「…ここでデートってどうなんだ?」
ぼそりと呟く龍の言葉に私は箸を止めて龍を見上げる。
「別にいいじゃん。ここ美味しいし」
「そりゃどうも」
私が麺を啜りながら答えると龍は水をテーブルに置いて奥に消えた。
「なんだ、アイツ?」
「さあ。嫌味じゃん?彼女いないから」
私がクスクスと笑うと、彼もスッと目を細めて笑った。
「2人は仲いいなあ!週1で来てるんじゃねえのか?」
カウンターから身を乗り出してそう聞いてきたのは龍のお父さんだった。
「はい、先生が奢ってくれるって言うから」
「ははは、お嬢ちゃんはちゃっかりしてんなあ!」
私が彼を指差しながら言うと龍のお父さんはケラケラと笑いながら会計をしてくれた。
「ごちそうさまでしたー!」
挨拶をしてから店を出て、彼の隣に並んで家まで帰る。
「一市にも、ごちそうさま」
「おう、うまかったな!」
歩きながら彼は満面の笑顔でくしゃりと私の頭を撫でた。彼はいつも自然にお金を出してくれていて、私は毎回彼に乙女心をくすぐられている。
「…ねえ今日だけ、手繋いでもいい?」
普段はこんなこと言わないけれど、今日はなぜかそんな気分で。半歩早く歩いていた彼はちらりと私を見て、何も言わずに私に手を差し出してくれた。
「ありがと」
「たまにはこんなのもいいだろ」
私が指を絡めると彼ははにかむように笑って言う。
「うん、」
心地好いカルテット――こういう日って、家までの距離がとても短く感じる。
(2010.04.21)
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