「先生ばいばーい!」
「はい、さようならー」
挨拶をしてくる生徒に手を振り返す。
「あ、荒井先生」
「よぉ」
片手を上げて笑っている彼に軽く頭を下げる。
「今日飲みに行かねえ?」
「私は空いてますけど、他には?」
「や、2人だけだ」
少し目を見開くと彼はニッと笑った。
「俺のクラスの副担任だし行けるだろ!」
「あ、はい、行きます」
副担任だから、なんて関係ない。誘われたら絶対に行きたい。元あった予定を断ってでも。
◇
「荒井せんせ、まだ飲む、んですか…」
「なまえ酒弱いのか?まだ全然飲んでねえだろ」
ふと触られたおでこに熱が集まる。確かにお酒には弱いけれど、呂律が回らない割にはまだ意識はしっかりしている。
「だ、だいじょぶですっ!」
「呂律回ってねえぞ」
そう言う先生に目をやるとケラケラと笑っている。カタン、とテーブルに音がしたかと思うとそこには水の入ったグラス。
「飲め。ちょっとは酔い覚めんだろ」
「あ、りがとうございます」
水を一口飲むと軽く酔いが覚めた気がした。
「お前さ、次の日記憶飛ぶタイプ?」
「え?あー、はい、飛ぶ日もありますね」
「そうか…」
荒井先生は少し悩んだ表情をして私に向き直った。
「俺、なまえが好きだ」
「…え?」
「よし、忘れろ!」
そう言って先生は私の背中をバシッと叩いた。
「…何でですか」
「あ?」
「何で忘れなきゃいけないんですか?」
私がそう言えば先生はわけがわからない、という顔をしている。
「私も荒井先生が好きです。だから、絶対に忘れません」
「なまえ…マジで言ってんのか?」
「もちろんです」
先生にしっかりと目を合わせると少しだけ先生の目が泳いだ。
「お前、酔ってるだろ?」
「酔ってても酔ってなくても、大好きです」
アルコールの力を借りてしまった明日、酔いがさめたらもう一度伝えに行こう。
(2010.04.02)
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