ガラッ!という勢いよく開く扉の音で目が覚めた。
ああ、ホームルーム終わってそのまま寝ちゃってたんだ…、そう思いながらも、まだ完全には覚醒してなくて机に突っ伏したまま。

勢いよく入ってきたその人は、カーテンを開け、窓を閉めている。その様子を耳で確認しながら、これからどうしようかと思いを巡らせた。

先生が教室から出たら帰ろう、そう決めた時、彼は私の前の席の椅子に馬乗りに座った。予想外の展開に飛び起きたい衝動をぐっと我慢する。




「……なまえ…」


彼の口から紡ぎ出された声は、明らかに私に問い掛けるボリュームではなくて。
普段はみょうじ!なんて怒鳴るように呼ばれるから、優しい声色に私の胸は早鐘を打つ。そもそも、彼は私の想い人だったりするわけで…

目を閉じてじっと待っていると、彼は私の前髪をすっと避けた。狸寝入りがバレるんじゃないかとヒヤヒヤする。


「ちっ、何やってんだ、俺は…」


自分を嘲るように呟いた彼は、スッと立ち上がって「おいみょうじ!」と叫んだ。


「っ!あ…は、はい…」
「下校時刻だぞ、もう帰れ!」


ビクッと肩を揺らして起き上がる私に、彼はピシャリと言い放った。


「えっと…はい」


鞄を持って教室のドアまで向かう。そんな私を先生は机によっ掛かったまま見ていた。


「…あの、」


私はドアの前で立ち止まり右手をぐっと握り締めて振り返る。「なんだ?」と少し首を傾げてみせる先生にどきどきしながら口を開く。


「…あの、もう1回呼んで下さい、名前」
「名前…?みょうじ?」
「そうじゃなくて、下の」


私の言葉に彼は目を見開いた。そして、起きてたのか、と苦く笑って自分の頭をわしゃわしゃと掻く。
彼は私の方にゆっくりと近づいた。恥ずかしくなった私はそっと先生から目を逸らす。


「なまえ」


発された言葉に目線をあげると、少し照れた彼の顔。彼はもう1度「なまえ…、」と呟いて親指で私の頬に触れた。


「先生…?」
「あー、今日はもう帰れ」


私の問い掛けに彼は眉を寄せて笑った。



私が主役になるまで


あともう少し。



(2011.08.16)
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