Errand(後編)
甘ったるい、善人そうな言葉を吐くクセにこいつはちっとも優しくない。
抱えられて部屋に戻ると、ベッドの上にうつ伏せにされて裸の腰を高く上げるよう言われた。
玄野の前に全てを晒して、抜いてくれとねだる。
その安っぽいAVのような指示を出したのは玄野で、こいつはそういう趣味をしているのかと心底呆れた。
それで何で俺は言う事を聞いているんだと忌々しく思うが、抗えないのは事実だった。
鍵を外されて一度イッている身体は、少しの刺激でも反応して疼く。
ここへ来る前にも和泉に散々弄られて、熱を高められてきていた。
正直もう限界で、したいならどうにでもしてくれと自棄になっていた。
……玄野は、あいつの許しを得ている。
なら、もう玄野の指示はあいつの指示も同然だ。
それなら従うしかない、と俺は思っていた。
「ふ、ぁッ、……んッ…、もう、止めッ……くろのッ」
腰を支えている膝が震えて、もうその体勢を保っていられなかった。
先程から玄野は、俺の中に埋め込まれたバイブを執拗に弄っている。
荒っぽく出し入れしては奥を突き上げ、俺を泣かせていた。
「ホント、感動するくらい上手いこと飲み込むよな……」
「あッ、あ、ひッ……や、……ッ!!」
玄野は、何にでもカンが良い。
バイブで中を突きながら、俺の感じる場所をすぐに把握していった。
そして執拗にそこを弄り俺がイク寸前になると、急に引いて別の場所を刺激し始める。
じりじりと炙られるような快感に、気が狂いそうになっていた。
絶頂の一歩手前で弄られ続ける快感は、意識をどんどん混濁させていく。
シーツに顔を擦り寄せながら泣いていた俺は、もう意味のある言葉を発する事が出来なくなっていた。
泣いて喘ぎ、腰を自分から振って快感をねだり、全身で熱を欲しがっている。
「にーし、……オイ、生きてるか?」
ずる、とバイブが抜かれて肩を引き起こされた。
ベッドの下に太く長い玩具が放り捨てられるのを、ぼんやりと見遣る。
ぴたぴた、と頬を叩かれた。
「カンペキに飛んでんな。……悪かったよ、つい面白くてさ」
ちゅ、と頬や鼻先に玄野の唇が触れる。
キスされているという感覚は無い。ただ、柔らかい熱が触れては離れる、その心地良さを感じた。
「西、お前さ……良いわけ? 俺にこうされて?」
仰向けにされて天井を見上げると、玄野が覆いかぶさってきていた。
膝裏を持ち上げられて、足を大きく開かされる。
この先がどうなるかなんて、判り切っていた。
「……だ、ッて……あいつが、それでいいって、……」
「……西?」
口に言葉として出してみたら、いきなり涙が溢れた。
俺は驚いて、両手で瞼を押さえる。
止まれ、止まれ、と呪文のように繰り返した。
こんなことで泣くな。情けない。これじゃあまるで……。
「……好きなんじゃん?」
「ちがう、……」
「だって、そうだろ? 和泉だってこれはたぶん、……」
「違うって言ってんだろ!」
それ以上聞きたくなくて、俺は叫んだ。
耳を塞いで、目を瞑る。外界の全てを遮断してしまいたくなった。
和泉は時折俺を他人の手に渡す。
それは俺が和泉の所有物だからだ。
気に入りのモノを見せびらかす為に他人の手に渡す、その感覚でしかない。
その度に俺は、言われるがままに行動した。
他人に抱かれる時、和泉が横に居た時もある。
嫌でも指示には従った。そうするしか、なかったからだ。
俺は和泉の『気に入っているモノ』として他人に渡されたのなら、その相手に『この程度?』と言われてしまったら、それは和泉の恥になる。
失望した、と冷たい目で見られるのは嫌だった。
辛い事にも嫌な事にも耐えて、何とか乗り切って和泉に褒められると、酷く安堵している自分がいた。
でも本当は、……本当は、触れられるのなら和泉だけがいいと、ずっと思っている。
何でもないように装って隠しているけれど、それが本心だった。
「泣くなって、……西」
「うるさい」
「何かさー、……西が物凄い意地を張ってるのも判るし、和泉が本当は西に正直に言って欲しいんじゃないかなー、なんて……判っちゃう自分がヤだな。何となく」
苦笑しながら、玄野が俺の顔を覗き込んでくる。
頬に触れられて、赤く腫れてるだろう目元に唇を押し当てられた。
