ボクラノキセキ
グレベロ。距離を置いたけど結局、置けなかった話。
:
「わ、私!グレン様のことをお、お慕いしてます!」


今日は朝から土砂降りの雨が降っていて森の散策も出来そうにないから退屈だなぁ、なんて欠伸をしながら廊下を歩いているとモースヴィーグの侍女から声を掛けられた。彼女の緊迫したような表情と声色に何かあったのかと聞いてみれば飛び出してきた言葉は冒頭のものだった。
人から告白された経験がない俺は当然、咄嗟に反応も出来ず、目を見開いてぱちぱち、と瞬きを繰り返した。
まだ早朝なせいか周りには人ひとりいなく、外で雨が降っている音しか聞こえないからぐらいに静かだった。
目の前の侍女は自分のスカートを両手でぎゅっと握って、顔を林檎のように真っ赤にさせながらぷるぷるも震えていた。


「あの、バルトと勘違いしてるんじゃ…」


腹違いの弟はどういうわけか女性にモテる。
対して俺は貴族じゃないし、バルトのように気遣いが上手いわけでもない。そんな俺が告白されるはずもない。誤解は早く解かねば、とそう言えば彼女は目に見えて肩を落とした。


「間違いではありません。私はバルト様ではなく、グレン様のことが…好き、なんです。」
「えっと、そう言ってくれるのは嬉しいけど俺、正直言ってあなたのことあまり知らないし…だから、友達からでよければ」
「いいんですか!?」
「う、うん」
「ありがとうございます!」


彼女は俺の手を握って笑顔を綻ばせた。





「グレン、告白されたんだってな」
「コットン、からかうなよ。きっと何かの気の迷いさ。」
「ふーん、ベロニカ様の代わりは誰にも務まらないってか?」


今日のコットンは酔いが早いな。グイグイと俺に絡んでくる。絡み酒ほど面倒くさいのはない。
俺は不機嫌そうな表情を作って酒を口に運ぶ。


「そんなんじゃないって。俺は人を好きになるとか、そういうの分かんないから」
「そんなの気付いたら好きになってるんだろーが!」
「そういうコットンは好きな奴いるのかよ?」
「……いねーけど」
「じゃあ、放っておいてくれ」





酒に呑まれているコットンは残して部屋に戻る。
コツコツ、とブーツの音が響き、辺りは静寂に包まれていた。
今日はあいにくの雨だったし、何故か告白されるし、コットンには絡まれるし、災難な1日だった。
ーーベロニカ様に会えなかったし、


「距離を置くって決めたんだから仕方ないよな」
「何が仕方ないんだ?」
「べ、ベロニカ様!」


すぐに壁の端によって敬礼するとベロニカ様とリダは珍しいものを見るような目で俺を見た。


「敬礼なんて必要ないのに…」
「いえ、一応貴方の騎士ですから」
「それも、そうか。で、何が仕方ないんだ?何から距離を置いてる?」
「えっと、それは…」


敬礼を解いて腕を組んで考える。


「すまない。そんなに悩ませるつもりじゃなかった。忘れてくれ。」
「…申し訳ありません。」
「それよりも久しぶりにグレンに会えたんだ。前みたいに少し話をしようじゃないか」


ベロニカ様の申し出は今すぐにでも飛びつきたいくらいに魅力的なものであった。
でも、諦めるって、決めたじゃないか。


「ベロニカ様、こんな夜更けに…」
「いいじゃないか、リダ」


小言をこぼすリダにベロニカが笑顔で返す。
どうしたらこの状況から抜け出せるだろうか。


「すみません。珍しく酔ってしまったようで気分が優れないので遠慮させていただきます。」
「そうだったのか!それはいけないな。すぐにカルロを呼んでくる!」


ベロニカ様はすぐにドレスを翻してカルロー!と叫びながら走り去り、リダが慌ててそれを追いかけていった。
その後ろ姿を見届けて部屋に戻る。
心配してくれたことを嬉しく思いながら封じ込めたはずの感情が徐々に湧き出て溜め息をついた。




「それで、アデルとミミとコーデリアで…グレン様?」
「あ、ごめん。二日酔いしちゃったみたいだ」
「まぁ!それは大変!グレン様!お部屋でゆっくりしなくては!」
「大丈夫。それより話を聞かせて」


