よばいばい

「悪いが、A組と組むのは辞退してくれないか」
 先生に、職員室から衝立で仕切られた面談スペース的なところに連れてかれて、座ってからの第一声が、これ。
「えーなんでですかー?!人数的にはちょうどいいんでしょ?」
「いやそうなんだがなぁ」
 先生が、年齢の割に真っ黒な髪をガシガシ掻く。あれ絶対白髪染めだよ。
「あー…お前と組むとその…ほら、沢本モテるからさ…」
「ああ、なみと組んだ人がリンチにあう?」
「おま、オブラートというものを知らねーのかよ」
 そんなビブラートに包んだって中身は同んなじでしょ。
 うん理由はわかったよ。でもそれってさぁ。
「別に編入っ子じゃなくてもリンチじゃないですか?」
「そうだけどな。どういう奴かわかってる方がまだこっちも対処しやすいんだよ」
 そういうもんなのかなぁ…。
「まどうしても心配だってんなら、俺と組んでもいいけどな。流石に教師をリンチはできねえだろ?」
 ………あの、先生。もしかして最初からそれが目的でした?
 まあそれは冗談として、でもこのままだとホントに白廉との距離をさらに縮めるチャンスを逃しちゃう。もしもしも白廉と組めたら夜這いでもしてやろうと思ってたのに!あイヤラシイ意味じゃなくてね。添い寝添い寝。せっかく再会できたのに襲い受けなんかして嫌われたら立ち直れないよ。
 うーんどうしよどうしよ。
 なみの表情で先生と組む気はないってわかったのか、先生も他の子を考えてくれてるみたい。
「…運動部のとかでも容赦ねーんだから本当参るよなぁ」
 ああ、中学の修学旅行ではその時の中学剣道部ぶっちょと同じ部屋になったんだっけ。だけどその子も階段の上から押されて落ちて怪我して大会に出らんなかったんだってさ。まあぶっちょには部屋で夜襲われそうになったことだし、怪我もそんなたいした怪我じゃなかったらしいから、僕はあんまり気にしてない。
 でもそういう運動部のエースとかにもさらっと勝てそうな人、僕一人知ってるけどねー。
 あ。
「そうだよ白廉なら大丈夫じゃん!」
「あ?びゃくれん?」
「八江白廉くんです。編入の。小学校の時の友達で。白い髪のなみよりちょっとちっちゃい子ですわかりません?」
「あーあの。あいつの髪は地毛だから注意しろって言われたな」
 あ、地毛なんだ。
「あれ強いのか?」
「強いですよ!もし屋上から突き落とされても、くるっと回って着地してやんよって言ってました」
「へぇ…とりあえず本人に聞いてみるか?」
「はい!じゃあなみ呼んできまーす!」
「いや校内放送で…」
 先生の話も聞かずに職員室から飛び出した。
 ひゃっほおおーーぅ!このままうまく行ったら白廉と同室になれるぞ!夜這いできるぞ!!合宿中ずぅっと一緒にいられるぞ!!!
 テンション上がりまくりながらA組についた。ドアを開けて見渡すけど、どこにもいない。帰っちゃってないよね?放課後デートの約束してたもんね。とりあえずそこらへんにいた子を捕まえて聞いてみるよ。
「ねえ白廉知らない?白い髪のちっちゃい子」
 白廉の形容、白い髪のちっちゃい子で定着しちゃえ。本人に聞かれたら怒られそうだなー特にちっちゃいの部分。
「えっ、いや、ごめん知らない…」
 そっかー残念。
 A組の奥の方で溜まってた子達が、どうして男子校に女の子が…ってザワザワしてる。あの子たちにも聞いてみようかな。
「ねーちょっとお尋ね人がいるんだけれどもー」
「やあなみちゃん」
 突然、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、知った顔。しょっちゅう僕に話しかけてくる、同級生の田淵くんだ。
 …正直苦手なんだよなーこの子。爽やか気取ってなんか裏にある感じ。僕に気があるのは見え見えだけど、僕は白廉一筋だからね、面倒なだけっていうか。あと、僕に近づいた人をリンチしてる首謀者じゃないのかなとか思ってる。証拠はないから何もできないけどね。
「白い髪のチビだよね?」
「あ、うん。どこ行ったか知ってる?」
 さっさと逃げようとしたけど、白廉の話を出されたのでちゃんと話を聞くことにした。白廉のためなら、嫌いな人ともお話しするよ!
「それなら、帰ってくところ見たよ」
「えっ」
 うそ帰っちゃったの?待っててくれると思ったのに。
 ううん、そうだよね。僕だったら白廉大好きだからいくらでも待つけど、白廉はそうじゃないよね。白廉から見たら僕は、ただちょっと秘密を知られただけの騒がしくてうっとうしい子だもん。いなかったら勝手に帰るよね。


- ナノ -