Sleeping







 コンビニから戻ってくると、西がソファで居眠りしていた。
 朝っぱらからベッドで運動させたせいで疲れたんだろう。
 こいつがシャワーを浴びているうちに出かけたから、まだほんの10分くらいしか経っていないはずだ。
 でも、西はすっかり熟睡しているようだった。
 昨夜は随分無理をさせたから、本来なら今朝はやらないつもりでいた。
 それを、西が自分でぶち壊したんだから仕方ない。



 
 名前を呼ばれたように思って目を開けると、西の白い背中が見えた。
 それが縮まるように背を丸めるから、何だと思って見ると、泣いているかのような堪えた声が聞こえ始めた。
 同時に濡れた音が僅かなベッドの揺れと共に伝わってきて、耳を疑う。
 西は、自慰をしているようだった。
 まさか、と思うが視界に入ってくるのはそうとしか考えられない映像で、俺は暫し言葉を失っていた。
『……も、……い、ずみッ』
 身体を丸めた西が、喘ぎと共に呼ぶ。
 その聞いたこともないような甘えた響きに心臓が跳ねた。
 快感に悶える西の様子を見ていると、後ろにまで指を入れているのが判る。前だけじゃ物足りなくなったんだろう。
 より強い刺激を求めて俺の名前を呼ぶ、その姿に煽られた。
『ッぁ、…も、イクッ、……ぁ、いずみッ』
 涙混じりの声が聞こえてくる。
 腰を揺らしているのまで見えて、全身が熱くなるような気がした。
 気がついたら手を伸ばしていた。
 あまりにがっついているようでつい誤魔化すような言葉を吐いたが、西が硬直しているうちにその手を捕まえる。
 名前を呼ばれたって事は、期待されてるって事だろう。
 なら、俺の手でイかせてやろうと思った。
 自分でしていたのがバレて、案の定西は真っ赤になってキレていた。
 逆切れっていうのかこういうのは?
 恥ずかしがる様子が面白くてつい弄り回してしまう。
 そのまま行為になだれ込んで、いつものように抱いて西がぐったりとしたところで俺はベッドを出た。
 シャワーを浴びて出てくると西がようやく起き出して、すれ違いにシャワーを浴びに行った。
 あまりにフラフラしているので大丈夫かと聞いたら、誰のせいだと恨めしげに言われたので、俺は珍しく親切心を発揮して朝飯を買ってきてやることにした。





