ボクラノキセキ
今更バレンタインネタ。
グレベロからの広木→皆見
切なめ。
:


「ばれんたいん?」


ある昼下がり、気温も2月にしては暖かく、雲ひとつない晴れ。俺はベロニカ様と散歩しながら会話を楽しんでいた。ベロニカ様の白くて細い小さな手を引きながら今日がバレンタインだ、ということを何気なく話すとベロニカ様が不思議そうな顔でそう聞いてきた。


「はい。女性が意中の相手にチョコレートを贈るというしきたりのようなものです。最近ではお世話になった人に贈ったり、友人に贈ったり、逆に男性が女性にチョコを贈ることもあるそうです。」
「ほう!チョコレートを!面白いな!」


甘いものが大好きで行事ごとが大好きなベロニカ様は目を輝かせて俺の手をぎゅっと握った。
予想以上の食いつきように少し面白く思いながらずっと聞こうか聞かないか悩んでいたことを口に出した。


「ベロニカ様だったら誰にチョコレートを贈りますか?」


きっと彼女はこの城全員に贈ると言うだろう。ベロニカ様の好意を独り占めしたいなんてそんな恐れ多いことは言わない。けれど
少しだけ、少しだけそういったことを、思うことはある。
例えば、リダもバルトもいないこの二人っきりの時間や夜眠るまでの空いた時間の時。
その細くて柔らかそうな体を抱き寄せて愛の言葉を囁けたらどんなにいいか。
貴族ではなく、庶子として生まれ落ちてしまった自分には到底叶いそうにないことだ。
気付けばベロニカ様が先導するように前を歩いている。その後ろ姿は自分よりも小さいはずなのに何故だかとても頼もしく見える。これが王族、か。最近来た異国の王子を思い出し、俺は唇を噛み締めた。


「私は、この城に住んでいる全員に私はチョコレートを贈りたい。日々の感謝を込めて。」
「…ベロニカ様らしいですね。ユージン王子には…」


特別なチョコを贈るのだろうか。
それを聞いて俺はどうするんだ?


「ユージンにも贈る!あいつのことだからぶつぶつ文句を言いながらも食べてくれると思う。意外と優しいんだユージンは」


ベロニカ様がふふっ、と口元に手を当てて笑う。
ユージン王子のことを楽しそうに語るベロニカ様を見てるのが辛くて目を逸らした。


「グレンは甘いものが苦手だからみんなに贈るチョコではない甘さ控えめのものを贈らなくてはいけないな。」
「え」
「だって、苦手なんだろ?」
「覚えててくださったんですか?」
「当たり前だ。他でもないグレンのことだ。だっていつも一緒にいたじゃないか」
「………」
「どうした?」
「あ、その、凄く…嬉しくて、」


にやけてしまいそうな口元を片手で隠す。
ベロニカ様が俺だけにみんなと違うチョコを贈ってくれる。俺の言ったことを覚えててくれた。俺といつも一緒にいたと言ってくれた。一つ一つを心の中で何度も噛み締める。


「今年は無理だったけれど来年には絶対に贈ろう。楽しみにしててくれ」
「はい、もちろん」


来年が楽しみだなんて今まで思ったこともなかった。ベロニカ様はいつだって俺に知らない感情を教えてくれる。


「そうだ!グレンが女だったら誰に贈る?」
「俺が女だったら、ですか?」
「あぁ」


また突拍子のない質問だ。
そんなこと普通思い付きも口にも出さないだろうに。


「そうですね…俺だったら、」
「俺だったら?」











『ベロニカ様ただ一人に贈ります。』


あの時、グレンはベロニカにそう言っただろうか。もしかしたら言えないで笑って言葉を濁したかもしれない。


「思いっきり告白になっちゃうだろ、それ」


自分で自分を突っ込む。

なんであたしがそんなことを夢に見て思い出したのか、それは明日がバレンタインデーだから。
体を起こしてベッドの上でぼーっとカレンダーを眺める。


「バレンタインかぁ…」


今までバレンタインってどうしてたっけ。
小学生の頃はバレンタイン禁止だったし、中学の頃はモトと御堂にチロルチョコをあげたぐらいだったはず。
今更あたしがチョコ作るって言ったらお母さんがびっくりしそうだなァ。
って、あたし、皆見にチョコ贈る気満々?
いやいやいや、春湖に悪いし…。
しかも皆見はもうベロニカ様じゃないんだし、皆見は皆見だし。別に好きとか、そんなんじゃないし。だからあげる義理なんてない、はずなんだけど…。


