Voi che sapete

Voi che sapete
【----恋とはどんなものだろう?】



和泉side











 ふと目が覚めると、西の顔が間近にあった。
 風呂に入ったあと二人共ベッドの上でだらだらとしていて、こいつはとっくに眠ったのだと思っていた。
 瞬きをする間も、声をかけるタイミングもないまま唇が重なる。
「……ふ、…ンン、…は」
 俺の身体の上に胸を重ねる様に乗っかって、西は俺の頭を両手で掴んでいた。
 上から唇を甘噛みされ、斜めに唇を合わせてくる。
 濡れた舌が唇をこじ開けてきて俺は促されるまま口を開いた。
「ン、……お前、起きッ……ッ!」
 相手の頭の後ろを引き寄せると、身体を起こせなくなったのか苦しそうに呻いている。
 入ってきた舌を逃がさないよう絡め取り、軽く歯を当てるとビクンッと西の身体が跳ねた。
 逃れようともがく細い腰を抱き締めて拘束する。
 そのまま身体を反転させて西の身体をシーツに押し倒した。
「……寝たフリとかすんな!」
「起こしたんだろお前が」
 悪戯が見つかって恥ずかしいのか西は頬を上気させている。
 俺は笑いを堪えながらその唇に軽いキスを落とした。
「さっきあんだけやって、……足りなかったのか?」
「違う!」
 腕を突っ張って騒ぐ西は、気の立った猫のようだ。
 その身体を無理矢理腕の中に押し込めながら、首筋に顔を埋めた。
 ちゅ、と血管の上の薄い皮膚を吸うと僅かに赤く跡が残る。
「ッ、馬鹿……止めろ!」
「キスがしたかったんだろ?」
「……な、に」
 急に動きを止めた西の顔を覗き込む。
「キスの練習がしたかったんじゃないのか。……ほら」
 茫然としている西の唇に軽く噛みついた。
 ちゅ、ちゅ、と何度も触れさせて角度を変えていくと、西は目を細めて俺の背に手を回してくる。
「んッ……ふ、……ぁ」
 唇をずらすと熱い吐息が漏れた。
 ふと一瞬、違和感に気付く。
 快感に蕩けてぼんやりとした視線を向けてくる西が、まだ俺の舌に応える余裕があるのは珍しかった。
 舌を絡め合うと濡れた音が立って、西の唇の端を透明な液体が伝っていく。
「ン、……は、ぁ……」
 短い呼吸を繰り返す、その中に甘い喘ぎが混じっていた。
 布の上から西の身体を探ってみる。
 ぴくん、とその身体が震えた。
 感じているらしいというのは、判った。
 ここまで身体が反応している時に、前はキスなどしている余裕はなかったはずだ。……俺ではなく、西のほうには。
「い、ずみ……」
「まあまあだな」
「……?」
 西は一瞬何を言われたのか判らないという表情を浮かべる。
 その唇を親指で軽く擦った。
「練習したんだろ?」
「な、……何で、知ってんだよ!」
 ガンツの裏切り者! と罵る声を聞かないフリして細い身体から服を剥ぎ取っていく。

 今更な事を言っているのが、可笑しかった。
 ガンツは隠し事が得意ではない。
 口にしてはならない事がある場合は、言い訳や嘘よりも先に口を噤んでしまう。
 そういう子供のような所のあるガンツは、西の事に対しても別に秘密を持たない。
 疑問に思えばすぐに俺に質問してくるし、人間の事に興味を持ち始めたあいつは恋愛や感情などにも勉強熱心だった。
 特に、西の感情の変化や想いには酷く敏感になっていた。
 あいつはどんな能力を持っているのか、外での俺達の様子を探れるようだった。
 だから部屋でこうして西を抱いていることも知っているし、外で逢っている事も勿論判っている。
 まさかプレイの細部までは知られていないと思うが、西の身体を酷く疲労させた後のミッションでは時折釘を刺された。
 『転送で精神の疲労は治らないんだよ』と言われて思わずため息が漏れる。
 こいつは西にベタ惚れだ。それは判っている。
 しかしこの過保護な甘やかしっぷりは何なんだ?
 こいつは西の母親か何かか?
 たまにそんな錯覚に陥って、複雑な気分になった。
 
