「先生のばか!大っ嫌い!」
「おい、待てよっ」


先生の引き止める声を背中に受けながら私は先生の家を出た。



走り疲れて立ち止まった先には公園があって、ベンチに腰掛ける。

喧嘩の原因は今考えればたわいもないことで。ただ、先生と約束していた日に飲み会が入ってしまった、というだけだった。


「言い過ぎたな…」


最近春休みのせいで学校もないし、なかなか会うことができない。だからちょっとショックが大きくて、つい酷い言葉を言ってしまった。


「先生も怒ったよね…」


誰もいない公園で呟いた言葉はなんの意味もなくて虚しくなる。


「今さら戻れないって…」


見上げた空は真っ暗で、月がよく見えた。


しばらく月を眺めていると気づいたら軽い眠りについてしまった。









「おい」


見上げても視界が遮られていて空が見えない。目を凝らすと目の前には先生が立っていた。


「帰んぞ」


唖然とする私の手を無理矢理取って歩き出す。


「なんでこんなとこにいんだよ」
「え…」
「探しただろ」


いつもより少し小さい先生の声は、少し息が上がっていた。



「…ごめんなさい」
「あ?」
「さっき、ひどいこと言った」


先生の続く言葉が不安で握られた手に力が入る。


「…俺のことが嫌いか?」


歩きながらちらりと横目で見てくる先生に、首を横に振る。


「じゃあいい。今日はエイプリルフールってことで嘘だったことにしてやる」


私の返答を聞いてニッと笑うと、私の頭をぽんぽんと叩いた。


「ごめんね…先生大好きだからっ」
「あぁ」


足を止めてギュッと抱き着く。


「お、おい!ここ道路だぞ」
「夜だから人来ないよ」
「…はぁ」


先生は渋々私の肩に腕を回して頭を撫でた。


「もう絶対言わないから」
「おう」



春、桜桃の季節




(2010.04.01)
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