Voi che sapete  試し読み

Voi che sapete

「恋とはどんなものだろう?」









【玉男Side】







「……なァ、ガンツ」
 西くんはフローリングの床に座りながら、いつもの様にこちらに話しかけてきた。
「練習、したいんだけど」
 付き合えよ、と言うのを暫し沈黙のまま見つめる。
 ガシャン、とスライド式のラックを開けて中から顔を出してみた。
「戦闘の?」
「……な訳ないだろ」
「じゃあ、何の」
 西くんは、中に座ったままのこちらに合わせてラックの横にしゃがみ込んだ。
「『下手くそ』って言われた……」
「……」
 誰に、なんて聞かなくても判る。
 西くんがこうやって不機嫌になる材料なんて、最近じゃ彼の事以外にない。
「だいたい中学生の俺に何求めてんだよ。そんなに経験なんてあるわけないだろ。つーかあいつが不自然にあり過ぎなんじゃねーの」
 西くんの口から溢れてくる不満の言葉は尽きることなく、どこで息を継いでいるのかと感心するほどだった。
 どこで止まるかな、と思いそれを何とはなしに眺めながら、さて和泉くんが彼に『下手』だという行為は何だろうと考える。
 そもそも和泉くんは、西くんをからかって遊ぶ事を心底楽しんでいるようなところがあった。
 だからそう真面目に聞く事もないと思うが、言われた西くんにしてみれば聞き流す事のできない言葉だったんだろう。
 あの二人の関わりといえばミッション三割で性的交わりが七割だ。
 高確率で後者の事だとは思う。
 けれど、最近の西くんは与えられる快感や行為にようやく慣れてきたところだから、それを『下手』というのは酷な評価だと思った。
 やはりプレイの一部としてからかってみただけじゃないだろうか。
 そう言おうと思い顔を上げると、西くんは急にこちらに顔を近づけてきていた。
 ちゅ、と唇が触れ合ってすぐに離れる。
「……」
「だから、……練習させろよ」
「西く、……」
 ごめん聞いていなかった、と言う暇もなく西くんの唇が再び重なってきた。
 無理矢理に黒い玉の中へ入ってきて、こちらの膝に向かい合う様に腰を下ろしてくる。
「ッは、……ンン、…くち、開けろよ」
 唇を何度か触れ合わせながら角度を変え、舌先が唇を割って入りこんできた。
 促されるまま口を開いて、彼の舌を受け入れる。
 ぴちゃ、と濡れた音が立って唾液が混ざった。
 その温度に差異がないと、同化しているような不思議な感覚がある。
 細い腰に手を回して、こちらからも舌を絡めながら彼の口腔へ差し込んだ。
「!……ッん、ぁッ」
 小さな歯列を辿って、戸惑うように逃げていく舌を絡め取る。
 潤んでいた目元が赤く染まり、抵抗するように片手がこちらの胸に当てられた。
 トン、と押し退けるような仕草をするのに気付いて目を細める。
 抗議に似た表情を浮かべる彼を、名残惜しく思いながら解放する。
「苦しかった?」
「ち、がう!」
「……?」
 首を傾げると、西くんは頬を上気させたまま視線を彷徨わせた。
 狭い玉の中に二人で入り込んでいるこの状態は、かなり顔が近い。
 睫毛の一本までよく見える位置で、飽きもせず彼の表情を見つめていた。
「俺がやってんだから、……大人しくしとけよ!」
「……」
「動かれると、……上手くできない」
 首を横に傾けたまま止まっていると、西くんはしどろもどろになりながら言い訳を続ける。
 彼がそうしろというなら、勿論そうするけれど……それで練習になるのかな?
「相手は、和泉くんだよね」
「……ッ」
「大人しくしてくれるような相手じゃ、ないような」
「わ、わかってる! そんな事……」
 言われなくとも、とだんだん西くんの声は小さくなっていく。
 本人も頭では判っているんだろうが、どうも彼は快感に弱いところがあった。
 だから、キスをしているうちに夢中になって、心地良い方に応えてしまう。
 主導権云々よりも快感を追う気持ちが勝る、それが覆らない限り無理なんじゃないかと思った。
「……息を、」 
「え」
「口、開けて」
 西くんの顎を持ち上げて、斜めに唇を合わせた。
 舌を絡め合うと、くちゅくちゅと濡れた音が立つ。
 そっと少しだけ唇を浮かせた。
「息を、止めないで」
「ん、……ふ、ァッ」
「吸って、……吐いて、ちゃんと呼吸」
「ン、……何、お前……人工呼吸みてーな……」
 唇の触れるような距離で、西くんが笑った。
 見たところいつもより余裕があるようだ。
 呼吸困難になると彼はどうも意識が混濁するようで、それがマシになるだけで随分違うんじゃないかと思った。
 間近で重なる吐息が少しくすぐったい。
「似たような……」
「ん?」
「酸素を送るのと、同じ様に」
 もう一度唇を触れ合わせ、舌を軽く吸い上げる。
 絡む液体が甘く感じられるのは、彼の事を愛しく思うからだ。
「……想いを送る行為だと、思う」
 少し唇を離して囁くと、西くんは一瞬目を見開いて動きを止めた。
 そして次の瞬間、一気に赤面する。
 ガタゴトと背後に退こうとして、玉の天井に頭をぶつけていた。
「……お、お前なッ」
「うん」
「そ、そういう事はッ! あんま、その……真面目に言うモンじゃッ……なくて、」
「そうなの」
「そうなのッ!」
 ふうん、と呟いたら西くんは視線を伏せたまま妙に慌てていた。
 そのうち何を思ったか不意にこちらを見上げて、両腕を背に回し抱きついてくる。
 ちゅ、と唇が重なった。
「ホントは、……口ですんのも練習する予定だったんだけど……」
「……」
「それより欲しくなった。……手伝えよ」
 狭くて脱ぎ難い、と文句を言う彼の腰を抱き締める。
 下半身の服を脱ぐのを手伝いながら、何度も触れるだけのキスを交わした。
「練習、いいの?」
「……もう、……いいッ」
 早く、と言う泣きそうな吐息を愛おしく思う。
 中を指で掻き回して慣らしている間も、ずっともどかしげにしているのが可愛くて、つい焦らしてしまいたくなった。
「ガンツ、……ッ早く! ッ……」
「……うん」
 指先で広げて慣らした中は、それでもまだ完全ではなく、このまま入れれば彼が辛いのではないかと思った。
 けれど、欲しいとねだられると弱い。

