Impression

【和泉西前提の、突発で桑西です。ご注意ください】








 




 鎌の形をした腕の星人は、奇声を上げながら川の方へ進んでいった。
 それを見送りながら、相当あの男が気持ち悪かったんだろうなと思う。
 星人にも好み、……好き嫌いくらいはあってもいいだろう。
「……」
 俺は無言で踵を返した。
 どうせこちらの姿はあいつに見えていない。
 裸の男が歩きまわっているからか、周囲に一般人も消えていた。
 先程行列していた妖怪が粗方喰ってしまったのもあるかもしれないが。
「んー、ハンパやなあ」
 背後で暢気な声が上がった。
 どこか眠そうに聞こえるのは、こいつも他の奴ら同様に薬物を使用しているからか?
 どちらにせよ俺には関係のないことだ。
 そう思って、点々と出来ている血だまりの横を通り過ぎる。
「……なあ、」
 ギクリと足を止めた。
 さっきまで充分距離があったはずなのに、その声はすぐ真後ろから聞こえてくる。
 耳朶に唇が触れる寸前のような、そんな距離だった。
「ここに、おるやろ?」
 筋肉質で大きな腕が回ってきて、俺の肩を後ろから抱きしめる。
 俺は身動きが取れず、凍りついたように前を見つめていた。
 目の前には商店のガラス戸があり、そこに裸の男だけが映っている。
「イク前にあいつ殺されてん。ちょお、手伝ってくれん?」
 あれ、と示したのは胴体を真っ二つにされた女の星人だった。
「もうちょっとでイけたんやけどなあ……」
 ぎゅう、と俺の背中に抱きついてくる。
 こいつは何を勘違いしているんだ?
 誰かと間違えているのか。
「……オイ離せ、人違いだ」
「ん?」
 いちいち耳元で喋るのが、くすぐったい。 
 いい加減我慢の限界だった。
 俺はガンツスーツの力を使って、相手の身体を押し退ける。
「別に間違うてへんよ。俺アンタとは初対、面……」
 ステルスモードから切り替えて姿を現すと、案の定相手は驚いたように瞬きをした。
「え、え、オトコ!?」
「……それ以外の何に見える」
「オンナノコ」
「……」
 こいつ即答しやがった。
 撃っていいか? 撃ってもいいよな? 別チームの奴だし。
 丸腰でさらに丸裸な男へ、無言のままXガンを向けた。
「ちょ、待てや! ……いや、俺が匂い間違えるはずないんやけどなあ」
「匂い?」
 何を言ってるんだこいつは。
「血の匂いに混ざって、ええ匂いがしたんや」
 くん、と男は鼻を動かしながら俺の方へ近づいて来た。
 何となく気圧されるようにして後ろに下がってしまう。
「……セックスの匂い」
 銃を向けているのにも関わらず、男は近づくのを止めなかった。
 こいつ死ぬのが怖くないのか? 
 ついにガンの頭が相手の胸に触れた。そこまで近づかれて、髪の先や首筋の匂いを嗅がれる。
 犬かこいつは、と思い何となく気味が悪くなってさらに後ろへ退いた。
「……残念、そっちは行き止まりや」
 トン、と背中がガラス戸にぶつかる。
 そうだ、さっき見ていたのに忘れていた。こちら側に逃げ道はなかったんだ。
「危ないモンは、まああっちやっとき」
 のんびりとした口調のクセに、俺の手首を掴む速度は早く、気がついたら銃を奪い取られていた。
 そのまま身体を押し付けられるようにして、背後のガラス戸に縫いとめられる。
「……ああ、やっぱするわ」
「ッ……」
 くん、と唇が触れそうな距離で首筋を嗅がれた。
「ええ匂いはするし、顔も悪うない。まあ胸はぺったんやけど、ヤれんこともないなあ?」
 ぺろ、と頬を舐められるとゾッとした。
 今何か不穏な事を言わなかったか、こいつは。
「誰も無理にやれと頼んでない!」
「やー、頼まれてへんわ。俺が頼んどるんやし」
「はァ?」
「マジ頼むわ。……ヤらして」
「ふ、ざけッ……!!」
 制服の下に手が入り込んできた。
 いつの間にかシャツを引き出されていて、ガンツスーツに直接触れられている。
「本当についとるんか?……あ、マジや」
「ッ! 離せ!」
「まあええやん、同じモンついとるんやし」
 股間を弄られて、俺は身体を硬直させた。
 どうにか逃げようとして身体を捩る。
 すると一瞬だけパッと手が離れ、逃げようとした俺の身体は強制的に反転させられた。そして再びガラス戸に押し付けられる。
「スマタでええわ。流石にアナル慣らしとる時間ないし」
「勝ッ手な、事を、……ッ」
 スーツが部分的に外されていく。
