セルジア殿下の暴走

 未だ疑問を抱えたままセルジア殿下の部屋に戻る。
「殿下、やはり具合が悪いのでしたら症状を伝へた方がよろしいのでは…。」
 寝台の上の膨らんだ布団に向けて言うが、殿下は無反応。
 ふと、俺はその布団に違和感を覚えた。
「…殿下?」
 失礼します、と声をかけ布団をめくる。
 その中にいた、いや"あった"のは、セルジア殿下ではなく、大きめの枕だった。
「殿下?!」
 部屋を見渡す。机や椅子の下なども覗くが、みつからない。
 もしかして、誘拐か。
「捜索だ。」
 俺は元々街の警備を担当していた。その元同僚達に言って探してもらおう。もちろん陛下や他の殿下にも報告はするが、あれだけ散々迷惑をかけるなと言われたのだから、先に自分で探す手立てをして……。と今後の計画を立てながら、部屋を出ようとドアに手を。
「うおっ?!」
 かけようとしたドアノブが無かった。
 いや違う。ドアが廊下側から開かれたのだ。
「……新しい殿下の護衛は貴方ですか。」
 ドアを開いたのは、制服や紋章から城の警備を担当する兵だとわかった。
 そしてその腰くらいの位置に緑色。
「殿下!」
 どうやら、警備兵がセルジア殿下を連れてきてくれたらしい。
「殿下、お怪我などは……。」
 と声をかけるが、無視して俺の脇をすり抜け部屋の中へ。
 なぜかふくれっ面なのが気になった。
「…まあ、殿下が無事でよかった。殿下はどこにいましたか?誰かに連れ去られたとか…。」
 そう俺が言うと、警備兵にため息をつかれた。
「聞いてないんですか?セルジア殿下はよく脱走するんですよ。その度に我々が探し回ることになるんです。今回は私が捕まえたので大丈夫でしたが、街に出たら大変なんですからね。」
 警備兵がため息と愚痴を混ぜていってくる。
 そうか、殿下は自分の意思で脱走し、そして未遂で連れ戻されたから、あんなふくれっ面だったのか。
「……そうなんですか。ありがとうございます。」
「まあ、街に出て貴方の元同僚にも迷惑をかけないように、気をつけていてくださいよ。」
 また迷惑の話……。
 再三繰り返されるその言葉に辟易しながら、再び感謝を言って戸を閉じた。
 しかしセルジア殿下の暴走はそこで終りではなかった。
「な、なんですかこの羽は?!」
 戸を閉じて振り返ると、部屋中にふわふわと羽が散らばっていた。
 セルジア殿下に目を向けると、その羽の一つを指先で弄んでいるらしかった。
「ど、どこから調達したんですか、この羽。」
 殿下に問うと、殿下は俺を見てにっこり笑った。
「まくら!」
 そしてそのまま走って部屋を出ていく。
「殿下?!ちょっと待って下さい!!!」
 部屋の片付け……はもういい!また脱走されてはかなわない!と、俺もセルジア殿下を追いかけ部屋を出た。

|×
- ナノ -