Perfume
目を覚ましたら、不自然に身体が拘束されていた。
何だと思って身体を捩ると、すぐ目の前に和泉の顔があって息を飲む。
心臓が止まったかと思うくらいに驚いて、硬直した。
「……」
息を潜めて見ていると、和泉は少し眉を顰めたくらいで、まだ深く眠っているようだ。
そっと相手の腕を退かして、向き合った形の拘束から逃れようと身体を反転させる。
すると急に和泉の腕が動いて腰を抱き寄せられた。
元から抱き枕のようにされていた身体が、裸の胸に押し付けられる。
「……!」
息が苦しくなって、和泉の身体を押し退けた。
離そうと腕を突っ張った時に、下半身に触れた違和感に気がついて、布団の中を覗き込む。
「ッ……」
馬鹿、なに勃ってんだよ! と和泉の髪を引っ張ってしまいたくなる。
朝勃ちは生理現象だろうから、まあ仕方ないかとも思う。……けど、昨日あれだけしておいてよくそんな元気が残っているなと呆れる気持ちを抑えきれない。
「……わ、」
ベッドを降りようとしていた身体を後ろから抱き寄せられていたから、和泉が力を込めると自然と剥き出しの性器が俺の下肢に押し付けられる。
いつも入れられている場所に熱が擦りつけられるだけで、身体が火照った。
まるで条件反射だ。顔にまで熱が集まるのを感じる。
「……、はなせッ」
本当に寝てるのか? と訝しみながら慌てて押し退けると、やっと腕が外れた。
和泉をベッドの向こうへ押し遣ってから改めて布団の外へ出ようとすると、裸の自分の下肢が笑えない状況になっていた。
「マジかよ……」
冗談だろ、とぼやいた。たったあれだけしか触れられていないのに、俺のモノは完全に形を変えている。
ため息をついて、性器に手を伸ばした。
背後を振り返ってみるが、和泉は大人しく眠っているようだ。
ならいいか、と思ってベッドサイドからタオルを取る。
昨夜、和泉が後始末に使ったものだ。その前にシャワーを浴びたから、そんなに汚れてはいない。
片手で擦り上げ、少しづつ熱を上げた。
そういえば自分で触れるのはだいぶ久しぶりかも知れない。
いつも和泉の部屋か、ガンツ部屋で抱かれている時に空になるまでイかされて、自慰をする必要がなかった。
「ん、……」
吐息で少し乾いた唇を舐める。呼吸がだんだんと早くなっていって、声を立てないように注意を払った。
背後には、和泉がいる。いつも好き勝手してくるあいつの手を逃れてこんなことをするのが、楽しく感じられた。
和泉の言葉に逆らうとキツイ責めが待っている。
それは全てを管理されるようで悔しかった。
だからあいつの目を盗んでこんな事をする、その背徳感が俺の快感を早めている。
「ん、……ぁ、…ふ」
両手で擦り上げているとだんだんと先端が濡れてくる。
滑りを伸ばすように扱き上げて、シーツに顔を押し付けた。
声が堪え切れなくなりそうだった。じりじりと焙られるような緩い快感は、焦らされるばかりで苦しい。
もっと強い刺激が欲しくて、先端を指先で押さえつける。
そこを強く押すと中から透明な液体が溢れた。
無意識に腰が揺れる。唇を噛んでシーツに顔を伏せると、ふわりとコロンの様な匂いがした。
どくん、と身体の中の熱が高まった気がする。
「ぁ、……ヤ」
昨日の行為の間、ずっと触れていた香りだ。
和泉の髪や服、部屋からも常に漂うあいつの匂い。
鼓動が速くなった。中々高まっていかなかった熱が、破裂寸前まで追い込まれていく。
俺に触れる時、和泉は痛いほどに括れを擦り上げる。それを真似て、両手で愛撫した。
「ふ、ぁッ……い、ッ、みッ」
無意識にその名前を呼んでいた。タオルにいつ吐き出してもいいようにしているのに、いつまでも絶頂は訪れない。
とろとろと濡れて涎を垂らしているような性器は、震えながらもっと別の刺激を欲しがっている。
「……ん、……」
身体が欲している刺激が何かは、判っていた。
涙で歪んだ視界を、一度手の甲で拭う。