「俺の言ってる意味、判んない?……じゃあ帰ったら、和泉に聞いてみな。『俺が玄野に抱かれてどう思った?』ってな」
「……くろの?」
話しながら、悪戯っぽい笑みを浮かべた玄野はそのまま腰を進めて、俺の中に入ってきた。
息を詰め、シーツを掴んで衝撃に耐える。
玄野の顔が間近にあった。目を細めて、優しく俺の髪を撫でてくる。
「今日は止めとこうかと思ったけど、……据え膳だし、こーいうの仕掛けてくる和泉もむかつくし、……西が素直じゃないから、遠慮なくやっとくわ」
「な、ッ……に?……くろの、ッ……あ、ッあ、ああッ!」
ニッ、と玄野の唇がつり上がった瞬間、激しく突き上げられて声を上げた。
ガクガクと揺さ振られて意識が飛びそうになる。
漸く与えられた直接的な刺激に身体が震えた。
もっと、と求めるように中が締まって玄野の形を強く認識する。
それが恥ずかしくて、でもそれまで快感に変わって、何が何だか分からなくなっていった。
くろの、と呼びかけると俺の中に打ちつける速度が上がっていく。
余裕のない笑みだけが見えて、俺も快感に翻弄されていた。
「なあ、西……忘れんなよ? 帰ったらちゃんと、聞いてみな」
イク寸前、ぎゅっと抱き締められて耳元に囁かれた言葉は深く耳の奥に刻まれる。
聞けるわけない、と思いながらも俺は自分の望みも込めて、コクリと一つ頷いた。
「……」
玄野のアパートのすぐ近くに、車が停まっていた。
出てきた和泉に回収されてマンションへと連れて行かれる。
運転しているのは誰なのか、運転席は区切りのあるカバーのせいで全く見えなかった。
和泉はたまに、本物の銃や違法な武器、機械の類を購入しているらしかった。
そういうものの横流しの業者が、車やライトバンなどをたまに貸し出している。
その車を降りても俺は無言のまま、通い慣れた和泉の部屋へ向かっていた。
エレベーターを降りて、ドアに向かいかけ、……一瞬足を止める。
振り返ると、和泉が『何だ』という目で見下ろしてきていた。
「……、」
聞いてみようか。
玄野の戯言に唆され、そのまま口に出そうとして、声が掠れる。
「……あ、……」
俺の方を見ながら、和泉は急かしもせず文句も言わず、ただじっと待っていた。
「俺、が」
「ん……?」
「……。……何でも、無い」
和泉の顔を見ていたら、急に怖くなった。
玄野に優しくされて、抱き締められて、どうやら俺の心は弱くなってしまったらしい。
こんな事、いつもなら馬鹿らしいと跳ね退けられるのに。
言ってみようなんて考えもしないで笑い飛ばすはずなんだ。いつもなら。
「……なんだよ」
「別に、……」
俺は目を逸らして歩き出し、先に和泉の部屋の扉の前に立つ。
どうせ鍵は無いから、後から来る和泉を待たなくてはいけない。
俺は俯いて唇を噛んだ。
言葉にならない感情が全て、煩わしい。
こんなもの無ければ、きっと楽なのにと思ってしまう。
「『それ、止めた方がいい』……って言われたんじゃないのか」
側に立った和泉が、俺の頬に手を伸ばしてきた。
親指で唇を撫でられて、俺は驚きに目を見開く。
ほんの数時間前に聞いたばかりの言葉だ。まだ忘れるはずはない。
「……ま、さか」
「自分で向かわせておいて、何もせず放っておくわけないだろう」
ス、と制服の襟の折り返し部分から、小さなボタンのようなものが取り出される。
盗聴機、と判った瞬間血の気が一気に下がった。
「……聞い、て……」
「俺に、聞きたい事があるんだよな?」
問いかける和泉の声音には、いつもみたいなからかう響きはまるでない。
喉の奥が干上がった様になって、俺は言葉を無くしていた。
「……聞いてやるよ。来い」
いつもより軽い力で手を引かれ、部屋の中へと連れて行かれる。
その掴む腕の強さが優しい、と……俺は初めて感じていた。
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なんで始めから前後編にしないかというと、後編書けるテンションが次の日持続しているかが微妙だからです…w
そんなわけで、和西の強すぎる玄西ですみません。
玄西の方、ほんとうに、すみません。
和西で玉西の私が書くモノですからつい…(爆)
2011/06/16
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