Candy

【ラブラブな和西です。ご注意】










 濡れた髪をタオルで擦りながら部屋を横切る。
 ちゃんと乾かせよ、と言いながら俺の頭をくしゃくしゃにして、和泉はバスルームに入って行った。
 ソファの端のいつもの位置に腰を下ろしタオルで適当に頭をこねくり回す。
 俺は髪を拭くのが一番苦手だった。こんなもの放っておけばそのうち乾くのに、面倒なことこの上ない。
「……終了」
 生乾きの髪が首に触れて、少し冷たかった。
 でも面倒くさくてこれ以上やる気になれない。
 どうせ和泉が出てきたら、自分の髪を拭くのもそこそこに俺の頭までドライヤーをかけてくれるだろう。
 和泉は髪の手触りが好きなようだった。
 一緒に風呂に入ると頭を洗ってくれる。
 それが心地良くてたまにそのまま眠ってしまって、苦笑した和泉に揺り起こされていた。
 だから、本当に眠い時は先にシャワーを借りる。
 出てきて先にベッドで眠ってしまえば、起こされずに済むからだ。
「……ねむ、」
 俺はソファの上に丸まりながら、小さく欠伸をする。
 行為の後にそのまま眠れたら一番良いのに、といつも思っていた。
 でも、洗い流さない限り何となく情事の気持ちを引き摺っていて、和泉が横で眠っていると落ち着かない。
 しかもあいつは人を抱き枕のようにして眠るから、余計に寝るのが難しくなる。
 和泉は俺が眠れないのを知っていながらそうやって抱き締めてきていた。
 からかわれているのかと少し悔しく思う。
 あいつが、逆に慌てふためく姿なんてのを一度見てみたかった。
「ん?……」
 ふと見ると、テーブルの上にピンク色の包み紙の飴が置かれている。
 和泉の家に来た時には無かったはずだが、……俺がシャワーを浴びている間に和泉が置いて行ったのか?
 横にはカバンが置き去りにされていて、透明なビニールでラッピングされた飴が頭を覗かせていた。
 珍しいな、と思う。和泉は、甘いものそんなに得意じゃなかったような? いや、貰い物なら受け取るくらいするか。
 何しろ学校じゃあ盛大に猫を被っているようだから。
「……似合わねぇ」
 ファンシーな包み紙の飴を摘まんで、眺めてみた。
 女からだろうな、と判るような可愛らしいリボンがついている。
 和泉はこれを食うのか、捨てるのか。何となくそれが気にかかった。
 一個だけテーブルに出して、後を鞄の中に入れたままということは、一応ひと粒くらいは食べてみようと思ったってことか?
「……」
 俺は無言で包み紙を剥がした。
 丸くて小さな飴玉は、半透明のつるつるとした表面をしていて、ビー玉によく似ている。
 包み紙と同じ、ピンク色をしていて非常にファンシーだ。
 何となくこれを見ていると苛々するのは、気のせいだろうか。
 腹いせに食ってやれ、と何に対しての苛立ちか判らないままそれを口の中に入れる。
 じわり、と甘ったるい砂糖の味が口の中に広がった。
「あ、……オイ、西!」
 声に顔を上げたら、驚いた顔の和泉がこちらに手を伸ばしている。
 手元の包み紙を奪われて俺は何度か瞬きをした。
「食ったのか?」
「え、あ、……ん、いま口の中」
 和泉が深いため息をついて、頭の後ろをがしがしと掻いた。
「何だよ、飴くらいで」
「お前な……ソレなんだか判ってないだろ」
 出せ、と言われて俺は眉を顰めた。そこまでするようなことか? たかが女のプレゼントだろ?
「……」
 微妙に面白くなくて無言になった俺は、飴を奥歯で噛み締める。
 するとそれは簡単に割れた。砕いている音が聞こえたのか、和泉は慌てた様に俺の顎を掴む。
「食うなッつーものをわざわざ噛み砕くな、オイ」
 顎も口も和泉の大きな手に掴まれて、動けなくなる。
「そいつはな、クラスの女たちに話題の『惚れ薬』だそうだ」
「!?」
「勿論、そんなモンあるわけないし嘘に決まってる。ただ、ある種の興奮剤みたいな成分が含まれてんだろうって話だ。……俺に食わせようとした女から没収してきた」
 和泉が顔を近づけてきて、観察するように目を細めた。
「偽物と言い切るには、そこそこ値の張る代物らしい。ドラッグの一種か、知り合いに調べさせようと思って持って帰ってきた。まさかお前が自分の身体で試すなんて思ってなかったが」
 俺は和泉の腕から逃れようと両手を突っ張った。
 話を聞きはじめてから、溶けた飴を飲み込むのが恐ろしくなっていた。
「……まあ、試してみるのもいいか」
「ン、うッ……」
 和泉の唇が重なってきて、俺の口を塞いだ。
 溶けた飴と共に口の中を蹂躙されて、上手く呼吸が出来なくなる。
 お互いの舌の間で甘い飴の塊が転がっていく。
「ッン、……ふ、ッぁ、」
 刺激に耐えられず、こく、と喉を甘い液体が滑り落ちていった。
 塞がれていた呼吸が自由になって、触れ合った唇の間から熱っぽい吐息が漏れる。
 下唇を軽く噛まれて、そのむず痒いような快感に身体を捩った。
「飲んだな?」
 確認するように問われて俺は頬が熱くなった気がした。
 勝手にイラついて、止めろというのに噛み砕いて抵抗した、結果がこれだ。変なもの飲ませやがって、と罵倒したいのに言葉が出て来ない。
「興、奮剤…ッて」
「大した効き目があるとも思えないが、……してみるか?」
 シャワーを浴びたばかりの水分を含んだ肌を触れ合わせると、冷たいような温かいような、不思議な気分だった。
 和泉に借りた、大きすぎる服をゆっくり剥がされていく。
 焦らすように緩慢な動きで触れられるのが、酷くもどかしい気がした。
「腰、上げろ」
 下肢を脱がされる時に耳元に囁かれ、俺は和泉の首にしがみ付いて腰を上げる。
 するりと下着ごと脱がされて下肢を裸にされた。
 尻を掴まれその狭間に指が触れてくる。無意識に身体が快感を期待して、震えた。
「ン……ずるい、ッ」
「ああ?」
「お前も、飲めよッ……」
 俺ばっかりが翻弄されているようで、気に食わない。
 快感を堪えて抗議すると、和泉は苦笑して新しい飴を口に銜えた。
「ッ……ふ、……ッあ」
 口移しでそれを含まされて、俺は眉を寄せる。
「最終的に飲んだ奴が負け」
「は?、何ッ……ンンッ」
 和泉の口づけに言葉を塞がれて、俺は甘い飴の味のするキスに翻弄された。
 お互いの舌で転がされて飴はどんどん溶けて小さくなっていく。
 それは俺と和泉の口の中で、行ったり来たりを繰り返していた。
「ぁッ……」
 和泉の膝の上に引き上げられて、向かい合う姿勢のまま下から性器が押し入ってくる。
 さっきまでそれを受け入れていた内壁はやんわりと性器を飲み込んで、形を確かめるように締まった。
 和泉のカタチを改めて正気のままで感じて、赤面する。
 行為の途中、もう快感で思考が働かなくなっている時なら慣れていた。
 でも今はまだまともな意識を保っている最中で、酷く恥ずかしい。
「ん、ッは、ぁ、……ああッ」
 後ろから尻を掴まれて上下させられると、中が擦れて濡れた音が響いた。
 高く悲鳴を上げた途端、小さくなっていた飴玉を液体と共に飲み込んでしまう。
 小さく咳き込み涙目になって見上げると、和泉が笑っていた。
「また、飲んだな」
「飲ませたんだろッ」
「……効いてるのか? これ」
 腰を抱き寄せられ、繋がりが深くなって咄嗟に口から甘い喘ぎが漏れる。
 俺は両手で口を塞いで俯いた。
「折角だから、聞かせろよ」
 気持ち良いんだろ?、と耳元で囁かれて手を引き剥がされた。
 こっち、と和泉の背に手を誘導され、快感の涙を堪えながらその身体にしがみ付く。
「あッ、あ、ッン!……は、あッ、う…ぁッ」
 和泉の腕で身体を持ち上げられ重力で落とされる交わりは、いつもの突き上げのように激しくはなかった。
 けれど身体の繋がりはその分深くて、全力で抱きついているせいか余計に相手の鼓動を強く感じる。
 ぎゅ、と背に強く腕を回すとその分ちゃんと抱き返してくれた。
 その仕草が何となく嬉しくて、ずっとくっついたままでいる。
 甘えたなその格好は何だかコドモみたいだったが、もう見栄とか恥ずかしさとかがどうでもよくなって、俺は声がかれるまで快感に喘がされていた。