「作って、みようかな…」


ほんの気まぐれ。あげるかあげないかは別としてあの人のことを想いながら作るぐらいは許されるんじゃないだろうか。
自室から出て、洗面所で顔をテキトーに洗って、パンをかじる。
私服に着替えて近くのスーパーで材料を買ってキッチンに立つ。


「えーっとチョコを細かく刻んで湯煎、ね…」


レシピを見ながらふんふん、と頷いて包丁で刻んでいく。


「悠、あんた、チョコ…!好きな男の子でも出来たの!?」
「え、いやぁ、作ってるだけで好きな男の子がいるってわけじゃないよ?」
「あ、あら、そうなの?」


お母さんってば、あたしがチョコ作ってるだけで想像が飛躍しすぎ。
普段のあたしが女子力無さすぎただけか。


お母さんをテキトーに追い払ってレシピを見ながら作れば大きな失敗もなく普通に作れた。
まぁ、チョコを溶かして生クリームと混ぜて買ってきたタルト生地に流してトッピングしただけだし。
綺麗にラッピングして、鞄に入れた。


どうせ渡せるはずもないと思っていたのにチャンスは昼休み後に訪れた。


「皆見!あげるっ!」
「え!あ、おっと…!」


昼休み終了のチャイムが鳴ってみんなが席についていくとあたしは隣の皆見にはい!と綺麗にラッピングしたチョコをいかにも義理チョコです!みたいな感じで投げ渡した。皆見は危なげにキャッチするとチョコを見てサンキューと言ってすぐに食べ始めた。


「え!食べるの!」
「え、食べちゃダメ?」
「いや、ダメってわけじゃないけど…」


家に帰ってから食べるものだとばかり考えてたから少しびっくりしてしまった。


「うん、美味しい」
「そ、よかった」

皆見の言葉ににやけてしまいそうな顔を頬杖して窓を眺めるポーズで誤魔化す。


「そういえば、グレンが…」
「ん?」
「バレンタインの話をベロニカにしてくれたことがあって、」
「ふぅん…グレンがねぇ」
「来年はチョコあげるって約束したのに結局あげること出来なくて、」
「あぁ…、別にそれは仕方ないじゃん」
「そうだけど…、きっとグレン凄く楽しみにしててくれたから」
「…なんでわかるの?」
「ベロニカがグレンにあげるって言ったとき、グレン喜んでたから、ちょうどさっきの広木みたいに…」


窓から視線を皆見に戻すと皆見は美味しそうにタルトを頬張っていた。


「やっぱ、兄弟だな。グレンそっくり」


そりゃあ本人ですから、なんて言えるわけもないからはは、と笑って誤魔化す。


「他にはグレン何か言ってた?」
「そうそう、グレンが女だったら誰にあげるっていう質問をベロニカがしたんだ」
「へぇー、で、グレンはなんて答えたの?」


そこだけ何故か覚えてない。
どうして?


「それが珍しくグレンの奴、押し黙っちゃって…」
「へぇー?」
「確か…秘密です、とか言って笑って誤魔化されちゃったんだよなぁ。」
「そう…なんだ…そっか、」


グレンは結局ベロニカに言えなかったのか。
記憶が蘇ってきてふー、と長い息を吐いた。


「ベロニカ、けっこう自信あったんだよなぁ…」
「ん?なんの?」
「グレンから貰える!っていう自信」


え、ちょっと待って、なにそれ。
それはどういう意味?
ベロニカ様もグレンから貰いたかった、とかそういう意味なの?


そんな疑問を口に出せるわけもなく、黙って皆見の横顔を見つめた。


「グレンから貰いたかったな、チョコ」
「は、春湖に妬かれちゃうよー?」


お願い、そんなこと言わないで。
あたしにそんなこと言わせないで。


「春湖にヤキモチ妬かれるなら別にいい、かな…」
「性格黒いなぁ、皆見は。グレンがもし女に転生してたら春湖が黙っちゃいないでしょ」
「大丈夫だって!俺は春湖一筋ですから」
「ひゅーひゅー、熱いねぇー!」


告白する前にフラれてしまったこの気持ちはどうすればいいの?
一生、こんな大きすぎる気持ちを抱えながら自分を偽って、皆見と春湖を見守り続けるのか。
そんなのって、辛すぎるよ。


皆見はタルトをあっという間に平らげると次の時間の準備を始める。
皆見はきっと一生気付かない。グレンの想いも、あたしの想いも。

告白する権利すら与えられない。昔も、今も。
この行き場のない恋心を自分で簡単に捨てられればどんなにいいか、


(諦めることに慣れてたはずなのに…)


何故、あなただけを諦めることが出来ないのだろうか。


行き場のない恋心
(20160330)










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