Choco(前編)

【甘めな武西です。カタストロフィ後の捏造ですいろいろと】














「あれ、あの中学生は?」
 メンバーについて行きながら振り返ると、玄野が辺りを見回した。
「西? ああ、来てないみたいだな」
「後で何か持っていこうか」
 その横で加藤が首を傾げる。
 半壊したコンビニで食糧を探しているところだった。
 玄野の手にはペットボトルやパンなどが握られている。
 少し先にはスーパーもあったはずだと、風と子供と、何人かはそちらに向かっていた。
 助け出した人々にも配れるものが欲しい、というレイカさんの提案もあってのことだったが、この街にどれだけの水や食料が残っているだろう。
 少しだけ不安になった。
 助け出してもその人々が空腹や渇きに苦しむのでは、解決にならない。
 根本を断つには少し時間がかかるから、それまでの間どうにか食いつないでほしいとは思う。
 都心からもう少し向こう、俺の居た神奈川の方はまだ被害が少なかった。
 車でもあればいくらか運んで来られるだろうに。
 ……いや、転送で出来ればそれに越した事は無いか。
 そういえばあの、ここではガンツとか呼ばれていた黒い球、あれは他と違って随分と友好的なようだった。
 玄野の言う事も聞いていたし、特にあの中学生とは仲が良いようだ。
 あれも一応人の形をしているのだから、食事をするのだろうか?
 何となく気にかかって、近くのレジからビニール袋を手に取る。
「持って帰るだろ?」
「あ、ありがとう」
 加藤がコンビニのロゴの入ったビニール袋を開いて、ペットボトルを詰め始めた。
 玄野達が同じ様に作業している間に、俺は幾らかの水とパン、菓子などを詰め込んで立ち上がる。
「先に戻っていていいか? 部屋の二人にも食糧を渡してくる」
「え、二人?」
 驚いたように見上げてくる玄野に、笑いかけた。
「俺も向こうで食べる。……後でな」
 風達もスーパーの方で休憩と食事をしているはずだった。
 玄野達も此処で食事をしていくはずだ。
 レイカさんと一緒にいたくてこちらの組についてきたが、部屋の方が気にかかってしまった。
 こういう時は動くのが一番だ。後でこうすれば良かった、なんて思うのは性に合わない。
 俺は武器とコンビニのビニール袋を手にして、マンションへ戻った。
 傍から見たらちょっと可笑しな格好かもなと思いながら、部屋に向かう。
 でもこれだけ世界が壊れてしまった後では、誰も奇異な目で見る人間はいない。
 それが少し、恐ろしかった。日常というものが壊れてしまったと強く認識させる。