 自分も脱ぐ事が多いからか、必要な外し方を心得ているようだった。
 制服を下ろされて、下肢を裸にさせられる。
 ガンツスーツも上部はたくし上げられ、下は服と同様下げられてしまい、スーツはもう身体を拘束する道具にされていた。
「んん?……何や、実は慣れとる?」
 耳元で笑うような声が聞こえて、カッと頬に血が上るのが判った。
 俯いて唇を噛む。けれど、それ以上のからかいの言葉はかけられなかった。
 身構えた自分が馬鹿らしくなる。そうだ、もうあいつはいないのに。
「もっとええ顔して。折角キレーな顔なんや」
 ぐい、と顎を持ち上げられて、ガラス戸の方を向かされた。
 店の中の人間は避難してしまったのか、無人だった。その暗い室内に、服を乱された自分が映っている。
 後ろから、むき出しになった胸の赤い尖りを指で摘まれた。小さいなあ、と笑う声が耳元でして、無意識に首を竦める。
「ヤ、……止めろ! ……ッぁ」
 閉じた股の間に熱い性器を突っ込まれた。
 それは俺のモノと沿うように下から突き上げてきて、刺激してくる。
「は、ッ、う、……ッンン」
 獣のように腰を振って、男は俺の股で性器を擦りながら快感の呻きを上げていた。
 何が楽しくて男にそんなモノを押し付けているんだか、理解に苦しむ。
「ほら、いい匂いの、ええ顔になっとるよ」
「ぁ、ッ……ン、違ッ……!」
 違わんし、と笑いながら男は俺の性器まで擦り上げてきた。
 自分のモノと重ねるようにして扱き、腰を揺らして刺激してくる。
 だんだんと熱が上がっていくのは、生理現象だ。仕方のない事、なんだ。
「ああ、ええわホント……色っぽい」
 顎を強く掴まれて、ガラスの方を向かされる。
 頬を上気させ、涙の滲んだ目でこちらを見る、あの雌猫がそこにいた。
「ッ……ちが、う」
 和泉にだって何度もされた行為だ。
 鏡の前で足を開かされて、見続けている間だけ突き上げるという嫌な遊びもあった。
 イキたくて、鏡を見つめるしかなくて、最終的には白濁でその表面を濡らした。
 認めたくない、快楽に弱い雌猫が自分の中に存在する。
 それを俺は拒絶して、否定してきた。
「や、めッ……」
 こんなもの見せるな。頼むから、見せて自覚を迫らないでくれ。
 俺は見たくないんだ。こんな自分は……いらない。
「……泣きそうな顔がそんな色っぽいって、可哀想やなあ」
 もっと泣かせたくなるやん、と耳元に囁かれながら、腰の動きがどんどん速くなっていく。
 性器を擦り上げる手も痛いほどに強く、俺の熱も上げられていった。
「ッ!!」
 男が射精の呻き声を上げる、それと同時に俺は唇を噛んで声を堪えた。
 びしゃ、と濡れた音がして目の前のガラス戸に二人分の白濁が降りかかる。
 こんなに汚したら怒られるだろうな、とぼんやりと思う。
 誰に? そりゃあ、あいつにだ。
 部屋の鏡を濡らした時には、舐める事を強要された。
 後ろから犯されながら、鏡に舌を這わせる倒錯的な交わり、そんな経験ばかりしてきた。
 こいつが嗅ぎとった匂いというのは、そのせいなのかもしれない。
「……オーイ? 生きとる?」
 ピタピタ、と頬を叩かれて我に返った。
「めっちゃ飛んどるからビビッたわ。……恋人でも思い出しとった?」
 はは、と笑って男は俺を解放した。
 男はガンツスーツの下だけを着込み、落ちていた銃を拾う。
「なあ、……今度マジでヤらしてや」
「……は?」
 慌てて身繕いをしていた俺は、耳を疑って顔を上げた。
「女で後ろ使った事もあるしな。出来ると思うわ、俺」
 だから、そんな努力はする必要ないというのに。
「無理にできるようにしなくていい」
 迷惑だ、と呟きながらステルスモードに切り替える。
 バチバチと電子の音を立てて自分の姿が不可視になったのを、後ろのガラスで確認した。
「無理やないわ。……お願いやんなあ、コレ」
 クセっ毛の頭をがりがりと掻きながら、男は何か呟いている。
 それを無視して俺は歩き出した。

「な、次会ったらちゃんとヤらしてやー。マジでそん身体、好ッきやねん! いい匂い過ぎてクラクラしたわ!」

 こいつマジで阿呆か? 
 何もない方へ向けて叫ぶ男を置いて、足早にその場を後にした。
 相手にしていたらキリがない。
 どうもペースを崩される相手で、俺は苦手だと思った。







2011/05/28

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