「あれ、佐伯くんじゃん」
珍しく早く着いた教室には1人で勉強している佐伯くんがいた。
「わ、メガネ珍しいね」
「うるせえ、後でコンタクトにすんだよ。てか勉強の邪魔すんな」
佐伯くんは邪魔者の追い払うように手を払った。
「ははっ、ごめんごめん。でもメガネ似合ってるよ」
「ばっ、邪魔すんなって!」
私が褒めれば、彼は真っ赤になって暴言を吐く。素直じゃない彼をいじるのは楽しい。私はケラケラと笑いながら自分の席についた。
「メガネ、かぁ…」
そう呟いて、私は学校が始まるまで机に伏せることにした。
◇
「勝己ー今日家寄っていい?」
「なんだ、急に」
「別にいいじゃん!」
軽く彼の腕を掴んで微笑めば、彼はわけがわからないまま首を縦に振った。
「はい、これ」
「なんだ」
「メガネだよ」
「見たらわかる」
彼の部屋に入って、今日学校で友達から借りた黒い縁の伊達メガネを彼に差し出す。彼はそれを見て少し眉を寄せた。
「ちょっとだけかけて!お願い!」
パチンと手を合わせてお願いすると、彼は渋々ながらそれをかけてくれた。
「これでいいか?」
「うわ…似合うね!」
率直な感想だったのだけれど彼はお世辞はいらない、と少しだけ顔を赤く染めた。
「いや、本当だって!誰にも見せたくないもん」
私はそう言いながら彼の胸板に顔を寄せて彼を見上げた。彼の汗の匂いが私の鼻をくすぐる。元から目つきが鋭い彼に見つめられて、胸の奥がぎゅっと疼いた。しかも今日はメガネのレンズ越しで。
「勝己…」
ぎゅっと彼の首に腕を回すと彼の唇が私のそれに触れた。彼は名前を呼ぶといつも私に優しいキスをくれる。
「んー、もっと」
「お、おい、憐…」
今度は私から唇を合わせる。普段はあまり積極的ではない私の行動に、メガネの奥の瞳は少し焦っているようだった。
ブルーベリーキス「これ…邪魔だな」
彼はカチャリと伊達メガネを外してからニヤリと笑って私に口づけた。
(2010.04.21)
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