「じゃーねー」
「ん、夏休み遊ぼうね!」


1学期の終業式が終わって今日から夏休み。帰り出す友達に挨拶しながら手をふる。まばらになった教室でグッと伸びをすると、教壇で生徒に挨拶していた先生と目が合った。


「ピンじゃーなー」
「おー、さっさと帰れー」


先生はすぐに私から目を逸らして挨拶に戻った。それを横目に見ながら私も帰る準備を始める。
帰り支度も済んで、さあ帰ろうという頃には、もう教室にいる生徒は私一人だった。


「寂しいんだろ」
「は?」
「俺と毎日会えねえから」


なかなか帰らないでいる私に先生は窓の鍵を閉めながら言った。


「まさか」


そっけなく言葉を返すけれど、もちろんそれは本心じゃない。こっちは図星をつかれてドキドキしているのに、ちらりと先生を見ると見透かしたように笑っていて悔しくなる。


「素直じゃねーなあ」


全ての窓を閉めきって、先生は私の前まで歩いてくる。


「ん、これやる」
「?」
「俺ん家の合鍵。来たけりゃ勝手にどーぞ」


先生は私に鍵を握らせてニヤリと笑った。


「あ…ありがと」
「ははっ、お礼は素直に言えんじゃん。普段もそれくらい素直だったら可愛いのによ」
「うっさい。」


私の頭を撫でながら笑う先生にちょっとドキッとする。


「…私、帰る!」


恥ずかしくなって鞄を持ち上げ教室から出ようとすると、ぐいっと手を引かれて先生の胸の中に引きずりこまれた。


「ちょっ、誰か来たらどうすんの!」
「ドアの鍵閉まってっから」



確信犯


「夏休み、絶対来いよ?」
「…うん」



(2010.07.11)
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