「ガンツにはガンツの意志がある」
「……」
「お前に従順なだけの奴隷じゃねえんだよ」
「……わ、かッてるよ。んなこと……」
 じゃあその不満そうな声はなんだ?
 吹き出して笑いそうになって、俺は西の胸に唇を触れさせた。
 色の薄い乳首の先端を舌で撫でると、身体を捩って嫌がる。
 抵抗を押さえつけてそこを執拗に舐め、舌で潰し続けたら泣き声のような喘ぎが漏れ始めた。
「……なんで、」
「ん?」
「女、じゃ、……ないのに、そんなとこッ」
 恥ずかしそうに頬を染めている西の色香に、一瞬我を忘れそうになる。
 それを必死に押し留めて、俺は指先で尖りを摘まみ上げた。
「あッ!……い、……たいッ」
「そうか? そこまで強くはしてないけどな」
 敏感になっている場所を弄られるのが辛いらしく、涙目で見上げてくる。
「何で、……入れられればいいんじゃ、ないのかよッ」
 手の甲で目元を擦る仕草が、まるで子供だった。
 ひく、と泣き出すのを見つめて唇の端を上げる。
「確かに用があるのは下だけだ、が、……お前をからかうのも楽しいからな」
 太股の裏を掴んで持ち上げると、西は一瞬傷付いたような瞳を向けてくる。
 なんだ、そのほうがお前は良いんじゃなかったのか?
 そんな顔するのは……お前の方が卑怯だ。
「ガンツに、……俺の分も優しくしてもらっただろ」
「あ、……ッや、……待っ、」
 腰を打ちつけて、深く、浅く、何度も突き上げて動きを早くしていく。
「あいつは俺の思考まで良く読むようになった。……俺の逆をすればお前が抵抗しないと知っている」
 俺の声は、突き上げる動作に翻弄されている西には殆ど認識されていない。
 それは判っているから、余計に気が緩んで言葉にしてしまっていた。
「……それだけ、単純な事なんだよ。俺はお前が、嫌がる事を全部知ってるからな」
 今にも白濁を吐き出しそうに震えていた西の性器を強く掴んだ。
 根元を堰き止めイクのを妨害する。
 悲鳴のような声を上げて西が首を横に振った。
 涙が白いシーツに散って、喘ぎに甘えた響きが混じる。
「苦しむのも、怒るのも、負の感情は全て俺が引き受ける」
 だから向こうは全部あいつにやったんだ。
 囁く声はもう西には聞こえていない。
 俺とガンツのささやかで他愛ない約束を、こいつが知る事は一生ないだろう。

「愛なんて甘ったるいもの、俺は要らない」

 憎しみと怒りと執着のほうが、どれだけ強いか知っている。
 だからこれはお互いの望みだ。どちらも無理はしていない。
 
 深くまで押し入って腰を打ちつけ、白濁を吐き出すのと同時に西の性器から手を離した。
 そこは勢いよく射精することはできず、たらたらと弱くいつまでも精液を吐き出し続ける。
 気を失ったのか、西はぐったりとして動かなかった。
 その額に軽く唇を押し当てる。
 言い表す事の難しい感情が、こういう時不意に溢れてきていた。

 執着を愛だ、想いを情だと言うのなら……これは間違いなく恋愛ではあるんだろう。
 捻くれ過ぎて、どちらが表か判らなくなってしまったような気がするが。

 ……これがあいつの言う『恋』だというんなら、それは随分可笑しなところから落ちてきたものだと思った。










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和泉は自覚していて方向を捻じ曲げますが、西君はどっちにも「?」なまま無自覚なんだろうなっておもいます。


2011/06/21

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