 部屋の扉は開いていた。
 そのまま中へ入って行くと、話し声が聞こえてくる。
「本当に、再生も何もできないのか……」
「うん」
「いつからなんだ?」
「判らない」
「……カタストロフィが始まってから試してないからな……仕方ないか」
 あの西という中学生と、球の中の男の声だ。
 人影は一人分しか見えないから、もう一人は中に入ってしまっているんだろう。
「……早く再生してあげればよかった」
「何、言ってんだよ……」
「いつなら出来たのか、もう」
「やめろ! 俺は別に再生なんか……、ッ!!……誰だ!」
 急に西がこちらを振り向いた。
 俺は部屋の中に入る前の廊下で立ち止まる。
 西の目がみるみる大きく見開かれて、それからすぐに逸らされた。
「……もう帰ってきたのか」
「いや、玄野達はまだ」
「は?」
 俺は武器を置いて、ビニール袋を西の方へ差し出した。
「これはお前達の。……何も飲まず食わずで、大丈夫なのか?」
「余計なお世話だ」
 受け取らずに顔を逸らす西を見て、つい笑ってしまう。
 すると気味悪げな視線がこちらを向いた。
「何笑ってんだよ」
「いや、可愛いなって」
「……意味判んねぇし」
 それに、と西は苛立ったように黒い球の表面を叩いた。
「ガンツは物なんか食わない! 俺も、腹なんか減ってない。だからソレも要らない」
「強情だな。……絶対に空いてるって、来いよ」
 俺達がここへ転送されて来てから、随分時間が立っていた。
 極度の緊張状態にあるときには、人は確かに空腹を感じにくい。
 しかし身体は変わらず生きている。カロリーを消費していないはずはない。
「ほら、」
 スーツを片手だけ外してチョコレートの板を割り、欠片を西の唇に近付けた。
 驚いた表情をした西が俺の顔とチョコを交互に見つめる。
「溶けるって。早く」
 笑いながら急かすと、西は躊躇いがちに口を開いてチョコを受け入れた。
 薄い唇が僅かに指先に触れて、くすぐったい。
「……」
「何時間ぶりの食糧だよ、お前?」
 ん?、と顔を覗きこんでみると、西は悔しそうな表情で口を動かしていた。
 そんな反応が余計に可笑しくて笑っていると、足元を蹴られる。
 イテッ、と小さく声を上げて退いたら、西は口をへの字に曲げたまま俺の手首を掴んだ。
「……食べるから、それごと寄越せ」
「俺の分も?」
「……」
 ちょっと意地悪をしてそう問いかけると西は眉を寄せた。
 それでも寄越せと言うかと思ったら、少しだけ視線を彷徨わせてから『割って寄越せ』と言い直す。
 それを意外に思った。何だ、結構素直な奴じゃないか?
「……OK、割ってやるよ」
「?」
 パキッ、と軽い音がしてチョコの欠片が量産されていく。
「……オイ?」
 包み紙を広げて、そこに並べながら一つを手に取った。
 手で受け取ろうとするのを止めさせて、直接口に近づける。
「手、外すの面倒だろ。ほら」
「……な、んでこんな」
 顎を引いてこちらを見つめる西の唇に、軽くチョコレートを押し付ける。
 とろりと柔らかくなったそれが俺の指と西の唇を汚した。
「……面白いから」
「は?……意味判んねえし」
「はは、……ま、そうだよな。俺も判らない」
 笑いながら見つめていると、西はヤケになったように口を開いて俺の指からチョコを受け取る。
 ぺろりと薄い舌が唇についた汚れを拭う、その仕草に色気が混じって見えた。
 俺は自分の指についたチョコを舐めて暫し考える。
「……」
「……次」
 無言になった俺に、西が口を開けて催促してくる。
 鳥の雛の口に餌をやっているような気分だったが、どうも別の意味に変わってきそうだった。
「……ん」
 結局最後の一欠片まで、西の口に収まった。
 溶けたチョコの汚れまで、柔らかい舌が俺の指から拭っていく。
 その性的な動きに俺は目を細めて笑った。
「誘ってんのか?」
 ぺろ、と赤い舌が俺の指を舐めて離れていった。
「そうだったら?」
 目を眇めてこちらを見る、西の表情は今までと何処か違っていた。
 再生だとか何だとか、さっき話していた事と関係しているんだろうか。
 妙に刹那的で、自暴自棄に見えてしまう。
 まるで自分を痛めつけているような、そんな目だ。
「うーん、……外行く?」
「……え」
 驚いたように見上げてくる西は、俺のこんな反応を予測していなかったようだった。
 ああやっぱりな、と思う。
 こいつはどうやら、拒絶を想像していたらしい。
 そうやって自分から傷付くように仕向けながら、……俺という厄介な相手が近寄ってこなくなるんならそれで良い、と。そういうことか。
 中学生のクセして本当に、意味が判らないくらい難儀な性格をしてる。
 だから、気になって仕方ない。
 
 唐突に、抱き締めてみたくなった。

「……行くか」
「う、……ん」
 ここに居てはそのうち玄野達が帰ってきてしまう。
 それで見られるよりは、外の方がマシだろう。
 この辺りは行動する前にだいぶ掃除をしたせいで星人も居ない静かな住宅街が広がっている。
 俯いて俺についてくる西の表情が、どこか泣きそうに見えた。








-------

初の武西ー。
エロなしー。

……アルェ?


2011/07/01

[ 18/20 ]


[分岐に戻る]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -