隠れ鬼

「ごっめーん遅くなった!あと竹中さん来たよー!」
 なみと弥鷹さんと、あと竹中さんと竹中さんを呼んで帰ってきた鷲祈さんが部屋に入ると、がっすんはこっちを見て軽く頷いてくれた。白廉は、壁にもたれて座って無反応。さびしい。
「来たか。なら四人でこの部屋にいなさい。」
「がっすんはー?」
「私は隣の私の執務室にいる。」
 そう言いながら、がっすんは大きい方、皇の長のお部屋側の襖を開いた。襖の向こうでは、がっすんの部下っぽい人達がバタバタ仕事してた。
「いやなに、仕事をしていないと、どうにも落ち着かなくてな。」
「……ワーカーホリック……」
「意味はよくわからないが揶揄されていることはわかるぞ緋の宮。」
 小さく呟いた白廉の頭を軽く小突いて、がっすんは向こうの部屋に行っちゃった。がっすんの護衛をしなきゃな鷲祈さんも急いで付いていく。お疲れ様でーす。
 小突かれた白廉は、むくれて閉じられた襖を軽く睨んだあと、やっとこさこっちを見た。こっちっていうか、竹中さんかな。
「……すまなかったな、私の我侭で急に呼びつけた。」
「いえ、大丈夫です。ご指名いただけて光栄です!」
 竹中さんは柔らかく笑って頭を下げた。
「でも緋の宮様は護衛いらないんじゃないですか?」
「私はな。だからなみを重点的に見てやって欲しい。」
「わかりました。正直、緋の宮様は私よりもお強いですもんね。」
 軽めな口調の竹中さんを聞いてか、弥鷹さんが眉をしかめてる。これ、あとで竹中さんお説教かなぁ。口調がなってない的なさ。
「でさぁそれよりさぁ。」
 まあ、なみにはそんなこと関係ないもんね。
「あとなみなにしてればいいの?」
「待機ですね。」
 なみの質問に弥鷹さんが平然と答える。
「え、ずっと?!なみ暇だからお散歩行きたいんだけどー!明るいうちは流石になんにもおこんないでしょ?」
「待機です。」
 駄々をこねても揺らがない弥鷹さん。
 えーーーーーと口をヒヨコにするなみを見て、白廉がちょっと笑った。
「面倒が起こると厄介だから、一所に固まっていろと言われたろう。我慢しろ。」
「ぅえーーーーーー???」
 白廉にまで宥められて、八方塞がり。
 もうっ!いいもんいいもん、なみ不貞寝するもん!
 すねてゴロンしたなみの足元に、竹中さんが羽織をかけてくれた。

 寝たふりがいつの間にか本当に寝ちゃってたみたい。起きた時には薄暗くなってて行灯に火がついてた。ぱちぱちぱらぱらした音が小さく聞こえる。
 起き上がってあたりを見回す。白廉は相変わらず、壁にもたれて目を閉じて座ってる。弥鷹さんと竹中さんは小さめの声でぼそぼそと何かおしゃべり。
 なみも、体にかかってた羽織の下からもぞもぞ出た。頭に刺さったままの簪をちょっと整えたあと、白廉の方にはいはいしてくと、白廉が目を開けてこっちを見た。
「…お前…本当に呑気な奴だな…。」
「そう?でもまぁ、なみもあのまま寝ちゃうつもりは無かったんだけどね。」
「この状況下で無意識に寝るか。」
 呆れてため息をつく白廉の隣に三角座りする。
 そうやってから、改めて部屋を見回した。
 この創始様の昼の御座は、皇の長の執務室兼応接間の中に入ってるみたいな感じになってて、偉い人の部屋だけどそこまで広いってわけじゃない。と言っても、やっぱり普通の部屋からしたらとっても広いんだけどね。天井他の部屋より高いし。
 それから、もう20年?も使ってないから、部屋の中も片付いてほとんど物がない。隅っこに机とか筆記用具とかがちょこっとあるくらい。あと、これも使ってないからかな?ちょいちょいボロっとなってる。
 ひと仕切り見回した後、不意に不安になって白廉に話しかけてみた。
「……白廉ってさ。」
 うすぅく目を開けて、横目で見られた。
「色々すごいじゃんか?誰が怪盗なのか、わかったりするの?」
 能力も、創始様以来初の緋色でとっても強い。さらになんか知らないけどすごく動ける。そんな色々すごい白廉なら、わかっちゃうんじゃないかと思って聞いてみたら、口角だけを上げて笑って小さく口を開けて、何かを…
 言おうとしたところで、外から爆音が響いた。
「なんだ!」
 大きな音に驚いて、なみは思わず白廉の腕にすがりついた。
「爆弾か?!壁が崩れるかも知れません!」
「そうだな。お二人は部屋の中央へ!」
 竹中さんと弥鷹さんに促されて、なみと白廉も腰を上げる。
 そこへ、更に爆音が鳴った。さっきよりも更に大きい音が、大きい方の襖の向こうから。
「がっすん?!」
「南殿!!」
 大きい方の襖は、皇の長がいる方。慌てて心配になって、襖に駆け寄る。腕をなみに掴まれたままの白廉も一緒に。竹中さん達の静止もきかずに、襖を開けた。だって心配だもん。
 でも、それがだめだった。
 後ろから、ゴンッという重たい物が落ちたような音がした。
「え?」
 音がした方を見ると、なみ達と竹中さん達との間に、拳二個分くらいの玉が落ちてて…
「伏せろ!」
 白廉の咄嗟の判断。頭をガッと掴まれて床に倒される。簪が抜けて、首元に髪の毛がパサパサ落ちてきた。
 えっえっと混乱していると、ふわり、と体の芯が浮いて一回転するみたいな感覚があった。ほんの少し遅れて、ドサドサリという鈍い音。体は白廉に固定されて上手く動けないから目だけ動かしてあたりを見回そうとする。けどろくにみえなくて畳しか見えなくて、でもなにかが赤く光ってるのがわかって…それは白廉の顔がある方で……え、あれ?
 必死に頭を回転させていると、白廉の拘束が緩んだ。バッと起き上がって状況把握をしようとする。
 まず、部屋の真ん中の方で弥鷹さんと竹中さんが倒れて動かない。ドサドサリという音はこの2人が倒れた音かな。
 それから、さっき落ちてきたっぽい玉を見る。爆弾かもって思ったけど、破裂した気配が無いどころか、ヒビもはいってない。
 最後に、白廉。さっきの赤い光は気のせいかと思ったけど、白廉の目はやっぱり光ってて…その赤い火が消えようとしてるところだった。
 破裂してない爆弾。なのに倒れてる2人。白廉の赤い目。

「……白廉が、怪盗…………なの?」




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