「あ、もう出るの?」
「おう」


彼が玄関に行く音を聞いて、私はぱたぱたと足音を立てながら玄関に向かった。


「忘れ物ない?」


靴を履いている彼の背中に問い掛ける。


「平気だろ」


そう言って立ち上がりながらこっちを振り向く彼に微笑んだ。


「寄り道しないで帰ってきてね。今日カレーだから」
「ん、了解」


彼はぽん、と私の頭に手を置きながら答えた。新婚みたいな雰囲気ににやにやしながら彼の腰にぎゅっと抱きつく。



「っ、おいなまえ…どうした?」


ふと顔を上げると、普段はしない私の行動に、彼は少しだけ動揺を見せたようだった。そんな姿を愛しく感じた私は、ぐっと背を伸ばして彼の唇に私のそれを寄せる。


「うふふ、いってらっしゃい!」


そう言って笑うと、彼の目がすうっと細まって私の腰に左腕が回った。ぐっと寄せられて彼との距離が一気に失われる。


「ばーか、出掛け際にこんなことすんなって」


耳元に小さな声で囁かれた声に胸がきゅうっと締め付けられた。この声好きだなあ、なんて思っていると頭上からふっと笑い声が聞こえる。それから啄むようなキスが2回。
唇が離れると、彼はニヤリと笑う。


「あーやべ、俺もう行くわ」


――続きは後でな。


私の耳にこっそりと囁かれる声にぞくり、と鳥肌がたった。鼓動もいつもよりずっと早くなっていて。
毎度のことなんだけど、結局彼にしてやられる。出て行った彼に目線をやれば、意地悪そうにこっちを見て笑っていた。



君の背中に想うこと



多分、私は彼には勝てない。



(2011.08.15)
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