Choco(後編)

【武西続きです】










 西の様子から判ってはいたが、どうやら彼はこういう行為に慣れているらしい。
 非常階段からマンションの外に出るとそこから建物の影に入り、唐突にそれは始まった。
 口でするから、と言うのをやりたいようにさせていたら、西は慣れた手つきで俺の下肢だけを寛げた。
「……」
「……ん、……ふ、ぁ……何だよ、」
 俺のモノを銜えて舐めはじめたところを凝視していたら、西は居心地悪そうに俺を見上げた。
 ただでさえ身長差があるのに、跪かれると本当に小さいなと思う。
 俺は目を細めて笑って、今思ったことを突っ込むべきかと暫し考えた。
「西、さ。……慣れてるんだ? こういうの」
「そうだな」
 短く素っ気ない言葉で答えて、西はまた俺の性器を銜え込んだ。
 喉奥にまで飲みこんで、唇で締めつけてくる。
 うん、つまり男とこういう行為に慣れていて……。
「相手はあの部屋のメンバー?」
「ッ!!……ケホッ……」
 急に咳き込んで、西は顔色を紙のように白くしてこちらを見上げた。
「ガンツスーツ、扱いが上手いな」
「そ、……こんなの、自分でも着てるモンだし……」
 ふうん、と相槌を打ってからすぐ側の花壇の縁に腰掛けた。おいで、と西の肩を引き寄せる。
「こういう行為のために部分的に脱がすのが、……上手いって意味だけど」
 間近で覗きこんだ西の表情は凍りついていて、唾液に濡れた様になっている唇がやけに色っぽい。
 何だかもっと追い詰めて、苛めたくなってしまう。
 これはそういう意味の『気になる』だったのかと今更ながら思った。
「誰? 玄野? それとも加藤?」
「……違う」
「じゃあさっき球の中の男と話してた、再生したい相手……」
「違う!」
 急に叫んで、西は俺から身体を離した。
 そのまま逃げて行きそうなのを腕の中に閉じ込めて、抱き締める。
「は、なせッ!」
「なんで?」
「な、……んで、ッて……」
 面食らったように腕の中の西が俺を見遣る。
 それにゆったりと笑みかけながらも、腕の力は緩めなかった。
「……可愛いなあ」
「ハァ!?」
「弄り甲斐がありそうで、……つい我を忘れそうになる」
 忘れるな、保て、と叫びながら西は俺の顎を下から押し上げた。
 猫にバタバタと抵抗されているようで可笑しくて仕方ない。
「西」
「な、……何だよ」
「途中、なんだけど?」
 こっち、と半勃ちのまま放置されていた自分のモノを指差すと、西は困ったように一瞬視線を伏せた。
 伏し目になった目元も妙に色っぽいなと思う。
 手を伸ばして頬に触れたら、訝しげに睨まれてしまった。
 やれやれ、難しい中学生だな。
 色気と可愛さのバランスがすぐに変化してしまう。
 生意気な目も怖がるような表情も、泣きそうな顔さえ俺の気持ちを高揚させていく。
 普段あまり熱くなる事のない俺にとっては、珍しい事だった。
「まあ元々、銜える必要無かったんだけどなァ……」
 抱き締めていた身体を、花壇の茂みに押し倒した。
 ガサガサと茂みが割れて、芝生のような緑の地面が見える。そこに倒された西はびっくりしたようにこちらを見上げていた。
 何、こういう展開は予想してなかった?
 つくづく子供だなと思った。
 自分が主導権を握っていると思いこんでいるうちは、相手の欲望に気付けない。
「っ……あ!」
 ガンツスーツの上にさらに服を着ている、西の下肢に手を伸ばした。
 布越しに触れて緩く刺激し始めると、だんだんと呼吸を乱していく。
 首を振って嫌がる仕草がやけに子供っぽく見えた。
 その顎を捕まえてこちらに向けると、涙の溜まった目で見つめている。
「どうした、……許して欲しい?」
 ワザと深い同情を込めて問いかけると、彼はそんな俺の態度に腹を立てたようで顔を逸らしてしまった。
 払い除けられた手を一瞬見下ろして笑い、それから西の性器を掴んで強めに刺激していく。
「は、……ぁ、あッ……ンンッ、あッ」
 パチン、パチン、と音を立ててスーツのパーツを外していった。上に着ていた服は既にジッパーを下げて、芝生の上に敷いてある。
「西、……触って欲しかったら自分で服脱いでみな」
 腰が自分から揺れるように変わってきたあたりで、そう耳元に囁いた。
 するとのろのろと腕を上げ、服を部分的に外し始める。見つめていたら、西は急に俺の視線を気にして羞恥に頬を染めた。
「どうした、それで終わり?」
「だ、ッて……」
 いいから、と促してみたら強くは抵抗せずに下肢を寛げ、俺の前に足を開いて見せる。
 膝の頭が左右寄ってきているのは、恥ずかしいからか。
 露わになった性器に手を乗せて、多少荒っぽく擦り上げると悲鳴のような吐息が零れた。
 涙の雫を散らしながら泣く西を見つめその身体の中に指を押しこむ。
 そこは柔らかく指先を受け入れていて、慣らさずとも大丈夫なんじゃないかと思わせた。
 ふと、悪戯心のようなものが沸き上がる。
「……多少の痛みくらいなら大丈夫だよな」
 呟くように言ってから、指を引き抜き腰を進めた。
 ず、ず、と多少の抵抗はあるもののそれは問題なく入っていく。
「ひッ、……ヤ、あッ……ああッ!」
 声を堪える事を忘れてしまっているらしく、静かなマンションの裏手付近に西の嬌声が響いた。
 腰を揺らして深く打ちつけながら、暫くその声を楽しむ。
 それからぐいっと華奢な身体を抱き上げて、膝に抱き上げた。
「……まあ俺は誰に見られても構わないけど」
「!!」
 瞬間、西は慌てた様に口を閉ざした。
「西は見られて困る相手がいるのか」
 玄野か、それとも加藤なのか。
 西とだいぶ前から知り合いだと思われるあの二人は、西にこんな顔がある事を知らないんだろう。
「……いない」
「そうか」
「今は……」
 そう、とまた俺は相槌を打った。
 西の言葉の中に何が込められているのかなんて、別に興味はなかった。
 ただ、今現在ここにいる西にだけ興味がある。
 俺は自分の欲求に、非常に正直な男だった。
 昔からそうだ。通り一遍、どんな相手とも問題なくコミュニケーションがとれるし、どの集団に入ってもやっていける自信はあったが、結局のところ俺は自分の為にしか動かない。
 ここへ来たのも、人を救うという気持ちは二番目だ。
 はじめはただ呼びかけの人物に気を引かれた、好奇心だった。
 もう何処に居たって地球上では戦わなくてはならない。
 それなら、この集団の中でやっていこうと思った。
 強制的に呼ばれて神奈川の黒い球に働かされるのではなく、自分の行動を自分で決めたかった。
 だから、此処へ来て……この子供に出会った。