それからシーツの上で身体を丸めて、手を性器の奥へと伸ばしていった。
「ッ、……は、……」
口を閉ざしていた入口へ、爪の先をゆっくりと埋め込んでいく。
自分では一度も触れた事のないその場所は、思ったよりも柔らかく、抵抗もないまま指を飲み込んでいった。
「ぁ、んッ……」
ギュッ、と指が締め付けられる。懸命に伸ばした指先が、イイ場所掠めた。
でも触れたのはその一瞬だけで、なかなかその場所にまで手が届かない。
「な、……んで」
涙が滲んで、また視界が曇った。
指を二本に増やして、中を探る。探せば探すほど、そこの位置は判らなくなっていって、身体の熱は燻ぶるばかりだった。
「は、……も、……い、ずみッ」
シーツに顔を押し付けたまま、縋るように呼ぶ。
いつもはこんな風にねだったところでからかわれるのがオチだから、意識のあるうちに口にした事はなかった。
快感に頭がぼうっとなって、自分の中を掻き回す指が止まらない。
くちゅくちゅと音を立てる指を回すだけでなく、抜いたり突いたりを繰り返した。
その度に身体がびくびくと震えるほどの快感が訪れる。
「ん、……ッぁ、…も、イクッ、……ぁ、いずみッ」
俺はいつの間にかシーツにうつ伏せて腰をベッドに擦りつけていた。
盛りのついた犬のような格好に、涙が滲む。
いつも嫌だと言っても与えられる、気を失う様な強い刺激と焼かれる様な快感が足りなかった。
それでも引き伸ばされ続けた絶頂が、ようやくゆっくりと降りてくる。
「もしかしてオカズは俺か?」
複雑そうな響きの声が掛けられて、俺は身体を硬直させた。
ぎゅっ、と背中から腕が回って来る。扱いている手に大きな手が重なってきた。
「!……あ、……」
「……なワケないわな。俺に触られてるトコの想像してヤってんのか」
俺の指に沿って、長く太い指が身体の中に侵入してくる。
それが少し曲げられて、グイッとある一点を強く押した瞬間、電撃が走ったように身体が震えた。
「ヤ、ッ……ん、ああぁッ!」
シーツに顔を伏せる暇が無かった。
高い声を上げながらイッて、和泉の手の中に白濁を零す。
暫く荒い呼吸が治まらず、泣き声みたいな息を繰り返した。
「……落ちついたか?」
「い、……」
「ん?」
「いつから、……起きてたんだよ」
吐息が乱れていて、震えそうになる言葉を何とか音にする。
恥ずかしくて顔が上げられず、和泉の方が見られない。
まさか、自分で擦ってるだけならまだしも後ろに入れてるのまで見られたなんて、このまま死にたいくらいだった。
「お前が、俺の名前呼んだあたり」
「!」
ニッ、と和泉の唇の端が上がった。
得意そうな顔が非常に腹立つ。
「……呼んでない」
「嘘つけ」
「……ッでない!!」
思わず叫ぶと、和泉は俺の中に埋め込んでいた指をゆっくり引き抜いた。
それからタオルで手を拭いている。
「そうか? 俺にはちゃんと聞こえたけどな」
「ッ!!」
腰を引き寄せられ、完全に勃起したモノを一気に突き立てられる。
いつの間にそんなになっていたのか、と驚いて見遣ると、和泉は苦笑交じりに言った。
「馬鹿、あんだけ善がってんの見せつけられてこうなってない方がおかしいだろ」
閉じかけていた足を大きく開かされ、片足を持ち上げられた。
その体勢のせいで、起き上がることが不可能になる。
恨めしげに見つめると、和泉は俺の足首にキスをして笑った。
「しかもイク時に自分の名前を呼ばれて、やる気にならない男がいたら不能だな」
「!!……呼んでないッ!」
「顔、真っ赤だぞお前……」
うるさいッ! と叫びながら、顔の熱さには自分でも気がついていた。
それでもどうしても認めたくなくて、俺は表情を見られないようにと和泉の頭を抱き寄せて、その髪に顔を埋めた。
また、あの匂いがする。
堪らなく身体を熱くさせる、俺にとってそれは情事の匂いだった。
2011/05/19
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