警備と冒涜

 それから皇居はおおわらわになった。
 霊を祓ったりとかそんなかんじの儀式っぽいことばっかりしてる皇には武力とかあんまりないらしくって、そういうのは大体王に頼ってんの。だからがっすんが早馬飛ばさせて、王から応援をもらってきた。
「王の方か。急なご協力、痛み入る。」
 その応援が来て、がっすんが応接間で迎えた。これから状況説明と紹介と打ち合わせをするんだって。だからその場には、当事者のなみたちも一緒にいることになった。
「いえ、このような脅迫状が届くとは、災難でしたな。」
 挨拶に応じたのは、王の息子さんで将軍さんの兼虎さん。がっすんと白廉の間くらいの歳のお兄さん。兼虎さんの斜め後ろにはがっすんよりもちょっと歳上なくらいの人が二人、剣を持って座ってる。
「では、この矢文が届いた状況などをお教えいただけますか?」
「ああ。なみ、頼めるか。」
「あはーい!」
 正直、ただ同席するだけだと思ってたから、かんっぜんに油断してた。危ない危ない。
「えっと、なみ今日珍しく早起きしてたんですよ。ちょっと髪いじりたくて。で、こー、廊下の方向いて。そしたら、なみのこの、この脇のところをなんかピュン!って通ってったの!」
「それで、よくよく見てみたら矢文だったのだな。時刻はいつ頃だ?私が通りかかった時は夜明けを過ぎた頃だったが。」
「がっすんが通る、ほんのちょっと前ですよ〜。びっくりして誰かいないかなって慌てて外出たらがっすんがいた感じなんで。」
 ふわふわと気の引き締まらない答え方をするなみに、兼虎さんがちょっと顔をしかめて、白廉に流し目を送る。
「……そちらのお嬢さんは、どうやらあまり現状をわかっておられないようで。」
 いや、当事者のなみがわかってないわけなくない?
「緊張感ないのは、なんか白廉がいたら大丈夫かなぁって。」
「…俺は、未経験の事態には弱いぞ。」
 それまでずっと黙ってた白廉が、ぼそりと言った。
 それから、兼虎さんにしっかり向き合った。
「なので、王族から私達に護衛をつけていただきたい。」
 えっ?!
「え、白廉、珍しいね…てっきり『自分の身くらい自分で守れる(`・ω・´)キリッ』ってやるかと思ったのに。」
「顔文字やめろ。今言っただろう、俺は未経験の事態には弱い。だから、お前の面倒まで見つつ自分の身を守るのは少々骨だ。」
 なみと白廉のやりとりを見て、兼虎さんが頷いた。
「そうでしょうな。では、この弥鷹と鷲祈をお貸ししましょう。」
「あいや、彼らではなく。」
 兼虎さんを遮って、白廉が手を振った。
「私達のことを前から知っている者がいいのだ。…北の断霊門の門番、竹中さんとか。」
「門番ですか?!」
 兼虎さんが信じられないという顔をする。
「門番など、皇の方をお守りするには役足らずですぞ!」
「では、もう一人。知らない者のみに守られるのは、私の警戒心が許さない。」
「弥鷹はお目通りしたことがありますでしょう。」
「確かに無いよりはましだが、私は一度あっただけのものを知人とは呼びたくない。」
「…………。」
 兼虎さんはしばらく絶句した後、諦めたようにため息をついた。
「…弥鷹、緋の宮様とご友人の警護につけ。鷲祈は北の門番へ今の旨で伝令を。…戻ってきたら、青の宮陛下の護衛につくといい。」
「はっ。」
「御意。」
 兼虎さんの後ろにいた二人のうち髪が短い方が立って部屋を出ていった。
 残された、髪が長くて括って肩に垂らしてる方のお兄さん…おっちゃん?その間くらいの歳の人が、少し前に出てなみたちに一例した。
「緋の宮様におかれましては、およそ8年ぶりとなりましょうか。弭間(はずま)家の長男、弥鷹(みたか)と申します。」
「ああ。」
 白廉が短く答えて、チラッとこっちをみた。
「…私よりも、南を重点的にみておくれ。私はある程度戦えるからな。」
「畏まりました。」
「頼んだぞ。」
「よろしくおねがいしま〜す」
 なみたちの挨拶が終わったのを見て、兼虎さんがひとつ頷いた。
「では、次に参ります。屋敷の警備に関してですが、今回予告を出されたお二方には、窮屈で申し訳ないのですが、最も守りやすい場所で一所に固まっていて欲しいのです。」
「わかった。どこがいいかね。」
「それなのですが……。」
 兼虎さんは後ろにおいてた荷物からおっきい紙を取り出して床に広げた。皇居の見取り図だ。
「実は、この屋敷は非常に守りづらい。部屋は全て屏風で仕切ってあるので、どの部屋にいても入り込みやすいのです。」
「なるほど。壁の多い部屋がよいのか。宝物庫はどうだ。」
「確かにあそこは守りやすいですが、代わりに物品まで盗まれかねないという欠点があります。もちろん、緋の宮様の安全とは比べられませんので候補の一つではありますが。」
「なるほどな。」
「あじゃああれは?こーのちょーの部屋の後ろの部屋はどうですか?」
 なみが声をあげて見取り図の中からその部屋を探す。ないなーないなーってしてたらがっすんが、ああって声をあげた。
「創始様の昼の御座か。あそこは防犯上紙面には写していない。」
「そうなんですか?じゃあちょうどいいんじゃないです?あっこほとんど壁だったし。」
 なみがそういったら、兼虎さんがギョッとした。
「なぜ彼女が創始様の昼の御座を知っているのですか?!」
「いやあ探検してる時にみつけたんですよー。」
「た、探検などであのお部屋に入って…」
「構わない。どうせ創始様ご本人はもういらっしゃらない。」
 皇の長の声で将軍さんは黙った。呆れたとも言う。
「それに、確かにあの部屋は使えると思う。大きく開いているのは私の執務室に向けてのみ。他は反対側に麩が二枚で、残りは塗壁だ。どうだ。」
「た、確かに警備はしやすいですが、しかし、やはり冒涜では……。」
 兼虎さんはやっぱり、国を作ったえらーいひとのお部屋を使うってのは抵抗あるみたい。
 っていうか皇の長と将軍だと、この構図、普通逆じゃない?
「部屋を使うことは別に構わないだろう。…なあ、緋の宮。」
 声をかけられて、白廉がふっと苦笑いした。
「ああ、私は構いませんよ。」
「なら決まりだ。ほかに不都合があるかい?」
 皇側の満場一致を見て、兼虎さんはゆるゆると首を振った
「いえ…。」
「では、それを中心に警備を頼む。」
「畏まりました。」
「よろしくな。」
 そう言って、がっすんが立ち上がる。合わせてなみたちも立って、部屋を出ていった。


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