拍手御礼 02
▼玉西で →生身で体当たり
フローリングの床は、多少濡れても大して問題ではない。
だから、床に伏せさせた彼の中を指で慣らしながら唾液が滴るほど濡らしていても、気にすることなく行為を続けていた。
「ッ、も、……何で、……」
「何か、言った?」
潜り込ませた舌先で内壁を撫でていたら、腕に顔を埋めて必死に声を堪えていた彼が何か呟いた。
手を止めて顔を上げる。
「し、つこいッ……なに、そればっか……ッ」
「こうすると西くんの痛みが少ないって」
違うの?、と問いかけると彼は床に肘をついてこちらを振り返った。
目尻が少し赤くなっていて、潤んだ瞳が強調されるようだった。
ああキレイだな、と思う。
普段は目線の動きくらいで表情の薄い彼の顔が、こんな風になるなんて誰が想像するだろう。
思わず見惚れていたら、彼は困ったように視線を彷徨わせてから口を開いた。
「誰、に……聞いたんだ。そんなの」
「和泉くん」
「……」
スッ、と彼の顔が青ざめた。
この部屋での秘密がバレた時、和泉くんは彼を連れて行った。
それは知っている。
この身体を抱いたことも、知っている。
西くんを酷く傷つけていることも、知っていた。
「他、に……聞いたこと、あるのか」
何をされると思っているんだろう。ここにいるのは和泉くんではないのに。
震えながら問う彼の言葉に無言で返した。
答えない代わりによく解れた中へと、腰を進める。
「う、あぁッ……く、っ」
突然の挿入に驚いたのか高く声を上げた後急いで口を塞ぎ、彼はまた床に顔を伏せる。
滑らかで白い背中を見るのは好きだった。
手のひらで触れて、撫でて、そこに唇を押し当てる。
すると、ビクンと彼の身体が跳ねた。
中で擦れた何処かが良かったのかな、と思って腰を揺らすと啜り泣くような声が聞こえてくるだけだ。
突き上げても、床に縋りついていて堪えた呻きしか漏れてこない。
「……西くん」
屈みこんで、また肌に触れた。
両手で掴むには小ぶり過ぎる尻を捕まえて広げてみる。
よくこれだけ銜え込めるなと思う程、入口が広がっていた。
ギチギチにいっぱいまで口を開いているそこへ、指を滑らせる。
「っ、ひ、……ヤ、何ッ……!」
怯えたように、彼が床に爪を立てて上へずり上がろうとした。
その様子を眺めてついため息が漏れそうになる。
今は和泉くんを相手にしているのとは違うのに、彼はよく混同するようだった。
「いたいこと、しないよ」
震えている太股を撫でて、縮こまっている彼の性器を掴んだ。
ゆるゆると扱くと少しづつ反応を示してくる。
怯えている背中へ、再び口づけた。
くちづけ。それの事も教えてくれたのは和泉くんだった。
そんなものでどれだけの気持ちが伝わるっていうんだろう。
それは判らないけれど、痛みを与える行為ではないからと、何度も繰り返す。
「……、ん、……」
ビクン、とまた彼の身体が反応した。
手の中の性器もとろとろと滴を零し始める。
もしかしてこれはくちづけに対してなのだろうかと、もう一度ゆっくり唇を押し当ててみる。
白い背中へ、恭しくキスを落とす。
「な、……なに、それ」
何やってんだよ、と彼は不可解そうな顔をして振り返った。
何って、それは……。
「こうすると伝わる、習慣だと聞いたから」
「……それも、和泉に?」
「……」
そこもまた無言で通して、休んでいた腰をまた打ちつけた。
入れられてから中にようやく馴染んだのか、抜き差しが滑らかになる。
抜けるほどまで引き、腰がぶつかるあたりまで一気に押し込む。
その動きに、軽い彼の身体はずるずると前へ押し出されていく。
床に擦れる肌が赤くなっていて、可哀想にと思う。
性器を愛撫している手をそのままに、片手を腰に回して、その身体を抱き上げた。
「あ、……っひぁっ、ヤ、ああっ!!」
座った上へ重力で落とされるようになった彼は、繋がりが深くなったせいか声を上げて泣いた。