「なあ、ガンツー。これの成分って判るか?」
『砂糖』
「……他には?」
『香料』
「……それだけ?」
『……』
 俺の沈黙と、ガンツの表面の黒さが暫く続いた。
『1%に満たない何かが、入ってるのかもね』
「何だそれ」
 手の中の飴は、和泉の鞄からくすねてきたものだった。
 そのうちあの時の仕返しに何かに混ぜて飲ませてやろうと思っていたが、何か凄い成分が含まれているのかと思っていた俺は拍子抜けしていた。
「これ、舐めると誰かを好きになったりすると思うか?」
『……』
 ガンツの表面はまた暫し沈黙した。
『君たちはいつもその可能性を持って生きてるんじゃないのかな』
「そーゆー精神論を聞いてるわけじゃないんだけど、俺……」
 うーん、と唸ってピンクの包み紙を見つめた。
「……ってか、結局あいつに食わせても酷い目に遭うの俺じゃん。意味ねーし」
 あーもー、と投げやりな気持ちになって、ポイと空中にそれを投げた。
 それを片手でキャッチする大きな手が見える。
「ようやく気がついたのか?」
「あ」
「まあ、お前には効いたが俺にはどうかな……」
 肩を竦める和泉を見上げて、俺は眉を顰めた。
「何でお前には効かないんだよ」
「……ただの飴だって知ってるからな」
「は!?」
 素っ頓狂な声を上げた俺に、和泉は喉の奥で笑いを堪える。
「クラスの女どもが騒いでいて、俺に食わせようとしたのまでは本当だ。……ただ、これはただの砂糖の塊。そうだろ、ガンツ」
『……』
 俺は急いでガンツの表面を見遣ったが、そこは沈黙ばかりで何も表示されない。
「て、めッ……和泉ッ!!」
 声を上げた俺の頭を押さえつけて、和泉は楽しげに笑った。
「ホンモノのドラッグを試すのは、……せめて俺と同じ年くらいになったらな?」
「ざけんなッ! 子供扱いすんじゃねー!」
 腰を抱き寄せられて、殴ろうとした手を押さえつけられる。じたばたと暴れる俺の視界に、ガンツの表面が映った。
『それ、今試してもいいって言ってるように聞こえるから、止めた方がいいよ西くん』
「なッ……違う!!」
「……好奇心だけは旺盛だからな、西は……」
「違うって言ってんだろ!」
 声の限りに叫んだが、ガンツも和泉も俺の言葉など全く聞いてはいなかった。












【リク? ギャグ風味なお話】
2011/06/07

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