少女の知らない世界の断片
とある高級住宅街の中でも、一番大きい家。それは、主に高利貸付をしているという男のものだ。その広い家の広い寝室の広い寝台の上に、その男は眠っていた。
ちょうど日付が変わって2時間半たった時-つまり日本でいう丑三つ時-天井から一つの影が音も無く飛び降りた。着地の際、少しふらついている。
影は、うつぶせで眠る男に静かに近づき、何か棒状のものを取り出した。鋭く光るそれは、小刀か錐か。どちらにしても人の命を奪いかねないものに違いはない。
影はそれを、男の首筋に近づけていく。
と、影の手が止まった。ほんの少しの間の後、鈍い音がしてその影は力を失った。
眠っている男は、まだ起きていない。
いつの間にか二つに増えていた影は、また音も無く寝室から姿を消した。
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