 手を拒まれたのは初めてだった。
 ずっと神奈川のチームでも俺は何の問題もなくやってきたし、始めはミッションそのものに戸惑っていただけの相手も俺を信用して言う事を聞いてくれた。
 人を説得したり宥めたり、操ったりすることは得意だと思っていた。
 それがどうやら、この硬い殻に包まれた中学生には通用しない。
 初めはそれがなんだか気にかかった。
 どうしたらこの殻は割れるだろうと自分から関わってみて、ほんの短時間でハマってしまった。
 どうやら逆に俺の方が陥落させられたってことらしい。
 恐ろしい中学生も居たものだ。
 苦笑しながら、突き上げる速度を早める。
 西は声を堪えるように唇を噛んで、俺の肩に爪を立てていた。
「声の堪え方、教えてやろうか?」
「ん、……あッ、……ぁ、……」
 身体を起こした俺の上に座らせ、軽い身体を持ち上げて、下ろしながら突くという動作を続けていた。
 普通の体重なら疲れるところだが、ガンツスーツは着ているしこいつは軽いしで、無茶な動きがいくらでも出来る。
「……西、こっち向けって」
「う、……ッん、…あ、ッン…」
 射精しかけていた性器を強く掴むと、ビクンッ細い身体が強張った。
 泣き濡れた目がこちらを見上げて、不安げに揺らいでいる。
「イク時、……叫ばないように」
「!……ッ、ふ、ぁ……」
 唇を重ねて、全ての喘ぎと悲鳴をそこに押し留めた。
 腰の動きを早め、西が感じて締めつけてくる部分を何度も突き上げる。
 そうやって追いつめると西は目を見開いて、快感にぼろぼろと涙を零した
「ンンッ!……ん、く、……ッふ、ンン」
 口を塞がれていて叫ぶ事もできず、ただ俺の腕に爪を立てて西は泣きながら白濁を吐き出す。
 中も強く締めつけてきて、俺は最後突き上げてから一気に引き抜き外に向けて精液を吐き出した。
 流石に中に出しては始末が難しくなる。
 まだこんなことを気にする余裕があったかと、苦笑した。
 一瞬だけ、本当に我を忘れていた事に気づく。
 自分がそんな風になるとは思っていなかった。
 誰に対しても同じ対応をして、同じ冷静な思考でいられると、……そういう人間だと自分では思っていた。
 跡形もなくそれが崩されて、初めて気がつく。
 ここまで欲しいと思うような相手が、今までいなかっただけなのかと。