 以前は奪うだけの行為だった。
 傷つけて、痛めつけて、泣き叫ばせて、こちらが精を吐き出すだけのものだった。
 それがこうして、抱き締めながら受け入れてくれるようになるなんて、奇跡のようだと思う。

「西くん、……好きだよ」
「ン、ぁッ……あ、ッ」
 腰を進めると、やはり中はちゃんと解れていなくて、強く締め付けてくる。
 それでも懸命に力を抜こうとしているのが判って、嬉しくなった。
「……西くん、痛い?」
 そっと様子を窺うようにして問いかけると、潤んだ瞳がこちらを見上げてくる。
 ぶんぶん、と頭を横に振られて安堵した。
「じゃあ、動くよ……掴まって」
 腰に乗せるようにしていた彼の身体を持ち上げて、ゆっくりと下ろす。
 それと同時に腰を突き上げ、奥へと進んでいった。
「ぁ、あッ……ん、ッ……!」
 繋がりが深くなると、背に回っていた指に力が籠って、爪を立てられるのを感じる。
 チリチリとした痛みがあったが、ぎゅっと強く抱きつかれている感触が好きで、何も言えなくなった。
 指摘したらきっと手を離してしまう。
 それよりはこの小さな痛みを感じている方が幸せだった。
「西くん、……」
「あ、……ンン、あ、ああッ」
 突き上げる動作を大きくすると、高い声が上がる。
 その耳元でずっと名前を呼んでいたら、不意に手が伸びてきて頬に触れられた。
「に、しく……」
「もう、……黙れよ、はずかしいだろ、……ッ」
 唇が重なってきて言葉を塞がれる。
 それならと、言葉の代わりにキスを深くした。
 舌を絡め唾液を啜り、赤く濡れた相手の唇を軽く噛む。
 吐息が混ざって、どちらの呼吸がこんなに荒くなっているのか判らないほどだった。
 狭い空間の中で、反響するような呼吸が絶える事なく聞こえている。

 その二人分の吐息に飲み込まれるように、他には何も聞こえなくなっていった。


       ‡




「で、上手くなったのかな西くんは」
「それを俺に聞くか?」
「キミが元凶だと思ったから」
「……まあ、確かに」
 和泉くんは額を押さえながらうーん、と唸り、暫し沈黙する。
「……元々、そんなに物覚えが悪い方じゃないんだと思うが」
「……」
「最近は悪くない」
 やっぱり、と思ってため息をついた。
「それを言ってあげたら、良かったんじゃ……」
「言うわけないだろ、本人に」
 だからって逆を言ってからかうのもどうかと思うんだ。
「……」
「……何だよその目は」
「別に、……。何とも不便な生き物だと思ってね」
 和泉くんは黒い玉の表面をぺたぺたと叩いた。
「どういう意味だそれ……」
「そのままの意味だよ。キミも、西くんも、……結局は似た者同士だ」
「……」
 くっきりとした形の良い眉が顰められるのを見て、可笑しく思う。





………続く。


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切り所が判らなくてなんとなく変な終わりですみません。
とりまこんとなかんじで、あとちょっと?前編があって、後編は全部西君サイドです。

基本的に玉西ですので、和泉はそんなに出てこないですが、一応前提っていうからにはやっちゃってる事実だけ確実にある。みたいな。

……意味不明でごめんなさい(爆)



2011/06/20

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