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外へ出ないのか、出られないのか、と唐突に問われた。
そのニュアンスの違いは判っている。
けれど、なにも言わずに彼を抱き寄せた。
「……聞いてるのかお前」
呆れたような声音で彼が言った。
彼の首筋に唇を押し当てながら、服をはだけさせる。
「うん」
返事は少しだけ曇って聞こえた。
それは唇を彼の肌にあてていたせいで、その感覚がくすぐったかったのか彼は首を竦めて声を堪えた。
彼の身体は敏感だった。誰と比べたわけでもないが、恐らくそうだと思う。
唇を当てた時、舌で撫でた時、指先で触れる時、どれにも別の反応を示す。
普通の生活の中で彼は極端に他人に触れられた経験がないようだった。
それが、接触に対する怯えと共に感覚を鋭くさせる。
「っん、……ぁ、」
色の白い平らな胸に指を滑らせ、途中引っかかった尖りに指を沿わせた。
それだけで期待したような吐息が漏れて、華奢な身体が震える。
「……痛い?」
押し潰すように指の腹で触れると、彼は唇を噛んで顔を背けてしまった。
問いかけにも勿論答えない。
それならと、人差し指で摘まんで捻り上げた。
「ッ! ひ、……ヤッ」
ビクンッと反応した彼は涙を滲ませてこちらを見上げる。
その目尻に唇を押し当てて、涙の雫を掬い取った。
「痛い?」
「……い、たい」
掠れたような小さな声で、彼が答える。
さっきまで質問していたのは彼だったのに、こうして行為になだれ込むとその立場は一転する。
逆に言えば、こうして触れる時は言う事を聞かせているから、普通の時には彼に出来るだけ融通をきかせようとしていた。
贔屓と言われたらそれまでだが、一応は既存のルールの範囲内でやっている。
それを惚れた弱みと言うんだ、と和泉くんは笑っていた。
この気持ちをそう言い表すのかと、納得した覚えがある。
「痛いだけ?」
「ンッ、あ、……ヤ、そこばっか、……ッ」
邪魔できないように彼の腕を頭上で拘束していた。
抵抗を封じられているせいか、首を横に振って嫌だと伝えてくる。
その仕草が酷く幼く見えた。
胸の中を熱いような冷たいような不思議な感覚が走る。
「西くんが、ここ、好きみたいだから」
「やッ、……ッちが……」
片方を唇で摘まんだ。
軽く歯を当てて、もう片方と同様に捻り出す。
すると高い声を上げて彼が身体を捩った。
腰をこちらに擦りつけるようにしてくるが、どうやらこれは無意識のようだ。
「違わない」
「ん、ンッ……あ、あッ、ヤ!」
「こんなに感じてたら、好きって事だよ」
服の上から性器を撫で擦る。
すると彼は頬を赤く染め、恥ずかしそうに目を伏せた。
胸を弄られるだけで勃たせたのを、知られたくなかったらしい。
「腰も、揺れてた」
「!!」
窮屈そうにしていた前を開いて、彼の熱に直接触れた。
無意識の行動を指摘されてショックを受けている彼は、されるがままだ。
何度か擦り上げると、彼の性器は先走りの液体を零して快感に震えた。
その性器の後ろへ指を伸ばしかけ、ふと先日教えられた事が頭の中に浮かんだ。
「西くん」
「……?」
「和泉くんから前に、体位には色々あって、と教わったんだけど」
「!!」
彼の顔色がみるみる青ざめていく。
それを見ながら、奥の窄まりに指を含ませた。
「……試したいのがあった」
させてくれるよね、と一辺の疑いも無く言い放つ。
彼は怯えたようにこちらを見上げ、無言のままでいた。
「あっ、あ!…ふ、ぁ、ああッ」
もう堪える事を忘れたような嬌声が部屋の中に響いていた。
彼の足を抱え上げて肩に担ぐと、繋がった部分がよく見える。
腰を支えながら突いて、その度に泣きそうに歪んでいる彼の顔を覗き込んだ。
その頬に残っている残滓を舌ですくい取る。
彼は先程、一人でイッてしまった。
突き入れられる穴を観察されるのが余程感じるらしく、数度抜き差しするだけで白濁を吐き出した。
高く腰を上げているせいで、それは彼の胸や頬に散ってしまった。
それを少しづつ舐め取りながら腰を進めると、彼は自分から腰を揺らして善がっていた。
「ほら、……締まってる」
「ふ、あッ……あ、ンンッ」
突き入れる速度を緩めないまま彼の手を取って、指をそこに当てさせた。
ヒクヒクと震えながら性器を飲み込んでいる穴に触れ、彼は恥ずかしそうに目を逸らす。
ぎゅ、とまた中が強く締まった。
羞恥は今の彼にとって快感でしかないらしい。
「!」
彼の小さな指を、突き入れる性器に沿わせて中に押し込んだ。
柔らかい内壁に触れて、彼は驚いたようにこちらを見上げる。
「締まるの、感じた?」
問いかけると内壁はより強く指を食い締め、まるで離さないとでも言うようだった。
どう?、とその感触の感想を問うと彼は言葉に詰まって唇をぱくぱくと動かした。
言葉にもならないらしいと思ってその指先を引き抜いてあげた。
濡れたように光る、その指先に舌を這わせる。
「!!……やめろ、何して……」
一気に赤面した彼が、手を引っ込めてしまった。
それを名残惜しく思って見つめていたら、彼は戸惑って視線を彷徨わせている。
「……何なんだよ」
す、と手が伸びてきて頬に触れてきた。
そこに同じ様に手を重ねて、手のひらに唇を押し当てる。
そのまま舌を伸ばし、指の隙間から伝って手のひらを舌で辿る。
熱っぽく見つめてくる彼の目と視線を合わせながら、人差し指を先を軽く噛んだ。
「ッ……」
「痛い?」
「……くない」
困惑したような表情で、彼が呟いた。
そんな顔のわりに中はぎゅっと締まって、その反応くらい自分で判っているクセに、表情には出さないよう努めているようだった。
それなら、もう少しだけ騙されていよう。
「西くんの……」
ゆっくりと抜き差しを始めながら、口を開いた。
「もの、全部……勿体ないから」
全部もらう、と呟いて彼の目尻の涙を舌で掬う。
精液も、涙も、唾液も、全てが自分の為のものだと思う事にしていた。
彼を抱いてる時だけはそれが許される。
「馬ッ、鹿……何言っ、……」
漸く意味を理解したのか、彼が条件反射のように悪態をつく。
それを遮るように口づけた。
あとはただ、唇を触れ合わせたままお互いの熱を上げる。
外へ出ないのか、と問われた。
扉の外にある、彼の生活する世界に興味はある。
……出ていけないこともない。
ただ、自分がそれを欲していないのも知っていた。
彼がここに来て、自分に抱かれる、その事実さえ揺らがなければ、他には何もいらなかった。
「西くん」
いつか世界が壊れるような時がくるのだとしても、彼だけは此処にいてくれたらいいのにと願っていた。
2011/05/26
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