好きかも、しれない
*テリバの日記念
「悪いけどテリーとバーバラで買い出しに行ってくれね?」
このパーティーのリーダーであるレックが宿屋の個室に荷物を置くと後ろで同じように少ない荷物を置いていたテリーが不機嫌そうになんで、と呟いた。
「新しく仲間になったルーキーとかに装備を整えに行くからアイテムの補充をよろしくってこと!」
「チャモロとかいるだろ」
「お前ねぇ…年下をあてにして恥ずかしくねーの? チャモロはハッサンの修行に付き合ってるよ、ちなみにアモスは昼寝する気満々だったし、ミレーユは街の情報収集。つまり、お前らしかいないわけ」
「バーバラ一人で行けばいい」
「バーバラは無駄遣いするし、たまに迷子になるからお前が見張っておくの!」
これ以上反論することが出来ず、テリーは小さく唸った。
不機嫌さを隠さない足音でテリーは隣の部屋にノックもせずに入った。
すかさず部屋から飛んできた悲鳴と枕にテリーは顔を引きつらせた。
「ノックしてから部屋に入ってよこの変態!」
「誰が変態だ。誰もお前の裸が見たいなんて言ってないぜ」
「はあぁー!?」
いきなり始まった2人の喧嘩をレックはまぁまぁ、と仲裁してから買い物リストをテリーに渡した。
背伸びをして覗き込んできたバーバラにテリーは紙を上に高く上げる。
「なんでそんな意地悪するのよ!」
「フッ、チビは大変だな」
「プッ!レックよりも遥かにチビな奴が何を言ってるんだか!」
「なんだと…」
「なによー!やる気ー!?」
そんな2人の様子にレックはルーキー、ホイミン、マリリンらの仲間モンスターを連れて宿屋から早急に退散した。
***
あたしとテリーがレックがいなくなった時、時刻は既に午前11時を回っていた。
宿屋に着いたのが8時ちょい過ぎだったことを考えるとかなりの長い時間言い争いをしていたことに気づいた。
「行こっか」
「あぁ…」
出かける前からこんな疲れてるあたしたちって本当に馬鹿だ。
買い物リストに載っているのはそんなに多くもなくて10分で終わるような数だった。
「ねー、買い物終わったらお昼ご飯食べようよぅー!」
「終わったらな」
「テリーは何が食べたい?あたしはオシャレなお店だったら何でもいいんだけど」
「食えれば何でもいい」
「何でもいいが一番困るんだけど…」
「じゃあ、お前以外の手料理が食べたい」
「………ちゃんと食べれるもん。レックはちゃんと食べてくれたし、」
「ぶちすけにあげてたけどな、ちなみにぶちすけは野良猫にあげてて野良猫はカラスにあげてたぜ」
「………」
テリーのドヤ顔がかなりムカついたけど今は喧嘩してる場合じゃない。買い物をちゃっちゃっと終わらせてお昼ご飯食べたいし!
「わっ」
走ってきた男の子にぶつかられて、男の子はぺたりと尻餅をついた。
男の子は泣かなかったけれどなかなか立ち上がらない。
あたしが手を差し出すと男の子がその手を取って立ち上がった。
ふにふにの子供特有の柔らかい手に頬が緩む。
「きみ、お母さんは?」
「まま、どっかいっちゃった。ぼくね、ままをさがしてたんだけど、みつからなくてっ…!」
転んでも泣かなかった男の子が泣き始める。
あたしは男の子の背中を優しく撫でてテリーに目配せする。
「わかってる、このガキの母親を見つけたいんだろ」
「うん、テリー子供苦手だよね。あたしが買い物もこの子の母親を探すのもやるから先に帰ってて!」
迷子を放っておけないし!
この子の母親だって絶対に探してるんだから。
「どうせ帰ってもやることないし、付き合ってやるよ」
「上から目線なのがちょっとムカつくけど…、ありがと!」
そう言うとテリーはそっぽ向いて別に、と言った。
本当に照れ屋なんだから。
なかなか泣き止まない男の子を抱き上げようとすると男の子が自分で歩くと言った。
なかなか男らしいなこの子。
「じゃあ、お姉さんとお兄さんと手を繋いで歩こっか。いいよね、テリー?」
「どうせオレには拒否権ないだろ」
テリーが渋々手袋を外して男の子と手を出し繋いだ。それだけのことなのにあたしは何だか嬉しくなって男の子のもう一方の手と繋いだ。
あたしとテリーの真ん中で男の子は嬉しそうにきゃっきゃっと可愛らしくはしゃいでいる。
(なんか懐かしい…)
あたしも小さい頃こうやってカルベ夫人と手を繋いで歩いたのかな。
今考えてみれば今この状況を何も知らない人が見たら家族って、思われるのかな。
よく見たら男の子はあたしそっくりの赤毛で大きな瞳の色はテリーそっくりのアメジストだ。
(あたしとテリーの子供が生まれたらこんな感じかな…って!あたしったら何考えてんのよ!?)
テリーのことは普通に好きだけどそれは仲間としての好きだし!
「道具屋で買い物ついでに話を聞いとくか」
「う、うん、そうだね!」
買い物リストに載っているものを一通り選んで会計しようとすると男の子があたしと繋いだ手をぐいぐいと下に引っ張ってくる。
「どうしたの?」
男の子と同じ目線になるようにしゃがんで聞くと男の子があっち、と言った。
その方向はお菓子コーナーだけど…、もしかしてお菓子食べたいのかな。
「じゃあ、一個だけね?」
「うん!」
「待て」
あたしと男の子のほのぼのした空気に水を差すテリー。
「この後昼飯食うんじゃないのか」
「そ、それは別腹!」
「お前、親になれないな」
「は、はあぁ!?」
何それ!オレの方が子育て出来ますよアピール!?
