深海にて。

 もし私が死神でなかったなら、もっと和やかにいられただろうか。

「帰れ」
「断る」
 少年が私を睨む。年上相手に生意気なことだ。とは言え、私を廃しようとするのは至極真っ当なこと。母に生を受けたものは皆本能的に私を、死を嫌う。其れは火を司る彼も又然り。
「てめー…ローリアが優しいからって甘えんじゃねーぞ」
 ローリアとは彼の双子の姉。水を司る。
 炎は全てを消し去り、水は全てを包み込む。其れは性格にも反映されており、彼女は非常に寛容だった。現に今、死神である私をもこうして家に入れてくれている。
 死も火もその他の者共も平等に扱う彼女を、私は気に入っていた。
 現在家主はお魚クッキーを取りに離席している。
「ふん。元はといえば私が先客だ。遠慮すべきはお前だろう」
「んだとこら」
 喧嘩腰で彼が椅子を蹴って立ち上がった。全く血の気の盛んなことだ、と呆れる私の目の前で、先ほど蹴られたイスがそのままの勢いで倒れていき、止める暇もなく後ろの貝の楽器に当たり、壊れた。
「…お、俺のせいじゃないからな」
「いやどう考えてもお前だろう」
 その後、私たちは家主に説教され追い出されたのだった。

(しかし、これも又楽し)



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