「先生ばいばーい!」
「はい、さようならー」


挨拶をしてくる生徒に手を振り返す。


「あ、荒井先生」
「よぉ」


片手を上げて笑っている彼に軽く頭を下げる。


「今日飲みに行かねえ?」
「私は空いてますけど、他には?」
「や、2人だけだ」


少し目を見開くと彼はニッと笑った。


「俺のクラスの副担任だし行けるだろ!」
「あ、はい、行きます」


副担任だから、なんて関係ない。誘われたら絶対に行きたい。元あった予定を断ってでも。







「荒井せんせ、まだ飲む、んですか…」
「なまえ酒弱いのか?まだ全然飲んでねえだろ」


ふと触られたおでこに熱が集まる。確かにお酒には弱いけれど、呂律が回らない割にはまだ意識はしっかりしている。


「だ、だいじょぶですっ!」
「呂律回ってねえぞ」


そう言う先生に目をやるとケラケラと笑っている。カタン、とテーブルに音がしたかと思うとそこには水の入ったグラス。


「飲め。ちょっとは酔い覚めんだろ」
「あ、りがとうございます」


水を一口飲むと軽く酔いが覚めた気がした。


「お前さ、次の日記憶飛ぶタイプ?」
「え?あー、はい、飛ぶ日もありますね」
「そうか…」


荒井先生は少し悩んだ表情をして私に向き直った。


「俺、なまえが好きだ」
「…え?」
「よし、忘れろ!」


そう言って先生は私の背中をバシッと叩いた。


「…何でですか」
「あ?」
「何で忘れなきゃいけないんですか?」


私がそう言えば先生はわけがわからない、という顔をしている。


「私も荒井先生が好きです。だから、絶対に忘れません」
「なまえ…マジで言ってんのか?」
「もちろんです」


先生にしっかりと目を合わせると少しだけ先生の目が泳いだ。


「お前、酔ってるだろ?」
「酔ってても酔ってなくても、大好きです」



アルコールの力を借りてしまった


明日、酔いがさめたらもう一度伝えに行こう。



(2010.04.02)
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