「おねえちゃん、やっぱりいい」
「ダメだよ!こんなやつに負けちゃあ!」
やっぱりいいと遠慮しつつ男の子の目線はチラチラとお菓子コーナーに向けられる。
ここのお菓子は確かに美味しそうだし、あたしだったら一つじゃ絞れそうにないぐらいに品揃えがいい。
「……昼飯食べた後に食うならお菓子買えばいい」
テリーが溜め息をつくとそう言った。
意外とテリーは子供に弱いみたい。
「おにいちゃん、ありがとう!」
「…あぁ」
おー、照れてる照れてる。
あたしがニヤニヤと笑ってるとテリーがあたしの頬を抓ってくる。
「痛いってば!何すんのよ!」
「お前が気持ち悪い顔してるからだ」
「むぅ…」
あたしとテリーが恒例のプチ喧嘩をしてると男の子がじーっと見てきた。
「おねえちゃんとおにいちゃんってけっこんしてるの?」
「「誰がこんなやつと!!」」
「だってぼくのままとぱぱもいつもケンカしてるけどね、ケンカするほどなかがいいんだよ!」
「え、えっとね、あたしとテリーは全然!そんな関係じゃないからね、第一結婚とかまだ早いし…」
「オレもこんなやつと結婚なんて願い下げだな。結婚するつもりも全くないし」
「あ、あたしだってあんたと結婚なんてぜーったいにっ!嫌ですよぅだ!」
「はいはい、飯食いに行くぞ。腹減った」
あ、逃げた。
***
お昼ご飯はランチタイムだから少し並んだけれどそんなことも気にならないぐらい美味しかった。
男の子はお子様ランチとおまけで付いてきたおもちゃと塗り絵にご満悦だし。
レタスとトマトとベーコンを挟んだパンは文句なしに美味しいし、テリーが食べてたこの店オリジナルカレーも一口貰ったら美味しかった。
コーヒーも苦いのがニガテなあたしでも美味しく飲めたし。
「おいしかったー!」
そう言って笑う男の子の可愛らしさといったら…うん、このままお持ち帰りしたくなるぐらいだ。
「ん…」
男の子が眠そうに目を擦る。
「眠い?おぶろうか?」
「んー、」
フリフリと首を横に振るけれど男の子はどう見ても眠そうだ。
お昼ご飯食べたし、ぽかぽかしててあたしもちょっと眠いぐらいに今日はお昼寝日和だ。
テリーが男の子をおんぶすると男の子はすぐにスヤスヤと眠り始めた。
「なんだよ…」
「んー、テリーって子供好きじゃないとか言っといて扱いが上手いよね。良いお父さんになれるんじゃない?」
「お前も思ったよりもいい母親になれるんじゃないのか」
「お世辞はいいってば!」
照れくさくなってあたしはテリーから目をそらすとテリーがフッと微笑んだのが視界の隅で見えた。
なんでこんなやつにあたしはドキドキしてるんだか。
「この子のお母さん、なかなか見つからないね」
「すれ違いになってるのかもな」
「じゃあ、あそこの公園で休もうよ。あたし、なんだか疲れちゃった!」
公園に着くと起きた男の子が遊具で遊び始める。
「ふふ、可愛いね」
「誘拐すんなよ」
「しないわよ」
肩が触れ合うたびに胸がちりちりと熱くなる。全身がボーッとしていて自分が自分じゃないみたい。
「変なこと言ってもいい?」
「変なことなんていつも言ってるだろ」
「む…、まぁ、いいや。あの、さ…、家族ってこんな感じなのかな」
「家族…か、」
「うん、あたし、あまり覚えてないし、たぶん普通の家族とは違ったかもなぁーって、」
「オレも家族は、姉さんしかいないから、よくわからないな」
「そっか」
「でも、家族っていうのも悪くないかもな」
「テリーが誰かと結婚なんて想像出来ないし、テリーの子供も想像出来ないなぁ。テリーに似て生意気な子供生まれちゃったらどうしよっか?」
「オレもお前が誰かと結婚なんて想像出来ないな。きっと、お前の子供はとんだお転婆に育つんだろうな」
「わかんないわよー?お淑やかな子になるかもしれないし!」
「どうだか」
テリーと将来の話をするなんて何だか不思議な感じだ。
「ね、お互い結婚出来なかったらあたしたちが結婚するのもアリじゃない?何だかんだ相性いいし!」
「フッ、何だお前、オレに惚れてるのか?」
「なっ!そんなわけないでしょー!?もー!」
前言撤回!こんなやつと結婚なんてするもんですか!
「ままー!」
男の子が息を切らせて走ってきた女性に飛びついた。
「何とお礼を申し上げればいいか…!ありがとうございます!」
女性が何回もぺこりとお辞儀する。
「いえいえ、」
「おねえちゃんありがとー!」
「うん、もう迷子になっちゃダメだよ?」
「うん!」
しゃがんで男の子の頭を撫でる。
「おにいちゃんもありがとー!」
「あぁ、」
テリーが優しく微笑むと男の子も嬉しそうに笑った。
何度も振り返って手を振る男の子に手を振り返しているともう空はすっかり茜色になっていた。
「帰ろっか」
「あぁ」
自然と繋いだ手はとても暖かかった。
あたしはもしかしたら、こいつのこと…、好きかも、しれない。
title*
確かに恋だった(20151008)
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