異世界の文字

 三人はトラム様の部屋の前で待っていてくれて、私がノックしてドアを開けた。
「失礼します。アディとリトを連れてまいりました。」
「ん、おつかれー入れて。」
 二人を連れて部屋に入る。そして二人がトラム様と私の父を見た第一印象。
「え、若っ」
 アディがとてもいい反応をしてくれる。
「お前は俺が思ってたよりもでかかったぜ、アディ」
 トラム様が杖をついて立ち上がった。トラム様は5年ほど前から足を悪くし、日常生活に支障はあまりないものの激しい運動はできない。杖は、自分は足が悪いということを忘れないために持ち歩いているそうだ。つまり飾りです。
「ようこそ、アディ、リト。ゆっくりしていけよ。」
「いえこちらこそ、招待していただいてありがとうございます。」
 トラム様の挨拶にアディは、意外とというか年相応というか、しっかりとした対応をみせた。
 ただ、普段のトラム様ならこういう時には握手を求めるのだが、今回は無し。やはり、人を殺した手に触れるのはお嫌なのだろうか。口元に笑みを浮かべてはいるものの、目は鋭くアディを観察しておられるようだ。
 アディもそれを感じ取っているのか、少し怯えた様子でリトをチラチラと見ている。対してリトは何食わぬ顔。この子は緊張とか知らないんでしょうか。
「リトさん、今日はよろしくお願いします。」
 トラム様の斜め後ろに控えていた私の父が、少し前に出てリトに挨拶をする。
「では早速なんですが、書斎へ向かいましょうか。」
「あ、はーい。」
「えっ」
 もう行っちゃうの?!という表情のアディを置き去りに、私たち三人は部屋を出た。

「思ってたより若かった。」
 書斎へ行くため階段を下りながら、リトが感想を話す。
「ハーチェスは、25歳で成長が止まりますからね。」
「いやそれは知ってるよ。それはいいんだけど、あんたのパパさんまで若いのはどういうこったよ」
 リトあなた……鋭いですね。
「それは内緒です。でも、私たちも成長は止まるんです。」
 私たち二人より前を歩いている父が口をはさんだ。リトは、ふーんと興味をなくした様子。いや、追求が面倒くさいのかな?
 私も、なぜどのようにして私たちまで成長が止まるかは知らない。父には、ロイル様が跡を継ぐ頃まで教えられないと言われている。早く知りたいものです。
「でさケーラ、その読めない資料ってどんなんなの。英語だったら読めないんだけど。」
「それが、全く読めないのです。古今東西の文字を当てはめたりもしたそうですがどれも共通点がないので、おそらく。少しイセンの文字に似ている気もしましたが、全然違いましたね。」
「せめて表音文字か表意文字かくらいわかんないの?」
「……なんですって?」
 父も知らなかったのか、足を止めてこちらを振り返った。
「だから、表音文字と表意文字です。」
「ひょ、ひょう?」
「表音文字は、音を表す文字。表意文字は、文字それ自体に意味がある文字」
「意味がある文字?!」
 父が驚いているなら、私が知るはずもない。
「え、むしろこっちはない?」
「はい、音を表す文字しかないと思っていましたから……」
 私も、そもそも表意文字なんてものがあると思いませんでした。
「ちなみに日本語はどちらですか?」
「ちゃんぽん」
 さらによくわからないものが。
「そちらの世界にはいろいろあるんですねぇ…やっぱり一度読んでもらわないとわかりませんね。」
「ですねーわかんなかったらごめんなさい」
「いえいえ、その時はもっとほかのことを教えてくださいね。」
「あーい」




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