Affair(後編)

【続き。西視点でエロです】










 泣いてる、と指摘されてようやく自分の涙に気付いた。
 それは感じているから勝手に流れる涙で、……と言い訳する事も出来たが、隠し続ける事が億劫になってしまった。
 触れる手のひらのぬくもりと、身体の熱が心地良い。

 俺は、厄介な感情に触れないよう、全てに蓋をして見ないふりをしていた。
 和泉が消えた苦しさも、俺がいま一人だということも、マンションの前の道に置かれたあの花々も、……見ないふりして、無かった事にしていた。
 意識を過去に持っていかれる度に思考をシャットアウトしていたら、強く手首を掴まれ面食らう。
 驚いて顔を上げた先に、桜井がいた。
 何でわざわざ俺に構うのか判らなかった。
 でもいつものように拒絶する言葉は出て来なくて、その気持ちに戸惑う。
 どうやら俺は、桜井に構われるのが嫌ではないらしいと気付いた。
 手を払ったらきっと離れてしまうから、自分からは払わない。
 だからといって手を伸ばす事は出来なくて、ただ見つめていた。
 こちらに伸びてくる手を見ながら、まるで罠にはめてしまったような罪悪感が生まれる。
 引き込んではいけないのに、そうしたら共倒れしてしまうかもしれないのに、俺はその手に縋りたくなってしまった。

 言い訳と逃げ道を用意して、せめて今だけは触れたいと思いその身体に伸し掛かった。
 そうしたら、あいつは自分から手を伸ばしてきてしまった。
 違う。そうじゃない。放っておいていいのになんで、と色んな言葉が頭の中を回る。
『……慰めたいな、俺は』
 その手を振り払う事なんか出来なかった。
 俺はいつの間にか自分から手を伸ばして、ずっと欲しかった熱に縋りついた。