彼女といると気が楽だ。
勝手に話をしてくれるし、優しいし、それにこんな俺に好意を持ってくれる。
ベロニカ様といるといつからか苦しくなった。胸のどこかにずっとつっかかっているものがあるのに取れなくて、胸がざわざわする。ベロニカ様がユージン王子の話をするだけで胸がムカムカしてどうすればいいのか分からなくなる。





話が終わって部屋に戻ればバルトに何か言いたげな顔をされたけど見なかったふりをしてベッドに倒れこんだ。





いい匂いがふわっとして目を覚ませば、目の前にはベロニカ様がいた。


「グレン?」
「べ、ベロニカ様…!何故ここに…!」


ベロニカ様はベッドの近くの椅子に座っていた。混乱して体を起こそうとする俺を落ち着け、と言って黙らせると俺の額に右手で触れた。
冷たくて気持ちいい。
離れようとする手を自分の手で捕まえて、その手を自分の頬に押し付ける。


「熱とかはないようだな。安心した!」
「ただの二日酔いですから」
「昨日カルロにも言われた。ただの二日酔いで俺を呼ばないでください、とな」
「ふふ、確かに」


カルロの呆れた表情が目に浮かぶ。


「なぁ、グレン。私と最近距離を置いてるのは好きな子が出来たからか?」


ベロニカ様の言葉に閉じていた目をつい開いてしまった。


「好きな子じゃないです!」
「でも、グレンが告白された、と城中で噂になっていたぞ。だから私はてっきり」
「違いますから!」


誤解されたらたまったもんじゃない。
あれ?ベロニカ様と距離を置くなら誤解させとくべきなのに何故俺はあんなにも必死に否定したんだ?


「そう、なのか…?」


ベロニカ様は俺の必死な様子に目をぱちぱちとさせていたが少しするとくすくすと笑い出した。


「な、なぜ笑うんですか」
「ふふ、グレンがあまりにも必死だったから何だか可笑しくて…珍しい姿が見れて良かった」


ベロニカ様が左手で俺の髪を撫でる。


「俺、初めて告白されたんです。でも、人を好きになるとかあまり、分からなくて」
「私も同じだ。」
「ベロニカ様も…?ユージン王子のことは好きではないんですか?」
「ユージンも好きだけど、同じくらいにリダとかこの城の人のことが好きなんだ。」


ホッとして俺はベッドから体を起こす。
ベロニカ様は俺の頬と髪から手を離すと次は手に触れた。


「いつかユージン王子が特別になる日が来ますよ。お二人は夫婦なんですから」
「そうだといいな」


ベロニカ様がフッと口元を緩ませる。
その表情がユージン王子を想ってさせたものと分かると何だか面白くない。


「女性が男の部屋にいちゃダメですよ。」
「男の部屋も何もグレンじゃないか」


俺のことを男として全く見てないベロニカ様の発言にちょっと傷つく。


「男は狼なんですよ」
「グレン、私はお前に何をされたって構わないよ。」
「…ご自分が何をおっしゃってるか理解、してますか?」


そんなこと言われたら本当に何かしてしまいそうだ。


「十分理解している。だってグレンとは仲良しだし、別にいいかなって」


絶対に何か勘違いしてる。
世間知らずなお姫様に期待した俺が馬鹿だったのかも。
そういうところも愛おしいと感じてしまうのだけれど。


「でも、グレンに距離を置かれて寂しかった。だから距離を置かれるのは嫌かな」
「俺も少し、寂しかったです。」


本当は少し、なんて生易しいものではなかったけれど。


「グレンに好きな女の子が出来て、前のように一緒にお話が出来なくなってしまうと考えると悲しかった」
「俺もベロニカ様とユージン王子の邪魔をしないようにって、距離を置くのは辛かったです。」
「うん!じゃあ、そういうのは関係なしに話そう、グレン。だって私たち、友達だろ?」
「はは、ベロニカ様と友達なんて恐れ多いですけど俺でよければ喜んで」


本当はそれ以上の感情を抱いていたけれど言えるわけもない。
友達、だけでも凄く十分だ。


「じゃあ、友達になったし、一緒に昼寝しないか?」
「え、それはちょっと…」
「ふふ、冗談だ。」




(20160331)



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