華奢で小さな身体を後ろから抱きこむようにして性器を擦り上げると、彼はすぐに白い液体を吐き出す。
とろりと指先に絡む液体を見て、目を細めた。
「西くん、……」
「な、……なんだよッ」
「こっちを、向いて」
睫毛にたくさんの涙の粒を纏わせたまま、彼は振り返る。
その唇へ、ぺろっと舌を這わせた。
「……!?」
驚いたように瞬きを繰り返す彼の目元から、滴がぱらぱらと落ちる。
頬に落ちるその滴も丁寧に舐め取って、また唇を舌で撫でる。
ちゅ、と最後に唇を重ねて吸った。
「……」
困ったようにこちらを見る彼に、首を傾げる。
「何かやり方が、違う?」
「あ、……いやべつに」
口籠りながら、『本当に和泉がそう教えたのか』ともう一度問いかけてくる。
またそれには沈黙しか返さない。
「いたいことは、しないから」
腰を抱き寄せて上下に揺らすと、細かい動きしかできないけれど彼の感じ方が良いようで安心する。
ふと思い立って、小さな尻を両手で掴みずるりと性器を抜き出した。彼の背に片手を移動して支えながら半回転させる。
「ぁッ、……、えっ!」
向き合うようにして抱き締めて、その首筋に顔を埋める。
戸惑ったような声を聞きながら腰を揺らして彼の感じる場所を突き上げた。
彼の髪に顔が触れるとくすぐったく思う。
彼の匂いを感じて、身体の芯が温かくなった。
「西くん」
「ん、んっ、……あ、ッ」
青白かった頬を薄っすら赤く染めて声を堪える彼の耳元に、呼びかける。
「……キスを、してもいい?」
「ッ……」
問いかけると、彼はキッと強い目で睨みつけてきた。
でもその表情には怒りとか憎しみよりも、羞恥が強く表れているのを知っている。
「……いつも、嫌だって言っても何だってするクセして、……ッ」
「うん、でも」
快感に震える背を撫でながら、その顔を覗き込んだ。
「キスが、したい」
「っ!……勝手にしろ!」
叫ぶその頬に唇を押し当てるといつもよりずっと熱い気がした。
「うん」
許しを得てから、俯いてしまっている顔に屈みこんでくちづけた。
始めは一度触れるだけで離して、それから何度も触れさせていく。
舌で、柔らかい彼の下唇を舐めていたら、そこが薄く開いた。
そっと舌を入り込ませると、歯列に触れながらも噛みつかれることはなく、熱い口腔に包まれる。
逃げるように縮こまっていた舌に触れたら、彼の身体が震えて吐息が漏れた。
「ふ、……ん、んぅ…」
舌を絡め取って唾液を混ぜる。するとそれだけでぎゅっと中が締まった。
吐息を乱しながら後ろに引く彼を深追いせずにいると、舌先に僅かな滴りだけを残して唇は離れていく。
「も、……するなら、早く、……ッ」
ジクジクと快感に焼かれている身体を持て余したように、彼が腰を揺らした。
それだけで煽られて、中の性器が質量を増していく。
「……うん」
求めには逆らわず、そのままそっと相手の背を床へ下ろしてまた律動をはじめた。
いつも目を閉じてガクガクと揺さぶられるだけの彼が、潤んだ目をこちらへ向けている。
腰を打ちつけながら高く持ち上げた足の、膝の上に口づけた。
「……馬鹿、」
囁くような罵倒は、吐息混じりでいつもの強さが無い。
そこからは言葉も無く、ただ快感を追いかけるだけになった。
……和泉くんから聞いたのはあれだけじゃない。
『キスをしてもいつも噛みつかれるばかりで、血の味しか体験したことがない』と苦笑していた。
ようやく、和泉くんとは別のものを彼にあげることができた。
キスは血の味ではなかった。
とろとろと濡れて、零れる、熱の籠った彼の味がした。
これだけは自分だけのものであって欲しいと、願うのをとめられなかった。
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玉男はこれでいて純愛です。
和泉が100点取って帰る前のお話。
2011/05/15
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