「……で? 何でこいつは俺のシャツ着てんだ?」
 しかもハンガーにかけておいた新しいやつを。
 コンビニの袋をテーブルへ置きソファに近づくと、西は明らかにサイズの合わない俺の制服のシャツを着ていた。
 髪をちゃんと乾かしていないらしく、襟が薄っすら濡れている。
 わざわざこれを着なくても何か他に……と思って思い出した。
 さっき勝手に西の服を洗濯機に放り込んだんだった。
 ベッドの下に散乱していた服は、昨日着衣のまま始めてしまったせいでだいぶ汚れていた。
 一緒に洗濯して、着替えを何か出しておこうと思って忘れたんだ。
 シャワーを浴びて出てきた西は、服が無くて部屋を探し回った挙げ句このシャツを着ることにしたんだろう。
 そういえば廊下に点々と水滴が垂れていた。それは一度俺の服の入ったクローゼットへ向かい、引き返している。
 未だに西はこの部屋に慣れておらず、借りてきた猫のように挙動不審になる時がある。
 今も、勝手に服を出すという考えに至らなかったようだ。
 制服は窓際のハンガーにかけてあった。よく見える場所にあったから、それで手に取ったんだろうと予測する。
「……西」
 声をかけてみるが反応はなかった。
 横に座るとソファが僅かに軋んで、西の頭が揺れる。
 その頭を抱き寄せ、放置されていたタオルで髪を拭った。
 俺と同様真っ直ぐでクセのない髪は、黒く、全く痛みがない。
 でも似ているようでいて手触りは違っていた。西の髪は柔らかく、一本一本が細い。
「……ん、」
 西が薄っすらと目を開けて、俺を仰いだ。
 髪を拭く手を止めて見下ろすと、瞼が再び閉じる。
 コトン、と俺の方へその身体が倒れてきた。
「……」
 西は寝起きが非常に悪い、それはよく知っていた。
 今も恐らく俺を認識していなくて、こちらに倒れてきたんだろう。
 いつもの西なら、俺を見て威嚇するか怯えるかのどちらかだ。
 タオルを置いて西の身体を膝の上へと引き寄せた。
 華奢な身体を抱き締めると、少し冷えているのが判る。
 濡れたままでこんな格好をしていたからだろう。
 風邪を引くんじゃないか? と思って西の頬に触れる。
 冷たい肌に俺の熱を移すようにして撫でた。
「んー、……」
 寝ぼけたような声を上げた西が、俺の手にすり、と顔を押し付けた。
 その甘えるような仕草にドキリとする。
「西?」
 起きていて俺をからかっているのかと、訝しみながら声をかける。
 しかしそれに対しての反応はなかった。
 ただ身体が寒いから、近くの熱に近づきたい、そんな欲求のようだった。
 それなら、と思い西の身体を抱き締める。
 二人羽織のような格好で膝に乗せていると、冷たい背中が俺の胸に押し付けられた。寄り掛かって、体重を預けてくる。
 俺の右肩には少し濡れた髪が当たっていた。
 その冷たさよりも、完全にこちらに身体を任せている西に、気を取られる。
 こんな事は今までになかった。
「……」
 戸惑いながらも、手を伸ばす。
 眠っているかと確認しながら、顎に手をかけた。
 仰向きにさせると僅かに唇が開いて、誘うように見える。
 そのまま唇を合わせて、何度も離れては触れさせた。
「ふ…ぅ、……んんッ」
 自分から口を開いて、俺の舌を受け入れる西の反応は、明らかに今までにないものだった。
 心地良さそうにキスを受けるなんてのは、いつもの西にはまずない。
「ぅ、ん、……ぁッ」
 大きすぎるシャツの下から手を入れて、胸の尖りを摘まむ。
 ぴくん、と身体が反応して掠れた喘ぎが漏れた。
 声を堪えないでいる西というのも珍しくて、つい調子に乗ってしまう。
「んッ、あ、……ぁあッ」
「……もう尖ってるな。気持ちいいのか?」
「、あッ……きもち、い、ッ」
 舌っ足らずの甘えた声で答える西の表情はぼんやりとしていて、まだ夢から覚醒していないようだった。
 こんな珍しい反応が見られるのも、寝ぼけている間だけだ。
 そう思ったら、今のうちに堪能しておくかと開き直る。
「下は? 触ってほしいだろ」
「ふ、……ぅ、あッ」
「触らないでいいのか?」
「さ、……わッて、……」
 耳朶に唇を押し付けて、そっと囁くと西は腰を揺らしてねだってくる。
 下肢に手を伸ばし、胸も同時に弄りながら性器を擦り上げてやると腰が浮く程跳ねて快感に喘いでいた。
「ッれて、……」
「ん」
 腰を擦りつけてくる動きで、西が何を求めているかは判っていた。
 それでも一度聞き返すと、性器を擦る俺の手に両手を重ねてくる。
「入れてッ……ないと、イけないッ」
 和泉ィ、と喘ぎ混じりに呼ばれて我慢が効かなくなった。
「……ッとに性質が悪い」
 何なんだこのギャップは。絶対に西は他人の前で居眠りなんかするべきじゃないと思う。
 どう考えても危険だ。寝起きが悪いとかそういうレベルじゃなく、幼児化しているように感じる。
 眠くてグズっている、まるで子供だ。
「ひ、あッ…あああぁッ」
 後ろからゆっくりと押し入った。ズッ、ズッ、と奥まで進んでいくと西はいい声で鳴いた。
 正気に戻る前にと、突き上げを激しくして余計な事は考えさせない。
 思考の全てを奪うように腰を打ちつけた。
 ソファの軋みと、内壁と粘膜の擦れる濡れた音だけが響く。
「ぁ、あッ……んッ」
「後でまた怒るなよ? お前が誘ったんだからな……」
 そっと囁いた声は、快感に喘ぐ西にはほとんど届いていないようだった。






2011/05/20

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