「おーい、なまえ!」


名前を呼ばれて振り向けば、堂々と女の子を引き連れている男。私に向かって手を挙げているその人は、紛れもなく私の彼氏なんだけれど。


「健人。どうしたの?」
「え、一緒に帰らないの?」


彼は目を開いて驚く。そりゃあ帰りたいけれど、彼の両脇のお姉さんは彼と帰る気満々で…


「え…うん、帰ろうか」
「はは、よかったー」


引き止める2人をひらりと交わして私の方に歩いて来る。もちろん私は嬉しいけれど、私を見る2人の視線が痛いのも事実。
告白したのは私だし、いつも私だけ気持ちが空回りしてるんじゃないかと不安になる。

博愛主義は理解しているつもりだった。けれど、彼にとって“彼女”というポジションは特別じゃないのかもしれない。


「何でそんな難しい顔してんのー?可愛い顔が台なしじゃん」
「別に、何もないよ」
「…オレには言えない?」


私の答えに彼は眉を寄せて苦笑した。でも、言えない。言ったら何もかもが崩れてしまう気がするから。彼はまだ苦く笑ったままで、しばらくすると口を開いた。


「オレ、そんなに頼りないかなあ?もっと頼っていいのに」
「…へ?」
「なまえの彼氏だからさ、オレ!あんまり頼ってくれないけど」


彼は切なそうに笑った。見たことのない表情に、一瞬ドキリとする。彼は少し早く前へ歩いて、私の目の前で立ち止まった。


「オレ多分ね、なまえが思ってるよりなまえのこと好きだよ」


彼はポケットに手を入れ、屈みながら微笑む。ちょっと垂れた目が私を捉えると、ギュッと胸が苦しくなる。


「私、嫉妬してたのかもしれない」
「嫉妬?」


彼は目を見開いて驚いていた。


「健人の回りの女の子がちょっと羨ましかったのかも」
「ははっ、」


ふと彼を見れば、いつもの笑顔で笑っている。そしてギュッと抱きしめられて彼の顎が頭の上に乗った。


「かなり心配したのに!それオレ超嬉しいじゃん!」
「嬉しい…?」
「ヤキモチ!妬いてくれた」


抱きしめる力がより強くなって、一層彼の香りに包まれる。


「最近そっけないから嫌われたかと思ってた」


ぼそりと呟いた彼の言葉を聞いて抱きしめ返すとぽんぽんと頭を撫でられた。


想いが大きい故


――私の勘違い、だったみたい。



(2010.04.05)
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