どこのシュミレーションゲームだという批判は受け付けておりませんすみません

 アディは、殺しのあとには風呂場の窓から器用に入ってくるようだ。だから私はアディの血まみれの姿とかは一度しか見たことがない。アディが殺人鬼だと知った時一度だけ。アディは私に気を使っているのだろう。女の子の方が血には慣れてるから大丈夫だと思うんだけどね。それでもまあ確かに、自ら進んで見たいものじゃない。
 居間でロイルたちと話(主に日本のこと)をしていると、風呂場から水音が聞こえだした。
「おお。やっぱり、リトたちの家に来といて正解だったな」
 そう。今私たちがいるのは、私…というかアディの家。もともと男一人暮らしの家に3人はきつい。
 しばらくすると漂ってきた濃い血の匂いに、ロイルとケーラは顔をしかめた。私は同居人だし、もう慣れた。
 水音が止まった頃を見計らって、アディの部屋から服をとってきてやった。確か、服は風呂場になかったはずだ。
 ちょうど風呂場の近くに来たときアディが出てきた。
 いつものサングラスもかけず、まだ水が滴る長い髪を前髪とまとめて後ろに流しているから、紅い左目(右目は流れる水滴が入らないためか閉じている)と古傷が完全に見えている。古傷は、アディが滅多に見せようとしないから、多分はじめましてじゃないかなぁ。
 それから、普段服で隠れている意外としっかりした筋肉は、長身のおかげでほっそりとして綺麗に見える。
 さすがに腰にタオルはまいてあるが、10代半ばの繊細な少女が見れば真っ赤になるであろうシチュエーション。しかし
「きゃあああ!!!!っえ、り、リリリリト?!?!」
「お前は乙女か」
 まぁ、逆ですよね。
 再びドアの向こうに引っ込んでしまったアディに、ドアをこじ開けて服を投げつけ、風邪っぴきなんだから髪をちゃんと拭けとか、しんどいだろうけど夕飯を食べに来いとか言ってやる。
 母親?違うよ、アディが子供なだけだよ。
 居間に戻って、夕飯の準備をし始めた。
「リト、さっきあいつの叫び声が聞こえたんだが…」
「あぁ、気にしないで。ちょっとアディが乙女なだけだから」
「はぁ…」
「ロイル様。あまりここは突っ込まない方がよろしいかと…」
 ロイルはやっぱり不満そうだ。
 アディがあがって来たので、夕飯を食べながらの尋問タイムになった。
 ロイルがまず、今アディの殺害した人が誰かを聞いた。
「…僕は予定通りにやってきたよ。依頼だから」
 アディはロイル達を警戒して、厳しい顔だ。
「マジかよ!お前、俺がお前らを誘拐した理由わかってんのか?!」
「わかんない」
 即答してやった。アディは黙ったままだ。
「………俺、話してなかったっけか?」
「うん、聞いてない」
「ロイル様。おそらく、あちらの宗教のことを話していて忘れたのではないでしょうか?」
「……話してなくても察しろや!」
「いや無理だろ。俺様かよ」
「…僕大体わかるよ?」
「「察してた?!」」
 え、もし正解だったらアディすごい。さっき黙ったままだったのは、遠慮じゃなくてなんとなくわかってたからなんだね。
「どういう理由か言ってみろや」
「自分が話忘れてたくせに偉そうな」
「黙れ無表情女」
「少しはある。っつか、何ソレあだ名定着?」
「えっと…言っていい?」
「「どうぞ」」
 どうでもいいけど、そこのタレ目パツキン。笑い転げるな。
「自分が殺したと思われるのが嫌だったから?」
「60点。怪盗ハーチェスは殺しをしないから、ってのが抜けてるな」
 配点高くね?あと、お前らだけで完結しないでよ。
「はーい。やっぱりよくわからないから、解説してくださーい」
 わかんないことは質問しなさいって、先生言ってた。
 そして3人がかりで説明されたことをまとめると、
 アディの狙う人とロイルの狙う物の所有者がかぶる。
→警備が厳しくなるのは一向に構わないが(ここ重要)濡れ衣を着せられ、怪盗ハーチェスが殺しをしたという噂を立てられるのは嫌なので、アディを未遂のうちに誘拐。
→念のため、人質にリトも誘拐。
→→→そして今に至る。
「つまり私は巻き込まれただけかい」
「ごめんねリト…」
「いいんだよアディ。悪いのはあんたじゃなくてそこの黒猫だよ」
「ぷっ!」
「おい黒猫ってなんだよ無表情女。あと笑うなそこのタレ目」
「ヒドイですロイル様!気にしてるのに!!」
「リトー、食欲ないー」
「んー、まぁ、半分食べたし、いっか。ゼリー食べて寝なさい」
「うん。朝とおんなじゼリー?」
「そうだよ」
「あれちょっと変な味した」
「気にするな。多分風邪のせいで味覚変わってるんだよ」
 もうこの際、黒白主従コンビは放置してやろう。
「それはそうとして、おいアディ」
 放置させろや。
「お前、理由なんとなくわかってんなら、なんで標的変えやがらねんだよ」
「あんたが変えるって選択肢は?」
「ない」
「即答かよ」
「で、どうなんだよ」
 アディは、ほっぺに当てていたスプーンを話して答えた。顔が熱でほてるなら冷えピタとか…あ、ないか。
「名前書いてきた」
「名前?」
「うん、僕はアディです、ごめんなさいって」
 ごめんなさいって書くあたりがアディらしいと思う。
 ロイルが驚いた様子で、机をたたいて立ち上がった。衝撃でとなりのケーラがスープをこぼしている。
「おまえ、並の殺人鬼だろうが!俺じゃあるまいし、つかまりてえのか?!」
 怒ってるロイルに少しアディが怯えた。でもよく考えると、このロイルの怒っているポイントは、アディが捕まることを心配してのことだから、優しいものだと思う。
 アディは怯えも含まれた困り顔で答えた。
「…たぶん、僕諦められてるかも」
「は?」
「なんで?」
 私もそんな話は初耳だ。
「だって、捕まえても逃げちゃうもん。」
「えっ…逃げたことあんの?」
「うん」
 え、じゃぁ、アディって実はすごく強い?
「あ、もしかして」
 こぼれたスープを拭きながら、ケーラが声を上げた。
「7、8年前、牢獄からある囚人が大量の他の囚人や看守の命を奪いながら逃走した、という事件がありましたが…」
「あー、あったなぁそんなのも」
「へー。あったんだ」
「ええ。もっとも、国家機密ですから、他言無用ですよ」
 でなんでそれをあんたが知って…もういいや。この真偽判別能力者め。
「で、アディ、この脱獄囚は、あなたですか?」
 アディが頷いた。
「うん。我慢のしすぎで衝動が暴走したっぽくて」
 あんまりよく覚えてないんだけどね、とアディは少し悲しそうに笑った。
「その時からもう本当にこの衝動が嫌になって、できるだけ我慢することにしたんだよ」
「へぇ、じゃあその脱獄のおかげで衝動我慢できるようになったって感じなの?結果オーライじゃん。」
 私がそう言うと、三人がなんか驚いた顔してこちらを見た。
 あれ、なんか変なこと言ったか?
「お前脱獄囚と同居してるってのに……本当に一般人か?」
「ですねぇ。裏出身でない方がこんな考え方するなんて…」
「リトギュってしたいから早く風邪治す。おやすみなさい」
「あー、うん。おやすー」
 何なんだよもー三人してさー。とりあえずアディが嬉しそうだし、それでいっか。



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