「はッ、…あッ、……んんッ」
 強く抱き締められたまま腰を揺らされると、突き上げの激しさはない代りに満たされるような心地良さがあった。
 桜井は、先程の俺と位置を交換するようにして起き上がっている。
 その背後に蛍光灯があるせいで、逆光になってしまい表情はよく見えなかった。
 判るのは、俺の中で桜井の熱が高まっているという事と、快感に泣く頬を撫でてくれる手の温かさだけだ。
 でも、それだけで充分だった。
 呼吸が乱れて、揺さ振られる度に喘ぎが漏れる。
 高く声を上げると俺の中の熱は硬さを増し、桜井の呼吸も乱れていった。
「な、ッんで、……」
 桜井は突然俺の顔を覗き込んできて、困ったような表情をする。
 何、と問いかけると桜井は悔しそうに目を細めてため息をついた。
「何で、男なのにそんな……」
「カマ掘られて善がってんだよって? 気持ち悪い?」
「は!? ちがッ、……そういうんじゃなくて、何で色っぽいとか思うのかなッて!」
 何だそれ、と不思議そうに見上げると桜井はまた深いため息をついた。
「なんか、……ドキドキする」
 顔の横に手をつかれ、覗き込まれた。
「意味わかんねーかも知れないけど、西を見てるとドキドキする、……らしい」
 真面目な顔で言われて、俺の心臓の拍までひとつ飛んだ。
 リズムの乱れた鼓動を知られたくなくて、目を逸らす。
「性的に興奮してるだけじゃねえ?」
「そ、……そういうんじゃッ!」
「違うのか? ほら、止まってるけど」
 俺は笑いながら腰を少し揺らし、話を逸らした。
 桜井はまんまとソレに乗ってきて、顔を真っ赤にして熱を膨らませている。
「……もっと、」
「え、……西?」
 腰を少しずらすと、中に埋め込まれたモノが抜けかける。
 戸惑うように見つめる桜井の前で、両足を開いて見せた。抜けかけた桜井の性器に手を添えて、根元を緩く刺激する。
「もっと奥まで乱暴に突いたって、平気」
「え、ええ? ……ちょ、西!?」
「人間の身体って、結構丈夫なんだって……ほら、来いよ」
 促すと、困ったような顔をしながらもだんだんとその目に本能がちらつくのが見える。
 男は、突っ込める場所があればいい。
 たまたま今は、中の具合が良くて俺を抱いてる。
 ……理由はそれだけでいい。それ以外は、駄目だ。
 桜井が、あとで絶対に困るから。
「ンッ、ぁ、……ッ、ああッ!」
 ず、と奥まで桜井が腰を進めてきた。
 視界が白くスパークしたように感じて、この快感が久しぶりだったと気付く。
 呼吸を乱しながら無茶苦茶に突いてくる桜井の衝動を必死に受け止める。
 和泉が慣らしたせいで、俺の中は何処を刺激されても感じるようになっていた。
 だから、桜井のやり方でも感じることはできる。でも、突き上げて欲しい場所はちゃんとあって、それを微妙にずらしたように抜き差しをされると、もどかしく腰が揺れた。
 焦らされているようで、苦しい。
 じわりと目に涙が滲んで、視界が歪んだ。
「え、……あ、痛い? 大丈夫か」
「ちがう、……もっと、」
 俺の表情を見て桜井は慌てたように頬に触れてきた。
 身体を倒してきたせいで繋がりが深くなって、あと少しという位置を刺激される。
「そこ、が……い、」
「え、ど、……どこ?」
 桜井は焦ったように腰を引いてしまって、俺は首を横に振って違うと訴えた。
「奥、今の……」
「うん、……奥で?」
 ず、とまた深くまで性器が押し入ってきて、息を止めた。
 呼吸が震えて、それだけでも中がきゅうきゅうと締まるのを感じる。
「もう少し、こっち」
「ここ?」
「ンッ、……あッ!」
 少しだけイイ場所を掠って、また外れていく。俺は期待ともどかしさにおかしくなりそうだった。
「こっち?」
「ヤ、あぁッ……桜井ッ、……ッ」
 溜まっていた涙が溢れて、止めることができなくなっていた。
 泣きながら意地悪するなとなじったら、桜井は慌てたように赤面する。
「ごめん、……ちょっと楽しくなった、かも」
 頬に唇を押し当ててきて、ぐ、と奥を突いてくれる。一番触れて欲しかった場所を突き上げられて、堪え切れない喘ぎが漏れた。
「こういう時の涙って、…可愛いんだなあ。西、……ごめん、ちょっと意地悪したくなった」
 照れたように言った桜井は、謝りながら俺の感じる場所ばかりを執拗に突き上げてくる。
 その快感にも気を失いそうなほど感じて、堪え切れなくなった。
「ッ、……桜井、ッ」
「うん?」
「イッて、いい?」
 快感が苦しくて辛くて涙を拭いながら言ったら、驚いたように見つめられる。
「……イキたい」
「い、いいよッ! 別に駄目なんて言ってないし!」
「……」
 あれそう言えばそうだった、と呟いたらさらにびっくりした顔をされた。
 行為の最中、勝手にイクと怒るのは、……そうかあいつだけか。
「……なあ、西?」
「ん」
「俺さ、あんま詳しくないんだけど……それSМとかいうやつ?」
「ちげーよ馬鹿!」
 ゴツッ、と拳で叩いたら桜井は頭を押さえて涙目になった。
 ばーかばーか、と罵倒するとちょっと楽しくなる。
「あのさ、西」
「だから何だよ」
「イクのもいいんだけど、一緒だと嬉しいかもしんない」
「……」
 な?、と言われて俺は頷いた。
 ゆっくりと突き上げを始める桜井の動きに、俺の熱も上げられていく。
 これは、思考も身体も焼き尽くされるみたいな行為じゃない。
 全部が違う。どこも似ていない。なのに酷く安堵する、不思議な感じがした。

「あッ……ン、あぁッ、桜井、ィ」
「ちょ、……そんな顔で呼ぶなよ、反則ッ!」
 身体の奥に熱が吐き出されて、その感覚に酔う。
 ゴムつけ忘れたけど平気ッ!? と今更慌てるこいつは、何だか見ていて飽きない。
 洗ってくるから、平気だから、と気だるく言ったらホッとしたように俺を抱き締めてきた。
 桜井のぬくもりを感じながら、少しの間天井を見上げる。
 馬鹿だな、と自分の迂闊さに呆れた。
 もうこの手を離せない。ぬくもりを感じてしまったら、もう雨の中の冷たさが恐ろしくなってしまう。
 どうしようか、と無表情のまま途方に暮れた。

 今の俺にこいつの熱は心地良過ぎて、眠ってしまわないように気をつけなければならない程だった。
 









2011/06/09


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