「佐伯くぅ〜ん」
「やめろ、気持ち悪い」
学校からの帰り道、私がかわいこぶって高い声を上げたら、彼は馬鹿にするような目で私を見た。
「瑛の真似だよ」
「はぁ?」
「猫かぶり的な意味で!」
笑いながら彼を見ると、喧嘩売ってんのか、と怒られた。
「佐伯くんは王子様なんだってさ!クラスの女の子が言ってた」
私の言葉に隣を歩く彼はちらりと私を見る。
「彼女たちは瑛のどこを見てるんだ!これのどこが王子!」
「うるさい。黙って歩け」
私はまた彼を見てケラケラと笑った。頭を捕まれて無理矢理に前を向かされるけど、私の笑いは止まらない。
「あぁっ、ちょっと!」
「うるさいヤツは置いてく」
私を道に残して彼はスタスタと先に行ってしまった。
「ひっどいなぁー」
小走りで彼の隣に並ぶ。彼を見ると私を見てクスクスと笑っていた。
「ねぇ、手繋ごーよ」
「やだ。」
「なんで?」
「なんでも」
なぜか彼はいつも手を繋ぐのを断る。でも私はそれは本心じゃないんじゃないかと思う。私が無理矢理握っても顔を赤くしてバカって言うだけだから。
「じゃあ勝手に繋ぐー」
「バカ憐」
「あはは、やっぱり素直じゃないなあ」
無理矢理に繋いだ私の手をギュッと握り返す彼に胸が温かくなる。
すると急に彼は私を軽く引っ張って立ち止まらせた。
「なぁ、憐」
呼ばれて振り向くと、彼の唇が私のおでこに触れた。
「っ!どうしたの?」
「…あー、いや、なんでもない。行くぞ」
「え、ちょっと!」
彼は何事もなかったかのように歩き出す。言葉に出せないからって態度にしか出さないのもどうかと思うけど。これでも満足しちゃうのは惚れた弱みってやつなのかも。
「ちょっと!」
隠された想い「そういうの普通の女の子じゃ伝わんないから!」
「憐に伝わればいいんだ」
そう言った彼の顔は真っ赤だった。
(2010.04.27)
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