「……西?」
「う、……ん」
「起きられるか?」
「腰がだるい……」
「……まあ、そうだろうな」
 はは、と笑うと恨めしげな視線が向けられた。
 それに負けじと笑顔で対応してみる。
 すると西は目を逸らして、深いため息をついた。
「アンタ、……意味判んない」
「誘ったのは西だろ?」
「……そ、そう……だけど!」
 上の部屋に一度戻って、食事の為にコンビニから持ってきていたウエットティッシュだけを手に下に戻ってきた。
 玄野達はまだ戻っていないようだった。
 黒い球の中の男も勿論出てきてはいない。
 しん、とした室内に先程置き去りにしたチョコレートの包み紙と僅かな甘い匂いがしていた。
 そういえば昔、カカオは興奮剤のような効果があると聞いたことがある。
「……」
「オイ、……戻るんだろ?」
 服を整えて何とか立ち上がった西が、こちらを振り返った。
 曖昧に笑って、俺はその身体を支えながら階段に向う。
 電気系統の故障でもうこのマンションのエレベーターは動いていなかった。
 自分で上るというのを無視して抱えて上がったら、不満げにしつつも本当に身体がキツイのか黙り込んだ。
 あの黒い球のある部屋はかなりの高層階だ。体力は温存しておいた方がいい。
 ふと、マンションの表に黒い集団が集まっているのを見つけた。
 ダンボールや色んなものを運んで並べている。
 風が山積みにした箱を背負って動いているのがここからでもよく判った。
 同じ様に見ていた西が、舌打ちをして視線を逸らす。
「……またチョコレートもらってきてやろうか」
「ああ? 何言ってん……」
「それが理由とスイッチと、……言い訳になるんなら」
「……」
 追い詰めてばかりもいられない。
 少しの逃げ道と、猶予を持たせていなければ張りつめ過ぎたピアノ線のようにプツリと切れてしまいそうだと思った。
 俺に気を使わせるとか、かなり珍しい事なんだが気づいてるのかこいつは?
 まあ、言わないでやっている分気付かれて抵抗されても困るんだが。
「……好きにすれば」
「ああ、……じゃあ好きなようにする」
 明後日の方を向いてしまった小さな身体を抱いて、足早に階段を上がる。
 俺は必死に笑いを堪えていたが、密着している身体にはその振動が伝わっていただろうと思う。
 それでも西は何も言わない。
 無言ならそれは肯定ととる。
 当然だろう? 初めから俺は、自分のいいようにしか解釈しない男だからさ。
 西もそれがだんだんと判ってきているんだろうなと思うと、笑いを止める事など暫くできそうになかった。








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意外と人気らしい武田を続けてみた。
笑顔の割にドSだといいなっていう、妄想。


2011/07/13

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