散歩がてら一人で堤防を歩いていたら、見たことがある人影が2つあった。


「風早!龍!」
「おーみょうじー。何してんの、こんなとこで」
「んー、散歩」


そう言いながら2人の隣に腰を落とす。


「そういや今日はみょうじは黒沼ん家行ってないの?」
「用事あったから断ってたんだけど、さっきその用事もドタキャンされちゃった」


私が苦笑しながら言うと風早はごめん、と眉を寄せた。


「いいのいいの!龍ーマル貸して!」
「えー…」
「あはは、いいじゃんかー」


マルをなかなか離さない龍に笑ってると風早の携帯が鳴った。


「ピンからだ…なんかヤな予感」
「…先生?」
「出ないのか?」


風早の携帯が切れると、今度は龍の携帯が。私の携帯のディスプレイを見ても着信は0件だった。


「なんで、2人だけなんだろう…」


私と先生が隠れて付き合ってることは、この2人は知ってる。もちろん、爽子たちも。
何か理由があるんだって!と励ましてくれる風早と、無言でマルを渡してくれる龍。


「最近先生がわかんないんだよね…どうしよう、このまま自然消滅とかだったら」
「いくらピンでもそれはないよ」
「そうかな…はぁ、もうやだ…」


マルをぎゅっと抱きしめながら、龍に愚痴を漏らす。


「は!?黒沼?」


先生の電話に出たらしい風早はそう叫んだ。


「おい!ちょっと切るなよ……エロビデオ借りたことしかわかんなかった…」
「エロ…?せ、先生どうかしたの?」
「うん、すげー気弱になってた…黒沼連れてきてほしいって」


エロビデオ借りた報告に、爽子を連れてきて欲しい、なんて…風早の携帯から漏れて聞こえてきた声は少し風邪気味に聞こえた。それならなおさら、自分を呼んで欲しかったのに。


「まあっ、爽子に会えるんだし!よかったねー風早」
「おいみょうじ…」
「はいはい、いいからちづに電話しなさい!爽子もいるから」


バシッと風早の背中を叩くと私はへらっと笑う。





先生の家の前に着くと、爽子たちはもう着いていた。


「あれ、なまえ!あんたもいたの?」
「予定ドタキャンされちゃって…」
「なんだよー、そんなの言ってくれれば呼んだのにさー」


ちづは笑って私の頭をぐしゃぐしゃになでまわした。



――ピンポーン


誰かがチャイムを押すと扉が開いて、先生が出てくる。学校以外で見るのは少し久しぶりだ。ぞろぞろと入っていくみんなをよそに、私は龍を引き止める。


「ちょっと、お願いがあるんだけど」
「…?」
「私、先生にかまかけてみようと思う。よくないことはわかってるけど、」


私は私より背の高い龍に目を合わせる。


「先生の家にいる間だけでいいの、私の隣に座ってて」
「それだけでいいのか?」
「うん、あとは私がなんとかするから。反応見せてくれれば私の勝ち、なかったら負け…よろしく」


反応あるといいな、そう言って龍は先生の家に入って行った。私もそのあとに続く。



「汚い…、こないだ掃除したのに…」


部屋に入って私は驚愕した。つい先週片づけたばかりなのに、先生の部屋はゴミだらけになっていた。


「ふう、片付けるか…」


風早たちが先生に薬を飲ませてくれているから、私は部屋のゴミ類をまとめる。
先生が眠ってからはみんなも掃除を手伝ってくれて、私が1人でやるよりもかなり早く終わった。


「…先生、1回も私の方見なかったよね」


私は体育座りで龍の隣に座る。下を向いたら涙が出そうだったから、無理に上を向いた。


「あいつだって、普段はあんなだけどそんないい加減な奴じゃないから」


みんなが私を心配そうに見ていた。龍は優しく笑って、私の頭を撫でてくれた。


「なんだおまえらまだいたの、か…」


急に起きた先生はむくっと起き上がって言った。そして龍に頭を撫でられている私と目が合う。龍も気づいたのか撫でている手が止まって、私が目線をやると少し困ったように眉を上げた。


「なまえ、ちょっと来い!」


私のところまで歩いてくると、ぐいと私の腕を引いた。されるがままに先生の布団の上に座らされた。


「ちょっと、先生…?」


声をかけても返事はなくて、無言で先生のあぐらの中に座らされる。


「おまえらはいつまでもいないで帰れ帰れ!」
「んだよ…言われなくても俺らは帰るっつーの…みょうじに風邪うつすなよなー」


私の肩に顎を乗せて玄関を指差す先生に、みんな愚痴を漏らしながら外に出ていく。
爽子は私たちを見て顔を真っ赤にしていて。私と目が合ってごめん、と手を合わせるとふるふると顔を振った。


「おまえの勝ち、だな」


龍はそう言って微笑し玄関の扉を閉めて出て行った。


「先生?」
「何だ」
「元気になった?」


腰に回っている手に、自分の手を重ねる。


「おう、もう大丈夫だ。黒沼が治してくれたからな!」
「あのさ…こういう時はまず私呼んでよ」
「だっておまえに(霊とか)うつしたら悪いしよ…」


急に真面目な声色で言われたら怒るにも怒れなくなる。先生の腕からすり抜けて、顔が見えるように先生の横に座る。


「うつったら先生に看病してもらうもん」


ニヤッと笑いながら先生の腰に抱き着いて、先生を見上げた。


「しょうがねえなあ、俺が看病なんてお前にしかしねーんだからな」


私の頭をくしゃっと撫でてニッと笑った先生に、私は先生の唇に自分のそれを重ねる。


「じゃあうつしてもらおう」
「はっ、いい度胸だな。それじゃ、お望み通り…」


先生の腰に抱き着いていたはずなのに、いつのまにか先生に押し倒されてたくさんのキスが降ってきていて。



愛してダーリン


「こんなことする元気があればうつらないって!」




Title:ace

(2010.03.24)
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