマシ。でも、クリフトといると不思議と退屈じゃないの。クリフトは私より全然弱いのにね」
「ひ、姫様…」


じーんときてつい目尻に涙を浮かべると姫様が何で泣いてるのよ?と首を傾げる。その仕草もとても可愛らしいです。むしろ天使です。


「だからね、クリフト、約束してね」
「はい」
「ずうっと一緒にいてね。」
「…え、あ、あの…姫様…」
「結婚ならしないわよ。もし無理やりさせられても…クリフトが私を拐ってくれるでしょ?」
「はい、もちろん」


いつもの私なら確実にどもるであろうシチュエーションなのにハッキリと私はそう答えた。


「まあ、その前に私がその相手を気絶させて教会から抜け出すけどね!」
「姫様ならやりかねませんね。相手も王族ということを忘れてませんよね?」
「王族なんて関係ないわ!夫にするなら私より強い相手じゃないと!」


姫様よりも強い方なんて勇者様ぐらいしか思い付かない。いや、勇者様に姫様を渡すなんて断固阻止!


「クリフト」
「はい、姫様」
「私と一緒に逃げる?」
「なにを、おしゃって、いるのですか。姫様はサントハイムの至宝とも呼べる存在であって世継ぎを作らなくては…」


私の言葉に姫様の顔が強張る。なんで、そんな顔を。まるであふれでる涙を堪えるように唇をキュッとしめて無理やり笑うような、そんな強がりな顔をする。
ここで私が姫様と一緒に逃げていたのならあんな結末は変わったのだろうか。


「もー、冗談よっ!だから説教はなし!だいたいクリフトは説教がいちいち長すぎるのよ。ブライに似てきたんじゃない?」
「ブライ様に似てきたなんて光栄です」
「クリフトもブライみたいにハゲちゃえばいいんだわ」
「そ、それは遠慮します」
「ふふん、私の勝ちね」


そう言って姫様が笑う。
それが私が見た姫様の最後の、心からの笑顔だった。


***


姫様は他国の王子と結婚した。
姫様は二つ返事で了承したらしい。笑顔で語っていた教会を抜け出す作戦なんて決行もせず、全てを受け入れて、あの男の口付けも受け入れた。
大した努力もせず姫様を手に入れた男が、全てを諦めて受け入れてしまった姫様が、何よりも何も出来なかった自分が許せなかった。

「どうすれば、なにを、すれば、良かったのだろうか…」


目に見えて痩せていく自分を見て勇者様が何か言っていた。もう何も聴こえない。耳が機能していない。視力もだんだん落ちてきたのが分かる。安静にするようにと妻に言われたが仕事か神にすがることしか今の自分はやることがない。


「ひめ、さま」


姫様は元気な男の子を産んで少しして亡くなった。過度なストレスが主な原因だった。自分が傍にいさえすればそのストレスを少しでも除くことが出来たかもしれないのに私は姫様から離れた。サントハイムの教会から離れるわけにいかないと不安でいっぱいだった姫様を独りにしてしまった。


「…いま、あなたの、そばに…」


ステンドガラスが光輝いていた。その光が姫様に見えた。きっと姫様が私を迎えにきた。


「私はずっとあなたのことが、好きでした」





title*確かに恋だった
(20150213)



back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -